第3話 デカゾンビとエリクサー


「グォォォォ!!」


 完全ゾンビの唸り声が、森全体に響き渡る。その声だけで体が震える。後ろを振り返ると、巨大なゾンビがこちらに向かって全速力で走ってきていた。


「おいおい! あんなデカいの反則だろ!」


「文句言ってる場合じゃない! あいつに追いつかれたら即アウト!」


 ミナが叫びながら、木々の間を縫うように走る。俺も必死に追いかけたが、全力疾走をしているにもかかわらず、後ろのデカゾンビとの距離はどんどん縮まっていく。


「どうすんだよ! このままじゃ追いつかれるぞ!」


「ちょっと待って、考えがある!」


 ミナが突然足を止め、あたりを見回し始めた。


「おい、なんで止まるんだよ!?」


「静かに! あそこ!」


 彼女が指さした先には、巨大な倒木が横たわっていた。デカゾンビの進路上にちょうどいい障害物になりそうな位置だ。


「倒木を利用するの?」


「そう。あいつは足元を見ないで突っ込んでくるはず。倒木にぶつかってバランスを崩したら、その隙に逃げる!」


「えっ、それだけ!? 倒木でどうにかなる相手じゃないでしょ!」


「文句言うなら他にいい案出してよ!」


 俺は何も言い返せなかった。こうなったら、ミナの作戦に賭けるしかない。


 デカゾンビは、倒木に気づかないまま突進してきた。ミナはタイミングを見計らい、倒木の向こう側にジャンプ。


「今だ! 倒木に引っ掛け!」


 その瞬間、デカゾンビの巨大な足が倒木にぶつかり、バランスを崩した。その巨体が地面に倒れる音は、まるで小さな地震のようだった。


「やった! 倒れた!」


「いや、まだだ!」


 ミナが鋭く叫ぶ。倒れたデカゾンビは、すぐさま立ち上がろうとしていた。こいつ、耐久力がおかしい。


「走るぞ! この隙に距離を取る!」


 俺たちは全力でデカゾンビから距離を取ることに成功した。しかし、安心する暇もなく、ミナが言った。


「あいつ、ただの完全ゾンビじゃない。『強化型』かもしれない。」


「強化型? 何それ?」


「普通の完全ゾンビより身体能力が高く、理性が少しだけ残ってる奴。特に強いやつは、人間を執拗に狙うんだよ……。」


「うわ、最悪じゃん! それに、なんで俺を狙うの?」


「……生きてる人間は、完全ゾンビにとって最高のエサだからね。」


 俺は一瞬言葉を失った。どうやら、この世界で生きているだけで狙われる理由になるらしい。もはや、俺が勇者とか関係ない気がしてきた。


 逃げ続けた俺たちは、森の中にポツンとある小屋を見つけた。


「ここなら一時的に身を隠せるかも!」


 ミナの案内で小屋に駆け込むと、そこは思ったよりも荒れていなかった。古びた家具や棚が残っていて、使える道具がいくつかありそうだ。


「ここ、前に私が使ってた隠れ家だ。デカゾンビも森の中であんな小さな小屋は探せないはず。」


「助かった……とりあえず休憩しよう。」


 俺はへたり込むと、ようやく息をつくことができた。だが、その瞬間、ミナが何かを見つけたように立ち上がった。


「ちょっと待って。この本……。」


 彼女が手にしたのは、埃をかぶった古い本だった。その表紙には、何か文字が刻まれている。


「これは……ゾンビ病に関する研究記録かもしれない!」


「マジで!? それ、治療法とか載ってるのか?」


「まだわからないけど、ページを見てみる……あった! 治療に必要なアイテムのリスト!」


 ミナが指さしたページには、見慣れない道具や薬品の名前が並んでいた。しかし、その中に気になる一文があった。


「治療薬の材料は、王都の地下に隠された『純白のエリクサー』を必要とする。」


「純白のエリクサー……。」


「王都の地下、やっぱりそこがカギだな。でも、そんな簡単に行ける場所じゃないよ。」


「仕方ないだろ! 行かないと、この世界終わるんだから!」


 ミナは少し驚いた顔をしたが、すぐに小さく笑った。


「……案外、やる気あるじゃん。」


「別にやる気があるわけじゃない。こんな世界でゾンビになるのは嫌だし、帰る方法を見つけるためにも治療法を探すしかないんだよ。」


 こうして俺たちは、王都の地下に隠された「純白のエリクサー」を探すことを決意した。しかし、そこにたどり着くまでに待ち受けている危険は、まだ誰にも分からない。


「さて、これからどうやって王都まで行くか……。」


「まあ、まずはここで夜を明かそう。今は逃げ切れただけで十分だよ。」


 外では、まだ完全ゾンビの唸り声が響いている。だが、俺たちは少しだけ未来への希望を感じていた。




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