五、毎日誰かの決戦日

第5話

「よぉッ」

休みが明けた日の朝、悠佑がなな子へ声をかける。


「おはよう」

なな子はクールに返事をする。


「ななちゃん、おはよう!」

そこへ涼太も合流する。


「おはよう」

なな子は涼太にもクールに返事をする。


ガルルルルルーっ…

悠佑は涼太を威嚇する。


「香月くん、ちょっと時間ある?」

そう言うと、涼太はなな子に「後でね」と手を振り悠佑を連れて行った。


「え…あ、オィッ!…何だよッ」

悠佑は抵抗しながらも涼太に引っ張られて行った。


なな子はそんな二人の様子を不思議に思いながらも穏やかな表情で見送った。


--


涼太と悠佑は屋上へ来た。


「何だよッ、急にィッ!」

悠佑はギロッとした目つきで涼太を見た。


「俺…あっさり振られたから」

涼太はサラリと言った。


「え」

悠佑は驚いて涼太を見た。


「これからも…大切な友達としてよろしくって」

涼太は笑いながら言った。


「・・・っっ」

悠佑は俯いた。


涼太「振られてちょっと気持ちが沈んだんだけどさ…友達としていられるなら、まぁいっかって思った」


悠佑「楠木…」


涼太「ななちゃんとは、今まで違う町で何の接点もないまま小学校の途中からずっと過ごしてきたけどさ。そうやって全く接点のないまま他人として過ごすよりは、今こうやってまた出会えて友達になれただけでもだいぶ良いよなって考えるようになってさ…。ななちゃんからは大切な友達って言ってもらえたし」


悠佑「・・・・」


「自分でもビックリなんだけどさァ、何か…今の俺の気持ちはすっげぇ清々しいッ。本人に直接、ちゃんと自分の気持ち伝えられたって事が大きいのかも。ずっと思ったまま言えないでいるより、長年言えなかった気持ちが言えてほんと良かった。これ、負け惜しみで言ってるわけじゃないからなッ。本当の本当に…マジで思ってること」

涼太は爽やかな表情で言いながら、悠佑に笑顔を見せた。


悠佑「おまえ…」


悠佑は驚きながら涼太を見た。


涼太「だから…応援してるよ、香月くんの事。それにー・・・たぶん、ななちゃんって……」


"香月くんの事が好きなんじゃないかな"


悠佑「ん?」


「・・ううん、何でもない。ななちゃんに早く自覚してもらえるといいね。頑張って」

涼太はそう言うとポンッと悠佑の肩を叩いた。


「ん?…自覚?」

悠佑はキョトンとしながら涼太を見た。


悠佑は立ち去ろうとする涼太を呼び止めた。


「楠木ッ!」


涼太は振り返った。


悠佑「同情して言うわけじゃねぇけどよ…」


涼太「ん?」


「これからも…その…と、友達…として、よろしく…」


悠佑は照れ臭そうに顔を背けながら言った。


涼太は驚いたように悠佑を見た後、満面の笑顔で言った。


「こちらこそ」


---


キーンコーンカーンコーン…


なな子は、どことなく清々しさを身に纏っている涼太と悠佑に目をやると静かに教科書に目を戻した。


テストの日まで、刻一刻と迫っていた。


放課後なな子が悠佑に勉強を教える日も数える程になっていた。


その日の放課後、いつものようになな子が悠佑に勉強を教えていると、突然悠佑が何かを決意したように口を開いた。


「鷹鳥…」


なな子は静かに悠佑を見た。


悠佑「今度のテストで…ちゃんと留年せずに済んだら、おまえに改めて…ちゃんと告白するから…」


なな子「え…」


「その時は、ちゃんとした返事が欲しい…」

悠佑は真剣な表情でなな子を見つめた。


しばらく間を空けた後、なな子は静かに一言だけ呟いた。


「・・・わかった…」


一方その頃、校舎の外にある花壇の花に先生から頼まれて水をやっていた友人の多満子。


そこへ涼太がやってきた。


「多満子ちゃん、水やってんだァッ」


「・・・・っっ!!」

多満子は突然涼太に声を掛けられ驚き慄き、自身の顔にシャワーヘッドを向けてしまった。


多満子「う、うわぁぁ〜ぁぁ…!!」


涼太「ちょ…っっ、多満子ちゃんッ!!」


多満子はずぶ濡れになった。

「・・・・っっ」


「俺、ハンドタオル持ってる…ちょっと待って…」

そう言うと、涼太がカバンからハンドタオルを取り出し多満子に手渡した。


多満子「ごめん、あ…ありがとう…」


多満子は恥ずかしそうにタオルを受け取ると、まず眼鏡を外し、眼鏡を拭いた。


涼太「・・・っっ!!」


多満子は髪を濡らし恥じらいながら眼鏡を拭いている。

眼鏡をかけていない、初めて見るそんな多満子の姿に、涼太の心はドキッ…とした。

涼太はしばらく多満子に目を奪われ呆然としていた。


そして涼太は、なな子から言われたあるセリフをふと思い出した。


"せっかくのダイヤモンドの原石が私の周りにはあるのに…"

"そのうち分かるよ。私よりも他に魅力ある子がいるってこと"


すると、多満子が恥ずかしそうに言った。

「こんな姿、楠木くんに見られちゃって…私としたことが…。楠木くんは水かかってない?」


「原石…」

涼太は多満子を見つめながら思わず呟いた。


「え…?」

多満子はキョトンとしながら涼太を見た。


涼太には、早速新しい風が吹いていた。


---


職員室ー


「辰島先生、ちょっと良いですか?」

国語教師の可菜実が巡哉に話しかけた。


「はい」

巡哉が振り向いた。


「風紀委員会の活動で-…」

「あぁ…それは・・」


「ありがとうございました」

可菜実が巡哉から一通りの説明を受けると礼を言った。


「いえいえ」

巡哉が会釈をした。


「あ、あのー…」

可菜実が振り返り巡哉にまた声をかけた。


「・・・?」

巡哉も振り向く。


「最近、何か良い事あったんですか?」

可菜実は巡哉に恐る恐るたずねた。


「え…」

巡哉が驚いたように可菜実を見た。


「あ、いえ…えーっと、何だか…いつもより機嫌が良さそうだなって思ったので…つい…」

可菜実は俯き加減で言った。


「あぁ…そうっすね…。まぁ、何だか頭の霧が晴れたって感じっすかね…。純粋に頼りにされてるだけってのも悪くないな…なんて改めて気づいたって言うか…」

巡哉は照れながら答えた。


「・・私も…。私も、頼って良いですか?」

可菜実は少し照れながら巡哉の顔を覗いた。


「え…。は、はぃ…どうぞ…。…?…」

巡哉は驚きながら可菜実を見た。


「ありがとう…ございます」

そう言うと、可菜実はサササッと足早に立ち去った。


「・・・?」

巡哉は不思議に思い呆然としながら可菜実の後ろ姿を見つめた。


---


悠佑となな子は放課後の補習を終え共に帰り道を歩いていた。


なな子は悠佑に言われた言葉を思い出しながら歩いていた。


"今度のテストで…ちゃんと留年せずに済んだら、お前に改めて…ちゃんと告白するから"


"その時は、ちゃんとした返事が欲しい…"


なな子はチラッと隣を歩く悠佑を見た。


悠佑も何かを考えているように遠くを見つめながら歩いている。


なな子は悠佑に対する自分の気持ちに気づき始めていた。

自分も悠佑の事が好きであると。


最初でこそチャラチャラした男のようではあったが、実はなな子に対する自分自身の気持ちを確かめる為にしていたということ。


もう他の女とは会わないと言って、本当に今はなな子以外の女性と会っていないということ。


自分との共通点を作る為に、四字熟語を秘かに勉強していたこと。


柴犬三兄弟と戯れる自分をこっそり見に来ていたこと。


顔ではなく眼鏡をかけたなな子の声や言葉、仕草、性格などを好きになってくれたということ。


なな子の中身を見てくれていたこと。


そして…何より悠佑の確かな愛情を感じること。


その全部がなな子にとって嬉しいものだった。


チャラいようで一途、ふざけているようで誠実…。そんな悠佑のギャップに人知れずなな子の心もまた、悠佑だけのものとなっていた。


なな子の答えは、もう決まっていた。


あとは、悠佑が留年しないように全力でバックアップするだけだった。


なな子はテストのその日まで、心を鬼して悠佑の勉強に付き合うことを決意した。


「香月…」


なな子は静かに口を開いた。


すると悠佑はなな子の方を見る。


なな子「私、テストの日までみっちり香月に勉強教えるから」


悠佑「・・・お、おぅ…」


なな子「だから…あんたも真剣に勉強覚えて、絶対に留年なんかするんじゃないよ」


悠佑「うん、分かってる…」


「待ってるから…さ」

なな子が赤くなった顔を隠すように俯きながら言った。


「え…」

香月は驚きながらなな子を見た。


なな子は顔を背けながら、スタスタ歩いて行った。


「・・・っっ」

・・・カァァァ…

悠佑の顔はみるみる紅潮していった。

またもや恋雷が落ちたのである。


"待ってる…"

そして、なな子の恥じらう顔…


"・・・ったく…。アイツ、卑怯だぜ…。俺にどんだけ雷落とすんだよ…"


なな子の何気ない一言と仕草は、悠佑にとって何億ボルトの威力があった。


そして悠佑もまた、次のテストは何としても頑張らなければと決意するのだった…。


-----


そしてさらに時は経ち、ついにテスト当日の朝を迎えた。


なな子はいつも通り登校している。


いつもは悠佑が合流して来るが、今日は来ない。


"どうしたんだろ…。香月、大丈夫かな…"

なな子は心配しながら学校へ向かった。


なな子が教室へ着くなり、教室の入り口が何やらざわついていた。


なな子は教室の中を覗いた。


「・・・っ!!」


悠佑は既に登校しており、黙々と勉強していた。


周りのクラスメイト達は驚きの表情で悠佑を見ていた。


悠佑の話しかけるなオーラがメラメラと溢れ出ていた。


さすがの悠佑の熱烈ファンである玲花も声をかけられずにいた。

玲花がなな子に気づくと、なな子の方へ近づいてきた。


「鷹鳥さん、悠佑くんに何かしたの??最近の悠佑くん…何か別人みたいなんだけど」

玲花が険しい顔でなな子に言う。


「・・・。別人じゃないと思うけど。前から同じだよ、中身は変わってない」

なな子が冷静な口調でそう言うと、自身の席へ歩いて行った。


「・・・っっ」

"何よ…悠佑くんの事、分かったような口利いちゃって。私の方が悠佑くんのこと分かってるのに!"

玲花は苛立ちを募らせた。


そんな玲花の姿をなな子の友人である吾郎は黙って見ていた。


なな子はテストが始まる前、チラッと隣の席に座る悠佑を見た。


すると悠佑もなな子を見ると、親指を立てグッのポーズをした。


なな子は小さく微笑んだ。


「始めッ!」

テスト開始の合図と共に、テストが始まった。


教室は、鉛筆の音と紙をめくる音だけが鳴り響いていた。


--


「終わりッ!はい、手を止めて下さーい」

しばらくすると担任の戸辺が声をかけた。


なな子が一呼吸置き、そっと悠佑の様子を見てみた。


悠佑は空中を見ている。


"・・・?あれは…どういう心境なんだ?"

なな子もとりあえず同じように空中を眺めてみた。


----


昼休み、なな子が廊下を歩いていると中庭で悠佑と玲花が話しているのが見えた。


悠佑は優しい表情をさせながら玲花の頭をポンポンしている。

二人は仲睦まじく笑い合っていた。


「・・・・」

"何だろう…。この頭のモヤモヤと胸が締め付けられる感じ…"


なな子は、仲睦まじそうにしている悠佑と玲花の姿に今まで感じたことのない感覚を覚えた。


なな子が呆然と外を眺めていると、そこへ国語教師の可菜実が声をかけてきた。


「鷹鳥さん、どうかしたの?」


可菜実はそう言うと、チラッと窓の外を見た。

外では悠佑と玲花が談笑しているようであった。


"なるほどね…"

可菜実は何かを察した。


「先生…。何て言って表したらいいか分からないんですけど…突然頭がモヤモヤってして胸がギューって苦しくなって、イライラってするようなこと…あります?」

なな子は外を見つめたまま、思わず可菜実にたずねた。


「・・・あるわよ」

可菜実は静かに応えた。


「あるんですか…」

なな子は驚いたように可菜実を見つめた。


「鷹鳥さん…。それ、何だか分かる?」

可菜実が微笑みながらなな子を見つめた。


「え…。何なんですか?」

なな子は真剣な表情で可菜実を見た。


「ふふふ…っ。嫉妬よ」

可菜実が笑いながら応えた。


「え…」

なな子は、予想もしていなかった可菜実の言葉に拍子抜けをした。


「要はやきもちよッ!やきもちッ!」

可菜実は言葉を変えもう一度なな子に念を押すように言った。


「え、私が…?」

なな子は驚きながら可菜実を見た。


「やきもち焼くのとか嫉妬っていうのは、好きの裏返しだからね。好きじゃなきゃそんな感情にならないわよッ」

可菜実はニコッと笑った。


「・・・・っっ」

なな子は急に顔が熱くなった。


「鷹鳥さん、やきもち焼いたり嫉妬するのは好きなら当然の事よ。その感情、しっかり受け止めなさい」

可菜実は優しく微笑みながら、なな子の肩にそっと手を置くとその場を後にした。


なな子は、去って行く可菜実の後ろ姿を呆然と見送った。

そして、外で話す悠佑達に目を移した。


「・・・これが、嫉妬…」

なな子はポツリと呟いた。


"やっぱり私は、完全に香月の事が好きなんだ…"

なな子は改めて自身の気持ちを再確認するのであった。


----


しばらくして悠佑が教室へ戻ると、なな子は本を読んでいた。


悠佑がなな子に話したそうに視線を送った。


悠佑の視線に気づいたなな子はチラッと悠佑を見るがすぐに目線を本へ戻した。


悠佑「・・・・っっ!!」


''何か…鷹鳥、いつもに増して冷たい…"

悠佑は驚きと共に肩を落とした。


一方なな子はというと、先程目撃した悠佑と玲花を思い出し苛立ちながらも自身の嫉妬という感情に困惑していた。

初めて味わう感情にどう対応すれば良いものかと、なな子は頭をフル回転させていた。


キーンコーンカーンコーン…


「楠木くんッ!今日予定ある?テストも終わったし私達と新しく出来たワッフルのお店行かない?」

クラスの女子達が涼太を誘っている。


友人の多満子は、涼太から借りたままになっている洗濯したハンドタオルを見つめながら俯いている。


「ごめんッ。俺、今日大事な用事があるんだ」

涼太が爽やかに断っていた。


「何だぁ、残念…」

女子達はしょんぼりしながら去って行った。


しばらくして、涼太は多満子に声をかけた。


「多満子ちゃん、ちょっと良い?教えてほしいことがあってさァ」


「え…」

多満子は驚いたように涼太を見つめた後、なな子の方を見た。


なな子は多満子に小さく微笑んだ。

多満子は不思議に思いながらも涼太から借りてあったハンドタオルを持ち、涼太の後をついて行った。


"楠木…ようやく原石に気づいたんだな…"


なな子はホッとひと息ついた。


--


多満子と涼太は屋上へとやってきた。


「えっと…教えてほしいことって…」

多満子は涼太の顔を覗いた。


「あ…うん…」

涼太は若干顔を赤くしながら俯いた。


「あっ!そういえば…これ、ありがとう…」

多満子は涼太から借りてあった洗濯したハンドタオルを可愛い袋に入れて返した。


「あぁ!ありがとう。洗わなくても良かったのに」

涼太は笑顔で受け取った。


「いやいや…そんな…」

多満子は俯いた。


「・・・・」

すると間もなく、二人の間に沈黙が流れた。


多満子「・・・あの」

涼太「・・・あの」


二人同時に口を開いた。


「ごめんなさい…どうぞ…」

多満子は恥ずかしそうに俯いた。


「あ、いや…こっちこそごめん…」

涼太も俯いた。


「あの…多満子ちゃん…」

しばらくして、涼太が意を決したように口を開いた。


「俺さ…多満子ちゃんの事…もっとよく知りたいなって思って…」

涼太は言葉を振り絞るように緊張した面持ちで言った。


「え…?私の…事を…?」

多満子はキョトンとした顔で涼太を見つめた。


「俺、好きになったんだ…多満子ちゃんのこと…」

涼太が顔を赤くしながら多満子を見た。


「え…。えぇぇぇーっっっ!!!」

多満子は予想だにしない涼太の言葉に驚き悲鳴を上げた。


「あはは…っ、やっぱ驚くよね、ごめん…」

涼太が苦笑いしながら頭をかいた。


「い…いえいえ…。私みたいなものに、そんな事言ってもらえるなんて…ビ、ビックリして…」

多満子は俯きながら自らを落ち着かせるようにゆっくり言った。


「みたいなもの…なんかじゃないよ、多満子ちゃんは。すごく…魅力的なんだからさァ。前に多満子ちゃんから言われた言葉、そっくり返すよ…。多満子ちゃん、もっと自信持ってよ」

涼太は照れながら多満子を見た。


「・・っ!…あ、ありがとう…すごく…嬉しい…」

多満子は顔を赤くしながら呟いた。


「この前までななちゃんの事好きって言ってたのに…軽い男って思われちゃうかもしれないんだけど…。でも…その時の感情とは明らかに違う感情っていうか…もっと深い好きっていう感情で…。俺、多満子ちゃんの事…本気で好きだって思うんだ」

涼太は真剣な表情で多満子を見つめながら言った。


多満子は驚いた表情で涼太を見つめた。


すると、多満子は静かに口を開いた。


「ずっと…胸に閉まっておこうって思ってたけど…。私も…言います…。私、実はずっと楠木くんの事が好きでした…。それと、今も…好きです…」


多満子は顔を真っ赤にしながら声を振り絞るように言うと涼太を見つめた。


涼太は驚いた表情を浮かべた後、力が抜けたように優しい笑顔になった。


「良かったぁ…俺、勇気出して…」

涼太は天を仰いだ。


多満子の目からは涙が溢れていた。


涼太はそっと多満子から返してもらったハンドタオルを取り出し、多満子の顔を吹いた。


そして、多満子をぎゅっと抱きしめた。


「また…洗って返さないと…タオル…」

多満子は泣きながら小さい声で言った。


「アハハッ!いいよ。このタオルも多満子ちゃんが好きみたいだ」

涼太は笑顔で言った。


なな子と悠佑より、一足先に結ばれた多満子と涼太であった。


---


「鷹鳥ッ」


なな子が校舎から出ようとした時、後ろから悠佑が駆け寄ってきた。


「おつかれ」

なな子はボソッと呟くと悠佑を見ずにそのままスタスタ歩く。


「おぃッ!それだけかよッ!テストの手答えとか俺に聞かねぇのかよッ」

悠佑はなな子の後を追いながら言った。


「・・・・」

なな子は無言のまま足を止めようしない。


「オィ待てよッ!無視すんなッ」

悠佑はそう言いながらなな子の腕を掴んだ。


「・・・っっ」

なな子が顔を赤くしている。


「え……何?…どうしたんだよ…」

なな子の表情に驚いた悠佑は、なな子の顔をじっと見つめた。


「ちょっとほっといてよッ!」

なな子は悠佑の手を振り払うとスタスタ歩いて行った。


「・・何なんだよ…アイツ…」

悠佑は呆然となな子の後ろ姿を見つめた。


「香月くん、どうかしたの?」

そこへ国語教師の可菜実がやってきた。


「え…別に…」

悠佑が俯きながら立ち去ろうとした。


「そう言えば…お昼休みに鷹鳥さん、廊下から中庭を見ていたようだけどぉ…。何を見ていたのかしらねぇ?」

可菜実は悠佑にそう言うと微笑みながら去って行った。


「え?…昼休みに中庭を…?」


"・・っ!!まさか、アイツ…逸ノ城とのことを…"

悠佑は思い当たる事満載であった。


悠佑は慌ててなな子の後を追いかけた。


その様子を可菜実は微笑みながら見ていた。


-----


昼休みの中庭ー


「悠佑くんって…もしかして鷹鳥さんの事、好きなの?」

玲花が悠佑にたずねた。


「あ、やっぱ分かる?」

悠佑が照れながら言った。


「分かるよッ!!ここまで悠佑くんが変わることなんてないもんッ!分かりやす過ぎッ」

玲花はプンプンしながら言った。


「うわ、マジかー。俺、そんな出てる?っつーか、何で女ってそんなに勘が鋭いわけ?」

悠佑が腕組みしながら頭を傾げた。


「・・・っっ。でも…何で鷹鳥さんなの?教え方がそんなに魅力的だった?それとも悠佑くんの趣味が変わったとか?」

玲花は悠佑の顔を覗きながら聞いた。


「教え方以前に…全部が魅力的だよ、アイツは」

悠佑が真面目な口調になった。


「え…。あんなに…地味でおとなしいのに?」

玲花が驚いたように悠佑を見た。


「アイツ、地味じゃねぇよ。見た目はそう見えるかも知れないけどさァ、生き方が派手なんだわ。おまえもそのうち分かるわッ」

悠佑がそう言うと、玲花の頭をポンポンした。


「・・・っっ。全然分かる気がしないッ!」

玲花が反論した。


「まぁまぁ」

悠佑は笑った。


「もぉ…」

玲花も悠佑の笑顔に釣られて気が抜けたように笑った。


「なぁ…。前から思ってたけどさァ、おまえ…今連んでる友達といて本当に楽しんでる?」

突然、悠佑が玲花にたずねた。


「え…」

玲花は驚き悠佑を見た。


「いや、いつもおまえ…なんか無理してるような感じがすっからよ」

悠佑は玲花の顔を覗く。


「そ…そんなことないわよッ!」

玲花は悠佑の予想だにしない言葉に動揺した。


「逸ノ城って、いつも俺のことがどうとかって言ってくるけどさァ、そう言いつつおまえがいつも見てんのは鷹鳥の方だよな…何だかんだ言って」


悠佑がチラッと玲花を見る。


「・・・っっ!そ、そんなこと…ない…」

玲花は言葉を濁した。


「おまえも実は鷹鳥の事が気になってんじゃねぇの?友達になりてぇって思ってんじゃねぇのか?」

悠佑は玲花にズバリ言った。


「・・・誰が、あんな子と…」

玲花は顔を逸らした。


悠佑はそんな玲花の様子を見ながら小さくため息をついた。


「まあ…強がるのも大概にしろよ?じゃねぇとおまえ…たぶん、心がもたねぇぞ」

悠佑はそう言うと、玲花の肩を叩きその場を去って行った。


「・・・・っ」

玲花は悠佑の言葉を聞き、ふとある人から以前かけられた言葉を思い出した。


"逸ノ城さんって香月くんの事を見てるのかと思いきや、いつだって鷹鳥さんを見てるよね"

玲花の隣の席に座る吾郎の言葉だった。


「何で皆そんな事言うのよ…」

玲花は俯きながら呟いた。


-----


「鷹鳥ーっっ!!」

悠佑はゼェゼェしながら、なな子に追いついた。


「ほっといてって言ったでしょ」

なな子は足を止めない。


「待てよッ!!」

悠佑はなな子の腕をぎゅっと掴み引っ張るとなな子を抱きしめた。


「・・・・っっ!」

なな子は驚き固まった。


悠佑「昼休みに…見てたんだろ?…ごめん…誤解させた…。テスト終わって俺のチャラさが戻ったとかじゃなくて…別にアイツとは何も…」


なな子「・・何で謝るのよ…。別に私達、付き合ってないじゃん」


悠佑「・・・っっ。まぁ…そうだけど…」


「良いんだよ、ほんとに…ほっといてくれれば。私が勝手に嫉妬してるだけなんだしッ」

なな子はそう言うと悠佑から身体を離した。


「え…?今…何て言った…?」

悠佑は驚いた表情でなな子を見つめた。


「・・・?……あっ…」

なな子はようやく自分が何か言葉をポロッと溢したことに気づいた。


「嫉妬してくれてんの?」

悠佑は真剣な表情でなな子を見つめる。


「・・・っっ」

なな子は顔を紅潮させ俯いた。


「何で嫉妬してくれてんの?」

悠佑は真っ直ぐなな子を見つめている。


"好きだから"


それはお互いに分かっていたことだった。


でも…今は言わない…


なな子は硬く握り拳をつくり堪えて言った。


「まだッ!・・まだ…違う。今じゃない!」

なな子はそう言うと、走って行った。


悠佑は呆然としながらも、なな子への愛おしさが増すばかりだった。

悠佑はなな子に対する想いの我慢が限界を迎えようとしていた。


"明日、必ずなな子に告白する"

悠佑は固く決意をした。


それに…悠佑には、明日なな子に告白できるという自信があった。


悠佑は、テスト結果の出る明日が早く来ないかと…ここまで明日が待ち遠しく思ったのは初めてであった…。

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