6.屋烏之愛
第9話
「・・・」
翌日の放課後、将矢は生徒会室の扉に耳を付け
、中の様子をうかがっていた。
「何盗み聞きしてんだよ」
愛弓が不審な顔をしながら将矢を見ている。
「…っ!」
突然声をかけられ驚く将矢。
桜叶は、昨日巧実から気持ちを伝えられた為に、一応断りの返事を伝えるとの事であった。
将矢は昨日の公園での光景を甦らせると、言いようのない不安を募らせていた。
巧実がトラウマになっている将矢である。
「お前らもう仲直りしたんだろ?」
愛弓か将矢の顔を覗く。
将矢「あぁ…まぁな…」
愛弓「だったら大丈夫だよ」
将矢「え…」
愛弓「つーか、お前がアイツを信じねーでどうすんだよッ!何て言って仲直りしたか知らねーけど、仲直りしたそばから不安がってんじゃねぇよ」
将矢「・・っ」
愛弓にズバリと言われた将矢は、何も言えず静かに唇に力を入れた。
すると、愛弓はため息混じりに言った。
「桜叶は裏切ったりしないよ。むしろ、信じた以上のものを返してくれる。桜叶ってそういうやつだろ?」
「…っ!!」
将矢はハッとした表情で愛弓を見た。
将矢は、昨日桜叶からかけられた言葉を思い出した。
"私は将矢のことが好き。だから、大丈夫"
将矢は顔を綻ばせ、小さく頷くと言った。
「確かにな。一番忘れちゃいけない言葉だった…」
愛弓はキョトンとすると、将矢は久々の笑顔を見せた。
ガラガラガラ…
すると、愛弓と将矢の目の前の扉が開いた。
「何してんの?二人とも」
桜叶がポーカーフェイスで将矢と愛弓を交互に見る。
将矢「いや…」
愛弓「・・っ」
愛弓はジロリと将矢を見ると、将矢は気まずそうに目をそらした。
桜叶は何かを察したのか、小さくため息をつくと言った。
「ちゃんと言ったから大丈夫」
桜叶は将矢の背中をポンと叩いた。
「何て?何て言ったの?」
将矢は桜叶に詰め寄る。
「それはー・・」
--
少し時を遡り-
生徒会室で桜叶は、一人でいた巧実に声をかけた。
「折笠先輩…昨日は…すみませんでした」
巧実は目を丸くさせながら桜叶を見た。
「ううん、こっちこそ悪かったな。ちょっと強引な事しちゃって」
巧実はそう言うと苦笑いした。
「いえ…。私の方こそ、先輩の気持ちに気づかずに…無神経でした…」
桜叶は俯いた。
「夜明さんは悪くないよ。俺が勝手に好きになって、ちょっとだけ勝手に期待してただけだから」
巧実はそう言って力なく笑った。
桜叶は首を振ると、静かに口を開く。
「ごめんなさい…気持ちに応えられなくて…」
巧実は穏やかな表情で言う。
「俺、ダメ元で言ったんだよ?夜明さんの気持ちはきっと変わらないんだろうなって分かってたし…」
巧実は微笑みながら桜叶を見つめた。
「折笠先輩…」
桜叶は呆然と巧実を見つめた。
「だから気にしないで。俺、自分の気持ち言えただけでも満足してるんだから」
巧実はニッコリ笑う。
すると、桜叶はゆっくり口を開いた。
「折笠先輩…。気持ちには応えられませんけど…でも、すごく有り難かったです。ありがとうございました…」
桜叶は真っ直ぐ巧実を見た。
「…っっ」
巧実は、少し目を潤ませながら笑みを浮かべた。
巧実「・・彼と仲直り出来た?」
桜叶「はい…」
巧実「そっか。なら…俺も少しは役に立ったのかな?」
巧実は微笑みながら桜叶を見た。
桜叶は巧実の言葉に少々驚くと、小さく笑みを溢しながら呟く。
「えぇ…とっても」
そんな桜叶の表情を見た巧実は驚いたように目を丸くした。
桜叶の笑顔は貴重だったからである。
「うん…。これだけで充分だわ」
巧実はポツリと呟いた。
「え…」
桜叶はキョトンとした顔をする。
すると、巧実が口を開いた。
「夜明さんが心配しなくても、一富士くんは大丈夫だよ」
巧実の言葉に桜叶は目を丸くさせる。
「彼、きみに相当ベタ惚れだよ?昨日の彼の表情見たら分かるよ」
巧実は微笑みながら桜叶を見た。
すると桜叶は、柔らかい表情で言った。
「はい…。私も相当ベタ惚れです…彼に」
桜叶と巧実は顔を見合わせると、気の抜けた表情で笑い合った。
--
「・・・いろいろよ」
桜叶は思い出すと、気の抜けた表情をさせ呟いた。
将矢「いろいろ?え…例えば?」
将矢は桜叶にすり寄る。
桜叶「もういいから!とにかく解決したから」
将矢「ほんとに…?アイツもう桜叶に近づいて来ない?」
愛弓「お前、しつけーぞ!」
見かねた愛弓が将矢に蹴りを入れる。
将矢「…っっ、だって…アイツ、何か余裕そうだったし…」
将矢はモテ男らしからぬ佇まいで狼狽える。
すると、桜叶はそんな将矢に喝を入れるように言った。
「将矢、自分の立場を考えて?そんな事じゃ、また隙を突かれるわよ」
将矢「…っ!!」
愛弓「ほんとだよ!桜叶のファンからしたら、お前はどんだけ美味しいポジションにいると思ってんだよッ。そんなんじゃ、桜叶のファンから一揆起こされるぞ、お前」
将矢「…っ!!!」
桜叶と愛弓に脅された将矢の頭の中では、不安を宥めながら自信を奮い立たせる…言わば真逆の性格を持つ双子のご機嫌を取るような、そんな忙しない感覚に陥っていた。
--
将矢「桜叶、さっきの授業ノート取ってた?ちょっと見せてくれね?」
桜叶「どうぞ」
将矢「サンキュ」
桜叶「あ…将矢、糸くず付いてる」
「あぁ、ありがと…」
将矢は桜叶に触れられて頬をピンクに染める。
「将矢って、よく派手な色の糸付けてるよね」
桜叶はそう言うと、小さく笑った。
「…っっ」
将矢は桜叶の笑顔に見惚れる。
将矢はニヤけそうになる顔に喝を入れながら自分の席に戻ると、早速将矢のグループの一人が将矢に声をかけた。
「将矢、桜叶さんと何かあった?何となく…距離が縮まってるような…」
「ふふん、まぁな」
将矢は頬をピンク色にしたまま表情を緩ませる。
仲間達はキョトンとしながら将矢を見た。
「お前、一皮剥けたな」
菊斗が笑いながら将矢を見た。
菊斗の言葉に将矢は照れくさそうな笑みを溢した。
菊斗はチラッと愛弓の方に目をやると、頬杖をついた愛弓と目が合った。
すると愛弓はフッと笑った。
菊斗は一瞬驚くが、すぐに菊斗も小さく笑った。
「・・・」
そんな愛弓と菊斗の姿を、クラスの一人の女子生徒が見つめていた。
--
「ハァー・・・」
ある月曜日の朝、将矢と桜叶が登校してると目の前で大きなため息をつく愛弓の姿があった。
「あっちゃん、おはよう…どうかした?」
桜叶が愛弓の顔を覗く。
「珍しいじゃん、姉貴がため息なんて」
将矢も目をぱちくりさせた。
「・・・ハァー…」
愛弓はチラッと二人の顔を見た後、また顔を前向けため息をついた。
「・・・」
桜叶と将矢は互いに顔を見合わせた。
「おはよー…って新藤、何かあったん?」
菊斗が現れると、項垂れる愛弓の姿を見るなり桜叶と将矢にたずねた。
「なぞ」
将矢がポツリと呟く。
すると桜叶が口を開く。
「私の長年の勘だと…コタローの身に何かあったのかも…」
桜叶は愛弓の後ろ姿を見つめた。
「え…」
菊斗は慌てて愛弓の後ろ姿を見た。
「おぃおぃ…大丈夫かよ…」
将矢も驚いたように愛弓を見た。
愛弓はとぼとぼと力なく歩いている。
「・・・」
菊斗は心配そうな面持ちで愛弓の後ろ姿を見つめた。
--
休み時間-
愛弓は一人、廊下の窓から呆然と外を見つめていた。
「新藤」
すると、菊斗が愛弓に声をかけた。
愛弓は菊斗の方に目をやる。
「どうしたんだよ」
菊斗が愛弓の顔を覗いた。
「・・・」
愛弓は目を逸らした。
「コタロー…何かあったのか?」
菊斗がチラッと愛弓を見る。
「・・っ」
愛弓は唇を噛み締めた。
そんな愛弓の表情を見た菊斗は、さらにたずねる。
「話してみろよ。何があったのか…」
すると、愛弓がポケットからハンカチを取り出すと、そのハンカチを開いて見せた。
そこには、二つの歯があった。
菊斗はギョッとなりながら愛弓を見て呟いた。
「…っ!!ま…まさか…」
すると愛弓が重い口を開いた。
「減っちまったんだよ…」
「・・え…」
菊斗がキョトンとしながら愛弓を見る。
「コタローの歯が減っちまった…」
愛弓は唇を噛む。
「ん…?え、コタローは…無事なの?」
菊斗は目を丸くする。
「コタローは無事だが、奥歯2本無事じゃなかった…」
愛弓は険しい顔をする。
「・・っ、ハァー…。何だよ…。てっきり俺、コタローはもういないのかと…」
菊斗は壁にもたれかかる。
「コタローはいる。だが奥歯はここにある…」
愛弓は唇に力を入れた。
「その歯、どうしたんだよ」
菊斗は気の抜けた表情をさせながら愛弓を見た。
「金曜にさ、学校から帰ったら床に歯が1つ落ちてたんだよ…」
愛弓は、自宅で歯を発見した当時の状況を思い浮かべた。
--
歯を見つけた金曜日の午後-
愛弓「ん…?何だこれ?・・って、歯じゃねぇかッ!!え…誰の?」
愛弓は慌てて自身の歯を鏡で確認する。
愛弓「あたしのじゃねぇよなー…」
そこへ通りかかった姉の節奈に、愛弓が声をかける。
愛弓「姉貴、これ姉貴の歯?」
愛弓は、落ちてた歯を節奈に見せる。
節奈「あん?」
節奈は、愛弓が見せて来る歯を凝視する。
すると、節奈は冷めた顔しながら愛弓に言った。
節奈「これ、人間の歯じゃなくね?」
愛弓「え」
節奈と愛弓は、尻尾を振り口角を上げながら見上げているコタローを見下ろす。
愛弓「まさか…これ…お前の歯なのか…?」
コタロー「ワンッ!」
愛弓「いや、ワンッ!じゃねぇだろ!お前、とっくに歯全部生え変わってんだろ?何で抜けんだよッ!!」
コタロー「ワンッ!」
愛弓「いや、ワンッ!じゃねぇだろ!」
節奈「病院だな」
愛弓「コ、コタロー…」
コタロー「ワンッ!」
--
愛弓は回想しながら話す。
「おかしいと思ってすぐ病院に連れて行ったら…歯周炎かもって言われて…。次の日レントゲン撮って詳しく調べたら、やっぱ歯周炎ってやつで…しかもその隣りの歯までやられちまってて…。結局、抜けた歯の隣の歯まで1本抜かれちまった…。歯磨きが足りなかった…」
愛弓は悔しそうな顔をさせた。
菊斗は安堵した表情をさせながら言った。
「でも…それだけで済んでまだ良かったじゃねぇかよ。歯1本抜くだけで済んでさ」
「コタロー、もう右奥歯で噛めねぇんだぞ!食べづらいだろ、絶対!」
愛弓は目を潤ませる。
「仕方ないだろ?これ以上、もう歯減らさねーようにするしか」
菊斗が愛弓をなだめる。
「確かにそうだけど…。でも犬の歯磨きムズイんだよッ。責任重大なのに…」
愛弓が口を尖らせた。
そんな愛弓を見た菊斗は、二つ折りになった小さな紙を差し出した。
愛弓はキョトンとしながらその紙を受け取り、開いて見た。
「・・っ!」
そこには、菊斗作コタロー模写であった。
愛弓「まだまだだな」
菊斗「え、お前の絵とあまり変わらなくね?」
愛弓「いや…あたしのコタローはこんなに耳丸くねぇもん」
菊斗「えー?そうだっけ?」
愛弓「…つーか、これ下手したら熊だぞ」
菊斗「ちょ…ひどくない?熊って」
愛弓「フフッ…」
愛弓は思わず笑うと菊斗もつられて笑い、互いに笑い合った。
「・・っ」
そんな仲睦まじい愛弓と菊斗の姿を面白くなさそうに、ある一人の女子生徒が見つめていた。
--
キンコーンカーンコーン…
昼休み-
「やべぇ…箸が入ってねぇ!!」
菊斗が弁当袋の中を見て驚愕する。
「えー?購買でもらって来たら?」
将矢が憐憫のまなざしを菊斗へ送る。
「ん」
すると、菊斗の横から割り箸が顔を出す。
「え」
菊斗は慌てて見上げると、愛弓が割り箸を差し出していた。
「サンキュ…って何で持ってんの?え、俺もらっちゃっていいやつ?」
菊斗は目を丸くさせた。
「備えあれば憂いなし」
愛弓はそう言ってフッと笑った。
「・・っ」
菊斗の頬がピンクに色づく。
「姉貴かっけー!!」
将矢が目を輝かせながら愛弓を見る。
「その姉貴呼びいい加減やめろ」
愛弓は眉間に皺を寄せた。
「あっちゃんは食すツールなら何でも持ってるもんね」
桜叶は涼しげな顔をしながら言う。
「備えあれば憂いなし!」
愛弓はそう言って、割り箸とスプーンとフォークなどをトランプカードを引けと言わんばかりの状態で桜叶に出して見せた。
「あっちゃん、それどこから出したの?」
桜叶はキョトンとする。
愛弓「フフン、どこでしょう」
桜叶「えぇ?あ、ここでしょ」
愛弓「ちょ…ちげぇよ」
桜叶「ここか…」
愛弓「ギャハハ!くすぐってぇからヤメろ!」
愛弓と桜叶の二人は、そんな会話をしながら教室を出て行った。
「・・・」
将矢と菊斗は、桜叶と愛弓の姿が見えなくなるまで呆然と見惚れていた。
「おーい将矢ー?」
「菊斗ー?大丈夫かー?」
将矢達のグループにいる仲間は、将矢と菊斗の目の前で手を振っていた。
--
「新藤さんが朝井くんと仲良くなり出してから、全然朝井くんに近づけないんだけどぉ。ただでさえ朝井くんに話しかけるのなんて勇気いるのに」
放課後、ある女子生徒が菊斗と愛弓について廊下で話をしていた。
それは同じクラスの女子、
絵里可は、クラスでは特に目立つわけではないが地味でもない中間層の女子グループの一人である。
「いい加減、新藤さんもあまり朝井くんに関わらないで欲しいなぁ。一緒にいる朝井くんまで印象悪くなっちゃう」
「そうかな?」
たまたま通りかかった桜叶が、絵里可達にポツリと言った。
「…っ!!」
絵里可達は、愛弓と仲の良い桜叶が突然現れ驚き慄く。
すると、桜叶は絵里可を見ながら口を開いた。
「仮に…あなたが朝井くんと一緒にいたからって、朝井くんの印象なんて…今と大して変わらないと思うけど?」
「…っっ」
絵里可は唇を噛み締める。
桜叶は続ける。
「一緒にいる人間がどうあれ、朝井くんは朝井くんでしょ?あなた…朝井くん自身に価値がないとでも言いたいの?」
「それは…」
絵里可はばつが悪そうに俯く。
「陰でコソコソ言ってる暇があるなら、本人に気持ちを伝えた方があなたも早く前に進めるんじゃない?あなただって、とっくに気づいてるんでしょ…?」
桜叶はそう言うと、颯爽とその場を去って行った。
「…っっ」
絵里可は悔しそうな表情をしながら桜叶を見送った。
--
翌朝-
「それにしても、コタローの歯をどうして自分の歯だと思ったのよー」
桜叶は愛弓をチラッと見る。
「いや歯落ちてるなんて、人間の歯しか想像しねーだろ!」
愛弓は必死に抗議する。
「人間の歯でもなかなか落ちてないわよ」
桜叶は憐れな表情で愛弓を見た。
「でも良かったな、姉貴の元気が復活して」
将矢はニッと愛弓に笑いかける。
「誰のおかげかしら」
桜叶は遠くを見ながら呟いた後、チラッと菊斗を見た。
愛弓「…っ!!」
菊斗「…っ!!」
愛弓と菊斗は目を丸くさせた後、徐々に顔が赤く染まっていく。
桜叶と将矢は、目を細めながら愛弓と菊斗をそれぞれ見ていた。
--
休み時間-
「ハ…ハー…ハックシュン!」
菊斗が豪快なくしゃみをした。
「何だ?風邪か?」
将矢が菊斗の顔を覗く。
「いや…この季節、アレルギー」
菊斗がズル…と鼻をすすりながらポケットを探る。
すると、どこからか菊斗の元へポケットティッシュが投げ込まれた。
菊斗は慌ててキョロキョロし愛弓を見つけた。
すると、愛弓はドヤ顔で親指を立てていた。
「…っっ!」
菊斗は目を大きくさせると、嬉しそうな表情をさせた。
「・・・」
将矢は目を細めながら菊斗の顔を見つめた。
--
「最近あたし、コタローとの意思疎通が完璧過ぎてヤバい」
昼、愛弓が眉間に皺寄せながら自慢げに話す。
「あら、そうなの?」
桜叶は愛弓をチラッと見る。
「そうなんだよ!やっぱ、あたしのコタローに対する愛の深さだねぇ」
そう言うと、愛弓は目を細めながら遠くを見る。
「じゃあ…朝井くんに対する愛も深いってことだ」
桜叶は愛弓の顔を覗いた。
「はっ…!な、何で急に朝井の名前が出てくんだよ!」
愛弓はギョッとしながら桜叶を見た。
「最近のあっちゃん、朝井くんとも完璧に意思疎通してるように見えるけど?」
桜叶は目を細めながら愛弓に詰め寄る。
「え…いや…?そんなことないけど…別に…」
愛弓は珍しく動揺している。
「分かりやすいなぁ」
桜叶はニヤッとしながら呟いた。
「お、おぃ…何がだよ!」
愛弓は桜叶に抗議する。
慌てたようにムキになる愛弓を見て、桜叶は小さく笑った。
桜叶「ハァー…ほんと分かりやすい、二人とも」
愛弓「ちょっ…え、二人?」
桜叶「…(笑)」
--
放課後、菊斗が廊下を歩いていると、三年生の男子生徒が数名、ある話をしていた。
「あの二年の一富士って奴、マジで気に食わねぇ。たまたま夜明さんと義理の兄妹なったから付き合えたようなもんだろ?」
「夜明さんも同じ屋根の下で暮らしてるから、きっと感覚が麻痺してんだよ」
「あんなチャラついた奴に夜明さんはもったいねぇよな」
「アイツ、顔は良くても頭悪そうだよなぁ」
「たしかに…(笑)。夜明さんもあんなのと生活してたら頭悪いの移っちゃうんじゃね?」
「夜明さん、早く目を覚ませばいいのに…」
すると、菊斗が静かに口を開いた。
「僻むのも大概にしたらどうっすか?」
「は?何だよ、お前」
男子生徒達は、一様に菊斗を睨んだ。
菊斗は冷静な顔をして続ける。
「例えアンタ達が桜叶さんと兄妹なってたとしても、そう簡単には付き合えないと思いますよ?桜叶さんは頭が良いから」
「…っっ」
男子生徒達は苦虫を噛んだような表情をさせた。
「それに、兄妹なっただけですぐに桜叶さんが付き合ってくれるみたいな言い方…まるで桜叶さんが軽い女って言ってるようなものじゃないっすか。良いんですか?そんな事言っちゃって。それだと、アンタ達が憧れる桜叶さんを逆に侮辱してる事になるんですけど」
「…っ!!」
男子生徒は皆、目を見開いた。
「ちなみに…一富士は間違いなくアンタらより頭良いっすよ?だってアイツは、アンタらみたいに誰も得しないような無駄話…絶対にしないんで」
菊斗はそう言うと、ポーカーフェイスでその場を後にした。
「…っっ」
男子生徒達は握り拳を作りながら悔しそうな表情をさせた。
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