生徒会長に呼び出されてからおよそ一ヶ月。
生徒会長に呼び出されてからおよそ一ヶ月。
「なあ輝星、最近生徒会長のことについて調べてるって聞いたんだが、どうしたんだ」
「……ちょっと興味が湧いてな」
昼食を食べながら幼なじみが振ってきた話題に、輝星は肩をすくめた。確かに生徒会長に呼び出されてからの一ヶ月間、慣れない聞き込みに精を出して、星燃の情報を集めていた。
「へえ、お前が一度切って捨てたものに興味を持つなんて珍しい。やっぱりあの会長の美しさには敵わなかったか」
「別にそうじゃないんだがな……」
もとより、あの生徒会長の「美しさ」にはさほどの興味はなかった。ただ美しいだけ、万人が美しいと認めるであろう美しさなど、さほどの興味はない。それは呼び出しを受け、暴力的なまでの美しさに翻弄されても変わらなかった。正常な判断力を奪うほどの美しさというのは確かに稀有であり、これまでに巡り合ったこともなければ、おそらくこれから先彼女以外で目にすることもないだろうと確信できるものだった。だが、それでもやはりただ美しいだけにしか過ぎない。
「確かに会長は美しいが――おれがスケッチしたい美しさじゃない」
「じゃあなんでわざわざ調べて回ってるんだ。こういっちゃなんだが、お前が美しいと思わないものに興味を示すとは思えんぞ」
「それは、確かにそうだが――」
幼なじみの指摘に輝星はへの字にして口を閉ざす。
確かに、ただ美しいだけにしか過ぎないものだったらここまでして情報を集めたりはしていなかった。
だが、それだけではないものをあのとき目にしたのもまた事実だった。
あのとき一瞬、会長の目に宿った光。おそらくは美しいとは言われないであろう目の色。
「――いや、確かに、スケッチしたくなる美しさがあったな」
あの瞬間、どういうわけかスケッチしたくなるような美しさを感じたのも事実だった。
「珍しいな、お前がそうも素直だとちょっと薄気味悪い」
「……なんだ、いつも美しいものに対しては素直なつもりだが」
「その『美しさ』の基準が素直なように感じられないんだよ」
そう言うと、幼なじみはため息を付いた。
「……で、どうだったんだ。調べて。結論が出たんじゃないか」
「いや、集めるだけ集めたが……どうにもわからなくてな」
生徒会長のことは、軽く聞き込みをするだけでびっくりするほど情報が集まった。
成績優秀、眉目秀麗、生徒会長。
彼女のことを評する教師の言葉は信頼と称賛の二つのみ。彼女が提出した稟議はすべてが即座に承認される。生徒会塔の屋上に温室を設けたのも、そしてその温室を生徒会長室としたのも彼女が提出した稟議によるものだったらしい。
――なんとなく、教員たちが一生徒の掌の上で転がされていて、しかもそのことにさっぱり気づいてないか問題ないと思ってしまうほどに心酔しているような気がする。
圧倒的強者、学園の調停者、絶対王者
彼女のことを評する不良の言葉は畏怖と尊敬の念で彩られていた。ほんの数年前まではそれなり以上の権勢を誇っていた不良たちを、彼女は単身、そしてその美貌のみで入学早々制圧してのけたらしい。
――こうやってあっさりと話を聞きに行けるあたり、不良たちはすっかり牙を抜かれてしまっているように思える。
慈悲深い王、敵対した者も取り込む度量のある人、末恐ろしい人。
生徒会長選挙において星燃と選挙戦を繰り広げた対立候補――今の生徒会副会長が彼女を評した言葉は、呆れと敬意の入り混じったものだった。生徒会選挙で敗れた直後にスカウトされ、いまでは星燃の忠実な左腕になっている。とはいえ、他の生徒会役員から聞いた話も合わせて考えると、そうなるまでも一筋縄ではいかなかったらしい。
――確かに、呼び出しに来たときの様子といい、今ではすっかりあの生徒会長に取り込まれているようだった。
おまけに、学園の近くの店で聞いた話の中には学園祭に際して、周囲の店舗との折衝を行い、過去に発生したトラブルのためにギクシャクしていた近隣店舗と学園の関係を修復したという話すらもある。
――ここまで来ると、もはや一生徒の手に負えるものではないはずなのだ、本来は。
聞き込みの結果をかいつまんで説明すると、幼なじみが首を傾げた。
「しかしそれだけの仕事をしてるとなると、いつ寝てるんだ……。それは調べなかったのか?」
「へ?」
「常識的に考えて、それだけのことをやっていたら寝る時間なんてロクに取れないだろう」
「そうだな――そうか」
その疑問は、聞き込みでも最後まで分からなかった一つのピースに対する答えだった。
「ちょっと用事ができた。生徒会室に行ってくる」
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