六、ヒーローな彼女
第6話
「あ…多満子ちゃんと楠木…」
翌朝、なな子と悠佑が歩いていると、多満子と涼太が手を繋いで一緒に登校していた。
その場に居合わせた周りの女子達はざわついている。
「ななちゃーん!香月ーッ!おはよう!」
涼太が嬉しそうな笑顔でぶんぶん手を振っている。
多満子は顔を赤くしながら恥ずかしそうにしていた。
「あれ、アイツら…いつのまにそういう仲だったわけ?」
なな子の隣にいた悠佑が驚いた表情をしていた。
「おはよう、お二人さん」
なな子が穏やかな表情で二人に声をかけた。
「俺たち、付き合うことになったからッ!」
涼太が大きい声で堂々と交際宣言をした。
すると、周りにいた人達はさらにざわついた。
「楠木くんが穂積さんと…!?嘘でしょ…」
「何で何でーっっ?!何がどうなったらそうなるの?!」
涼太のファンである女子達は口々に不満と悲鳴をあげた。
そんな周りの反応に多満子はさらに身を小さく縮める。
「多満子ちゃん、堂々としてていいんだよ。周りが何と言おうと気にすることなんてないんだから」
なな子は多満子にエールを送った。
「そうだよ、たまちゃん。何かあったら俺が守るから」
涼太も多満子を気遣う。
「あ、ありがとう…」
多満子は俯きながら呟いた。
「鷹鳥…俺ら何気に先越されたな、楠木達に」
悠佑は口を尖らせて言う。
「・・・っっ」
なな子は心で動揺し顔は平静を保つ。
「なぁ…もし俺のテストの結果がダメだったら?」
悠佑は恐る恐るなな子の顔を見た。
「・・まあ、ダメでしょうね」
なな子は表情を崩さずに応えた。
「えっ…えぇぇーっっ!!マジで今日の結果こえぇーっっ」
悠佑は、急に不安が襲い頭を抱えた。
---
「はい、テストを返しまーす」
担任の戸辺がテストを返し始めた。
なな子の隣に座る悠佑はいつになく硬い表情をしていた。
「香月…」
担任の戸辺が悠佑を呼んだ。
「ハィ…」
悠佑が緊張した面持ちで前に出た。
「・・・・よく頑張ったな。留年回避だ」
戸辺の言葉に悠佑は目を見開いた。
"94点…"
「・・・・っっ!!」
今まで見たことないテストの点数に悠佑は目を見開きガッツポーズをした。
「すげぇーじゃん、香月ー!!」
クラスメイト達も驚き悠佑を労っている。
同時になな子も賞賛された。
「鷹鳥さん、あの香月に高得点を取らせるなんてすげー」
「鷹鳥さんの教え方ってどんなに凄いんだろ…俺も教えてもらおうかな…」
「それはダメ」
するとすかさず悠佑が反応する。
「え、何でだよーッ」
「ダメなもんはダメ」
「はぁ?何なんだよー」
男子達が騒いでいた。
なな子は俯き、静かに笑みを溢した。
ーーー
昼休みー
涼太と悠佑が席を外ししばらくすると、涼太を狙っていた女子達が多満子に詰め寄ってきた。
「穂積さん、どうして楠木くんと付き合うことになったの?」
涼太のファン達が多満子を取り囲む。
「・・・それは…」
多満子が俯いた。
「楠木くん、無理してるんじゃない?だって…穂積さんなんて、楠木くんに全然似合ってないもの。きっと何かの罰ゲームなんじゃない?」
多満子「・・・っ」
ちょうどその時、涼太と悠佑が戻って来ると教室の中では、多満子と涼太のファンである女子達が険悪なムードになっていた。
"・・・・っ!"
涼太は自分の事で揉めているのだと瞬時に察した。
悠佑の熱烈ファンである玲花は、教室で起きてる女達の戦いを陰からそっと見つめていた。
「穂積さん、楠木くんと釣り合ってないって分かるでしょ?そんな地味なくせに、身の程を知りなさいよッ!穂積さん、まさか本気で付き合ってるだなんて思ってないでしょうね?」
女子達が多満子を攻める。
涼太「おいッ」
悠佑「おまっ…」
吾郎「おまえら…」
涼太達は見かねて同時に口を開いた瞬間、すかさず多満子の横にいたなな子が大きめの声で言った。
「身の程を知らなきゃならないのはアンタ達の方でしょ?」
クラス中の生徒達は、珍しいなな子の強い口調に静まり帰り、なな子に注目した。
「・・・っっ」
多満子に詰め寄る女子生徒達は、一気に表情を強張らせた。
「ねぇ。多満子ちゃんはもう楠木の彼女なんだけど、アンタ達はどの立場でものを言ってんの?」
なな子は眼鏡をギラギラさせながら多満子に詰め寄る女子達を見た。
陰から見ていた玲花は、なな子の珍しい様子に目を見張る。
その場に居合わせたクラスメイト達も強めの口調で話すなな子の姿に驚き注目した。
「・・・っっ。だって…本当に穂積さんが楠木くんの彼女だなんて信じられないし…」
涼太ファンの女子達は俯きながら言う。
「今朝の楠木と多満子ちゃんの姿を見ても付き合ってること信じられないでいるアンタ達の方が信じられないんだけど。どんだけ理解力がないわけ?」
なな子はしらけた様子で涼太ファンの女子達を眺めた。
「…っっ。だってだってッ!楠木くんがこんな地味な子を好きになるわけないものッ!」
納得できない涼太ファンの女子達はなな子に食って掛かる。
「ねぇ、何で楠木が多満子ちゃんの事を本気で好きじゃないなんて言えんの?それ楠木本人に直接聞いたの?」
なな子はさらに強めの口調で言う。
「・・・っっ。聞いて…ないけど…そんなの聞かなくたって分か…」
涼太のファン達はたどたどしく言いかけるとなな子は被せるように続けて言う。
「聞かなくても分かるって人間ほど、全然分かってないのよ。それに…本人に確認しないまんまのアンタ達の言ってる事なんて、この先もずっと…事実になることなんてないわよ?所詮、戯言のまま。直接本人に確認しなきゃ真実なんか分かりっこない。…ってー…あぁ…そっかぁ…楠木に直接聞けないんだ…怖くて」
なな子は挑発するように言った。
「は?」
涼太のファンである女子達は一斉になな子を睨んだ。
「だいたい…楠木が好きになったのが多満子ちゃんなんだったら、多満子ちゃんを攻めたってしょうがなくない?アンタ達が楠木を好きなように、楠木にだって誰かを好きになる権利はある。誰を好きになろうが、それこそ本人の自由でしょ」
なな子が表情崩さず平然とした態度で言う。
涼太と悠佑はなな子の言葉を黙って聞きながら真剣な表情でなな子達を見つめている。
「な…何なのよ!さっきからぁッ!鷹鳥さんには関係ないでしょッ」
詰め寄る涼太ファンの女子達は抗議する。
「楠木と多満子ちゃんからしたら、アンタ達だって関係ないんだけど?」
なな子は涼しげな様子で背もたれに寄りかかり腕と足を組みながら言った。
ファンの女子達「・・・っ」
なな子「自分を選んでもらえなかったってことは、それが全てでしょ?多満子ちゃんの方が魅力的だったってことよ」
「・・・っっ」
ファンの女子達はばつが悪そうにしている。
なな子「そもそも、釣り合ってないだの釣り合ってるだのって…外面だけで判断してるアンタ達の方がよっぽど楠木となんて釣り合わないわよ?アンタ達さっき、楠木が罰ゲームで付き合ってんじゃないかって言ってたけど…そんな人間として終わってるような下品な事を、楠木がするとでも思ってんの…?好きな人の事をそんな風に言えるって…アンタ達は本当に楠木の事が好きなの?多満子ちゃんの事も、楠木の事も…バカにすんのもいい加減にしなよ?」
ファンの女子達「…っっ」
多満子「なな子ちゃん…」
涼太「…っ」
「人間、地味だとか派手だとかそんなくだらない外見よりも一番重要なのは中身だから。さっきみたいな性格悪いことばかり言ってると、楠木どころか他の男子達でさえも引くわよ?どんなに見た目可愛くても、性格ブスって言葉があること覚えといた方がいいよ?」
なな子は眼鏡をギラつかせながら抗議する涼太のファンである女子達に堂々と言ってのけた。
分厚いレンズの眼鏡をかけ素顔は見えないものの、大人びた声と落ち着いた口調で堂々と言い放つなな子の姿に、教室の入り口で見ていた悠佑は心を鷲掴みにされているような感覚になり鳥肌が立っていた。
普段は目立たず大人しい印象のなな子が複数の女子を相手に平然と言い返している様子に、その場に居合わせたクラスメイト達は皆、驚いたようになな子に釘付けとなっていた。
玲花もなな子の堂々たる言葉と様子に驚きながら、ただ呆然と見つめていた。
「…な、何よ…もう…い、行こッ!」
詰めかけた女子達は、なな子の圧倒的な迫力と強さに負け、何も言い返すことができなくなり、たじろぎながらその場を立ち去ろうと教室の入り口へ向かった。
すると、その女子達は入り口にいた当の本人である涼太と目が合った。
「…っっ!!」
涼太ファンである女子達は一連の行動を涼太に見られていた事に気づき、気まずそうに身をすくめた。
「俺…多満子ちゃんの事、本気で好きだよ。だから、多満子ちゃんとは真剣に付き合ってる。これでもう分かってくれるよね?」
涼太は真面目な表情で涼太のファンである女子達に言った。
「・・・っ!!」
多満子は涼太の言葉を聞き、顔を真っ赤にし驚いたように涼太を見た。
「・・・っっ」
涼太のファンである女子達は顔を赤くし俯きながら走り去って行った。
涼太の勇敢な姿を見たなな子は誇らしく思い表情筋を緩ませた。
「ご、ごめんね…なな子ちゃん。巻き込んじゃって…。あの子達と戦ってくれて…ありがとう…」
多満子は若干涙目になりながら、なな子に呟いた。
「いいのいいの、私の事は気にしないで。こんな事は大したことじゃないから」
なな子は涼しそうな顔をしている。
「たまちゃん、ななちゃん!ごめん、俺の事で…」
涼太が慌てて駆け寄って来た。
「りょ…涼太くん…ありがとう…。はっきり言ってくれて、嬉しかった…」
多満子は顔を赤くしながら涼太に言った。
「いや…ななちゃんに比べたら俺なんて…」
涼太は急に恥ずかしくなり顔を紅潮させた。
「やっぱ強さは変わってないじゃん」
なな子は微笑みながら涼太を労った。
「・・・っ!ななちゃん…」
涼太も若干涙目になった。
「何だか派手にやってたな…鷹鳥」
悠佑がなな子を見た。
「派手?私にとっては地味な方だよ」
なな子はあっけらかんとしながら言う。
「・・・っ!…確かに…」
悠佑は最初の頃に目の当たりにした、なな子の華麗な回し蹴りを思い出した。
すると、なな子は多満子に言い聞かせた。
「多満子ちゃんはもう充分魅力に溢れてるんだから、もっと自信持って堂々としていればいいのよ。さっきみたいな連中は、他人を悪く言ったり攻撃する事で自分の劣等感を誤魔化してるだけの小っさい小っさい、マイクロ人間…いや、ピコ人間なんだからッ」
「ピコ…人間…」
その場にいた全員が呟いた。
「そうだよ!だから、今度ああいう人に出会ったら…"うわッ!ピコいわぁ〜っ"って思っていればいいのよッ!あ、ピコいってのは小さいっていう意味ねッ!ピコは1兆分の1だから」
なな子は腕を組みながら真剣な表情で説明している。
「ふふ……ふはははッ…ピコいかぁーッ!いいねっ、それ!それに…何か可愛いッ」
多満子が笑うと、その場にいた涼太や吾郎、悠佑も笑った。
悠佑はそっと優しい眼差しをなな子に向けた。
"やっぱこいつ、最強だわ…"
悠佑はなな子を見つめながら、さらに膨らんでいくなな子を愛しいと思う気持ちと、早くなな子に自身の思いの丈をぶつけたいという気持ちをグッと抑えた。
涼太「やっぱり、ななちゃん小学校の頃から全然変わってないなァ…」
多満子「え、どんな感じだったの?」
涼太「あのね…」
なな子「ああーっ!!」
悠佑「小学校3年の時にぃー」
なな子「ちょっ!何であんたが知ってんのよ」
涼太「あ、俺が話した」
なな子「なっ…!」
「・・・」
玲花は、なな子達の様子を呆然と見つめていた。
なな子の友人吾郎は、自分達を見つめる玲花の視線に気づきチラッと玲花を見た。
---
放課後、多満子はまたしても先生に頼まれ校舎の外にある花壇の花に水をやるところであった。
蛇口にホースをさしハンドルを回すと、ホースが蛇口にしっかりとはまっていなかったのか、勢いよく水が吹き出し多満子にかかった。
多満子「う、うわぁ〜ぁ〜っっ」
それを見ていた数人の女子生徒はクスクス笑いながら多満子をバカにしていた。
女子生徒「あんな子が楠木くんの彼女だなんてねぇー(笑)」
女子生徒「ずぶ濡れじゃーんっ、恥ずかしー(笑)」
すると突然、その女子生徒達の後ろから声がした。
「他人をバカにして笑うことほど恥ずかしいものはないよな」
多満子を笑っていた女子生徒達はビックリして後ろを見た。
そこに立っていたのは涼太だった。
女子生徒「・・・っっ!!楠木くん…」
「失敗してる人よりも、それを見て笑ってる人の方がよっぽど恥ずかしいと思うけど?」
涼太は冷たい表情でそう言うと、多満子の方へ駆け寄って行った。
「・・・っ」
女子生徒達はばつが悪そうにしていた。
「ドンマイ」
吾郎は続けざまにそう言って、涼しげな様子で多満子と涼太の方へスタスタと歩いて行った。
「・・・・っっ」
女子生徒達は何も言えなかった。
涼太「たまちゃーんっっ!大丈夫?」
多満子「涼太くんっっ」
涼太「やっぱこのタオルも絶対たまちゃんが好きなんだと思う!」
吾郎「え、どういう事?」
涼太「このタオルたまちゃんに貸すの三回目」
多満子「何か私…水に濡れる時は同時に嬉しい事が起きてる気がする…」
涼太「たまちゃん…っっ」
吾郎「だからって、自ら進んでずぶ濡れにならないようにね」
涼太「そ、そうだよッ!」
多満子「気をつけます…」
「・・・・」
そんな多満子達の仲睦まじい様子に、先程多満子をバカにして笑っていた女子達は羨ましそうに見つめていた。
---
下校時、なな子のクラスメイトの男子達がなな子の話題に花を咲かせていた。
「今日の鷹鳥さん、何かかっこよかったよな」
「普段おとなしいイメージだったから、なんかギャップ萌え」
「俺、鷹鳥さんに叱られたいって思っちゃった」
「おまえ…」
一方その頃、クラスに詰めかけた涼太ファンの女子達はというと…
「今日の鷹鳥さん、感じ悪いよねーッ!ちょっと頭良くて、ちょっと楠木くんと香月くんと仲良いってだけで…偉そうに!」
なな子に対する文句に花を咲かせていた。
「目立ってるのは成績だけの地味女のくせにねぇ」
「玲花ちゃんもそう思わない?玲花ちゃん、香月くんが冷たくなったの気にしてたじゃん!絶対それ、鷹鳥さんのせいだよッ!!文句言った方が良いよーっ!」
「う…うん。そう…だね…」
玲花は上の空で応えた。
---
誰もいなくなった放課後の教室で、悠佑はなな子に声をかけた。
「鷹鳥…。話しがある」
悠佑は真剣な表情でなな子を見つめていた。
「・・・」
なな子も真っ直ぐ悠佑を見つめた。
なな子と悠佑は屋上へとやって来た。
「まず…おまえには礼を言うよ。無事に留年阻止できた。本当に…ありがと。助かった…」
悠佑が照れながらなな子に礼を言う。
「・・・いいよ、別にお礼なんて…」
なな子も照れながら顔を逸らす。
「おまえって、本当に有言実行だな。俺が変わるのにおまえからすっげぇ影響力もらったわ」
なな子は悠佑の言葉を聞き以前に自分が悠佑に言った言葉を思い出し、小さく笑みを溢した。
悠佑はそっと小さく息を吐くと決意をしたように、真っ直ぐなな子を見て言った。
「鷹鳥なな子、俺はおまえの事が好きだッ!」
「・・・っ」
なな子も真っ直ぐ悠佑を見る。
「毎日おまえの事がどんどん好きになって…倍増してく…。おまえの事が好きすぎて…俺、正直もう限界…」
悠佑は顔を赤くしながら俯いた。
「香月…」
未だかつてない程に狼狽えている悠佑の姿に、なな子は目を丸くした。
「前に言った通り…、俺の気持ちはずっと変わらねぇ。鷹鳥の事が本気で好きだ。ずっとおまえを一途に愛してる。もうおまえしか見れねぇよ」
悠佑は真剣な眼差しでなな子を見つめた。
「・・・っっ」
なな子は悠佑の真剣な目に吸い込まれる。
「鷹鳥なな子ッ!!俺と真剣に付き合ってくださいッ!」
悠佑はなな子に声高々と思いの丈をぶつけると、深々と頭を下げた。
「…っっ」
真っ直ぐな悠佑の言葉と態度に、なな子は目を潤ませた。こんなにも必死な悠佑の姿を見るのは初めてだった。
なな子は俯くと、ふぅ…と力を抜くかのように小さく息を吐いた。
なな子は思っていた。
悠佑に初めて勉強を教える事になったあの日から、本当に悠佑は変わる事ができたんだと。
自分の目の前にある物事と真剣に向き合っている。
以前の悠佑の姿からは想像つかない程であった。
悠佑の中に元々あった誠実さを、表に出させることが出来たんだと…なな子は嬉しく思った。
そして、なな子は決意をしたようにゆっくりと顔を上げ、静かに口を開いた。
「信じてた」
なな子は真っ直ぐ悠佑を見つめた。
悠佑は驚いたように、なな子を見る。
「悠佑のことも…自分のことも…」
なな子は微笑みながら悠佑に言った。
悠佑は呆然となな子を見つめている。
すると、なな子は顔を赤くさせながら真剣な様子で言葉を振り絞った。
「うん…私も…。私も…香月悠佑、あなたの事が…好き…です…」
「・・っ!!」
悠佑は目を見開きなな子を見た。
「昨日の情けない私の姿は、私が初めて経験した嫉妬…。自分の中で沸き上がってくる苛立つ気持ちをどうしたら良いのか…戸惑ってた。初めてやきもちを焼くって、こういう事なんだって分かったよ…。好きだから…嫉妬とかやきもち焼いたりするんでしょ?私、初めて男性を…好きになったみたい…」
なな子はそう言ってチラッと悠佑を見た後、赤くなった顔を隠すように俯いた。
「鷹鳥…」
悠佑は嬉しさのあまり、放心状態になりながら呆然となな子を見つめていた。
「香月も有言実行だね。本当に私も香月の事好きになっちゃったもんね…」
なな子は笑顔で悠佑を見た。
「・・・・っ」
悠佑は顔を赤くしながら、なな子の笑顔に見惚れていた。
「・・よろしく…お願いします、ゆ…悠佑」
なな子はたどたどしくそう呟くと、恥じらいながらニッコリ笑った。
「・・・っ!!…な…なな子…」
悠佑は、なな子からの嬉しい返事に加え初めて下の名前を呼ばれた事に驚き、嬉しさと愛しさを一気に爆発させ、すかさずなな子を抱きしめた。
そして、悠佑は安堵の表情を浮かべた。
「・・・・」
なな子は静かに悠佑の胸に顔を寄せ悠佑の鼓動を聴いていた。
しばらくして悠佑は身体を離すと、なな子の眼鏡をそっと外し、なな子を見つめながら静かに口を開いた。
「ずっと…愛してる…から…」
悠佑は恥ずかしそうにそう言うと、ゆっくりと顔を近づけ唇を合わせた。
なな子は自然と目を閉じ悠佑に力を預けた。
なな子と悠佑の二人には、お菓子の城の中の…温かい陽だまりにるような…そんな甘くて温かい時間が流れていた。
こうして、ようやく結ばれたなな子と悠佑は、お互い心を通わせ理解し合う事が出来たのであった…。
---
「よぅッ!おまえらぁッ」
翌朝、悠佑は二人並んで歩く涼太と多満子に声をかけた。
涼太と多満子は、振り返るやいなや声を上げた。
「えっ!!二人…まさかぁ?!」
悠佑となな子は手を繋いでいた。
「そぉッ!そのまさか…」
悠佑はニヤニヤしながら溢れ出る幸せを抑える事が出来ない。
「ちょっと。ニヤニヤしすぎ…」
なな子が冷静にツッコミを入れる。
「俺がどんだけ我慢してたと思ってんだよッ!このくらい良いだろッ」
悠佑が抗議する。
「ハイハイ」
なな子は涼しい顔で歩いた。
「ちょ…っ、見てあれーっ!今度は鷹鳥さんまでもが悠佑くんと手つないでるーッ!」
「何でここのイケメン達は揃いも揃って地味女が好きなわけー?信じらんなーい!」
「きっと何か裏があるんじゃない?」
悠佑と涼太のファンである女子達は陰口を叩いている。
「何だか、君たち有名人になってるよ」
友人の吾郎が冷静な口調で声をかける。
「そりゃしゃぁねぇなッ」
悠佑はご機嫌な口調で言う。
「あんた、呑気で良いな」
吾郎がチクリと言う。
「ナニッ?!」
悠佑は、ギロッと吾郎を睨んだ。
吾郎は涼しい顔をしていた。
「・・・」
"何か…前から思ってたけど松尾の奴、なな子に雰囲気が似てんだよなァ…。俺の事だって全然平気そうだし…"
悠佑は吾郎を不思議そうに見つめた。
キーンコーンカーンコーン…
授業が終わりしばらくすると、今度は悠佑のファンである女子達がなな子の所へ詰めかけた。
「ちょっと!鷹鳥さんッ!アンタまでどうゆう手を使って悠佑くんを騙してんのよッ!」
「アンタみたいな地味な女を悠佑くんは絶対に好きになるわけないものッ!」
悠佑のファンである女子数名となな子はお互い見つめ合い、一触即発な状態であった。
なな子のクラスはカオスな状態になっていた。
さすがにクラスの男子達も、連日続く尋常じゃないファンの女子達に恐れ慄き引いていた。
「女ってこえぇ…、香月と楠木もあれじゃ大変だよなァ…」
「初めてイケメンに同情するわ…」
クラスの男子が囁いた。
なな子は表情一つ変えず真っ直ぐ立ったまま無言を貫いている。
玲花はそんななな子の様子を、一応悠佑のファンではあったが特に参戦することなく今日も陰からそっと見守っていた。
そこに、またもや席を外していた悠佑と涼太が戻ってきた。
「え、デジャヴ…」
カオス状態になってる教室を見た涼太がそう呟きながら悠佑を見た。
悠佑は真剣な顔つきで静かになな子達の様子を見守った。
「何だァ?何の騒ぎだ?」
体育教師の巡哉が騒ぎを聞きつけ教室の入り口へとやって来た。
「ちょっとアンタッ!!黙ってないで何とか言いなさいよッ!」
悠佑のファンである女子の一人がなな子の肩を力強く押した。
ドンッ!!
"・・・・っ!!なな子…!"
悠佑と巡哉がなな子に慌てて駆け寄ろうとした次の瞬間…
カタン…
何かが落ちる音がした。
・・・・・っっ!!!
なな子の眼鏡が衝撃で落ち、なな子は皆に素顔を見せた。
すると、その場に居合わせた生徒達は皆、なな子の美人すぎる素顔に驚愕した。
"うそ…鷹鳥さん…なの…?!"
陰から見ていた玲花も驚き唖然としていた。
多満子も目を丸くしてなな子の顔を見つめた。
吾郎は眼鏡をクイッと上げ一人冷静な表情を保っている。
体育教師である巡哉は参った様子で目頭を抑えていた。
そしてクラスの男子達は皆、なな子の素顔に目が釘付けになり見惚れている。
「・・・・・」
クラスは一気に静まり返った。
なな子の目の前にいた悠佑のファンである女子達は顔が青ざめていた。
なな子はそっと眼鏡を拾い、ポケットからクロスを取り出すと静かに眼鏡を拭き始めた。
「・・・他に言いたいことは?」
なな子はキュッキュッと眼鏡のレンズを拭きながら落ちついた口調で言った。
「・・・っっ。い、行こう…」
悠佑のファンである女子達はそそくさと退散して行った。
「なな子…ちゃん?」
多満子が驚きながら声をかけた。
「そうだよ」
なな子はニカッと笑った。
多満子は見惚れるようになな子を見つめた。
素顔で笑ったなな子の笑顔にその場にいる誰もが見惚れていた。
「ななちゃん…やっぱり美人だった」
涼太がボソっと呟いた。
「あぁ…」
悠佑がなな子を愛おしそうに見つめながら言った。
「オィッ!香月ッ!おまえ、後で職員室に来いッ!何なんだこの有り様はァッ!!」
巡哉が悠佑の肩に腕を回した。
「え…っっ、何で俺なんだよッ!!」
悠佑が抵抗していた。
なな子はそっと眼鏡をかけ直した。
キーンコーンカーンコーン…
昼休みになろうとする時、複数の女子達がなな子の元へやってきた。
「ねぇ…鷹鳥さん…私達とお昼食べない…?鷹鳥さんって、実は我慢してたんじゃないかと思って…穂積さん達といるの…」
クラスの女子達は手のひらを返したかのようになな子に擦り寄ってきた。
「・・・っっ」
多満子が俯いた。
悠佑「オィッ…」
涼太「おまえら何てことッ…」
吾郎「・・・・」
すると、なな子はすかさず言った。
「あいにく、全然我慢してないから大丈夫。お気遣いどうも。何を我慢してるって思われたか知らないけど…私、多満子ちゃん達といるの心から楽しいの。私はこれまでと全く中身は変わってないんだけど…あなた達の方は何だかガラッと変わっちゃったみたいね。一体どうしたのかしら?」
「・・・・っっ」
「それに…人は見かけに寄らないなんてこと、あるあるでしょ?」
なな子は不敵な笑みを浮かべた。
"……っっ!"
なな子達の様子を見ていた玲花は、なな子の言葉に驚き何だか心を射抜かれような感覚になった。
玲花は呆然となな子を見つめた。
「そ…そうよねっっ。余計な心配だったわね…じゃあね…」
ばつが悪そうにクラスの女子達が足早に立ち去って行った。
「なな子ちゃん…」
多満子は目に薄っすら涙を浮かべながらなな子を見つめた。
「これからもよろしくッ」
なな子はニカッと笑った。
涼太と悠佑、吾郎は安堵した表情で見合った。
「なんか、いつも俺がたまちゃんを助けようとする前にななちゃんに持ってかれちゃうんだよなァー。やっぱ、ななちゃんには敵わないわァー」
涼太が嘆く。
「まだまだだな」
悠佑が誇らしげに言った。
「いやいや、香月くんの功績じゃないからな」
すかさず吾郎がツッコむ。
そんな三人のやり取りを見て多満子となな子は笑った。
なな子達五人の姿を見たクラスの男子達が呟いた。
「なんかあのグループ…ハイブリッドだとは思ってたけど、実は一番ハイスペックなんじゃ…」
「確かに…最強かも…」
「・・・」
なな子達の様子を羨ましそうに玲花は見つめていた。
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