このところ、妙に視線を感じる。
入学式から早一ヶ月、クラスの中でまあまあ浮いてる変人という馴染みの立ち位置に収まり、新生活にも慣れてきた頃。
「輝星、窓の外になんか美しいものでもあるのか」
「いや、なんかこのところどっかから見られてるような気がしてな……」
幼なじみの問いに輝星は軽く首を振って、窓の外の景色から視線を外した。一年生の教室は一階にあるから、もとより窓の外には大した景色はない。
――このところ、妙に視線を感じる。
もとより、集団の中に入れば否応なしに浮いた人間になるような性根をしているから、視線を感じることには慣れている。
だが、高校に入学してからこのところ感じている視線は、そういった身近なところから向けられる視線とは違っていた。どちらかと言えば、少し高いところから見下されるような視線だ。
――生徒会塔といえば、あの生徒会長のいるところか。
思いつきに引っ張られるように、もう一度窓の外に目を向ける。空を見上げるように目を上げると、時計台が空を背景にしてそびえ立っていた。
生徒会塔は、その時計台の通称だった。名前の通り、時計台の頂上、学園内でも一番高いところにあるフロアがまるまる生徒会室になっている。
生徒会の持つ権限と影響力がかなり大きいこの学園においては、事実上の最高権力を有する組織の所在地だ。他の校舎よりひときわ高いところにあるだけに、学園のおよそどこからでも生徒会塔はよく見えた。学園内のどこからでも生徒会塔が見えるということは、生徒会塔からは学園のほぼ全域を見ることができるのだろう。学園のすべてを掌握し、観察するには悪くない場所だ。
視線の先にあるものに気づいた幼なじみがからかうような笑みを浮かべた。
「案外生徒会の誰かに見られてるのかもしれないな」
「まさか。ただの一年生に生徒会が興味を持つなんてありえないだろう」
「お前はただの一年生のくくりに入れるべきかは甚だ疑問だがな……。そういえば、部活には結局入らないのか?」
「ああ」
「またいつもの束縛嫌い、集団行動嫌いか……」
「なにか悪いか」
「いや、悪くはないがちょっと心配になってな。入学式のときだってスケッチを取ってるからそういう美しいものに対する感性は変人じゃないんだなーと思ったのに、肝心の生徒会長の美しさには微塵も興味もなさそうだったからな」
「別にあの生徒会長が美しいことは否定してないぞ。ただ単に、俺がスケッチしたい美しさとは違っていただけだ」
「相変わらずよくわからんセンスだな……。あの方よりも美しいものなんて、あると思うか?」
「少なくとも俺にとってはあんまり興味ない。ただ美しいだけなら、いくらでもある」
「じゃあ入学式の光景は美しかったのか」
「そうだが」
「やっぱりよくわからん……どうせ絵にするなら、俺たちただの生徒を描くよりあの方を描いたほうがいいだろうに……」
「興味ないものを描く気にはなれん」
「お話中失礼します。輝星望さん、ですね?」
割り込んできた声に目を向けると、見知らぬ生徒が目の前に立っていた。ブレザーのネクタイの色は彼が二年生、そして流星を模した色付きのネクタイピンは生徒会所属――それも、生徒会副会長だということを示していた。
「うん、そうですが?」
見知らぬ上級生からいきなり声をかけられる用件など思い浮かばなかった。ましてや生徒会それも役職持ちの人間がわざわざ呼びに来るようなものとなれば心当たりなどかけらもない。
「なにか用事でも?」
「生徒会長がお呼びです。ご同行いただければ幸いですが、もしこのあとご用事があるのであれば日を改めますので、都合のいい日時を伺いたく」
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