第2話 そして俺は死ぬかと!?

 いやー、死ぬかと思った……てか死にかけたわ!」


 森の中を全力で走り抜けた俺は、どうにかゾンビたちの追跡を振り切り、大きな木の陰で肩で息をしていた。異世界に来たと思ったらゾンビに囲まれるとか、俺の運命どうなってんだよ。


 しかし、この世界で俺が一人きりでやっていけるとは到底思えない。ゾンビ病が蔓延した理由も、治療法も分からない。そもそも俺、剣も魔法も使えないし!


「仲間がいないと話にならん。ここは、一緒にやっていけそうな人を探すしか……。」


 そう考えた矢先、近くの茂みから音が聞こえた。


「シャーッ! 」


「うわあああ! またゾンビか!?」


 反射的に身を引く俺だったが、茂みから飛び出してきたのは意外にも普通の人間っぽい――いや、人間じゃない。よく見れば、肌が青白くて片方の目が真っ白なゾンビ……っぽい女子だった。


「あんた、生きてる人間? それとも新参のゾンビ?」


 女子は、こちらに鋭い目を向けながら問うてきた。手には木の棒を握りしめている。え、ゾンビなのに喋れるの?


「えっと……俺、生きてる人間なんだけど。」


「マジか! 生きてる人間なんて超レアじゃん!」


 驚いたように目を輝かせる女子。ゾンビのくせに、なんかテンション高い。


「私はミナ、半ゾンビの生き残りってところ。あんた、名前は?」


「日向アキラ。てか、半ゾンビって何?」


「そのまんま。完全にゾンビ化する手前で踏みとどまってる状態。私みたいな奴は、この世界じゃ少数派なのよ。」


「へえ……それで、なんで俺のこと襲わないんだ?」


「そりゃ、私はまだ人間の理性が残ってるからね。でも、普通のゾンビが理性なくしたら襲う。で、完全なゾンビになったら終わり。」


 なるほど。どうやらこの世界の住人には「半ゾンビ」と「完全ゾンビ」の2種類があるらしい。ミナはその前者で、ギリギリ理性を保ってるってことか。


 で、あんた、こんな場所で何してんの?」


「召喚されてきたらゾンビに襲われてさ、逃げ回ってたらここに来た感じ。」


「召喚……ってことは、勇者?」


「一応そうみたいだけど、俺、戦闘もできないし、治療法も知らないんだよね……。」


 ミナはしばらく黙った後、少し吹き出して笑った。


「ハッ、無能勇者か。まあ、何もできないよりマシだよ。とりあえず仲間になってやる。」


「えっ、マジで?」


「生きてる人間は貴重だからね。てか、私一人じゃどうにもならないことも多いし。ギブアンドテイクってやつ。」


 そう言いながら、彼女は手を差し出してきた。ゾンビだけど、妙に頼りがいのある雰囲気だ。


「じゃあ、よろしくな。まずは安全な場所を探そう。完全ゾンビが出てくる前に。」


 ミナと共に森を進む中、俺は彼女からこの世界の事情をさらに聞き出した。

  • ゾンビ病の原因: 魔法実験の失敗によるものと言われているが、詳細は不明。

  • 半ゾンビの現状: ほとんどの人が完全ゾンビになる前に力尽きる。

  • 安全地帯: 街の一部には、まだゾンビ化していない人間がいるらしい。


「で、治療法とかないの?」


「誰も知らない。でも昔、治療法に関する文献が残ってたって噂を聞いたことはある。」


「どこにあるんだ、その文献?」


「……たぶん、王都の地下図書館。」


 王都、つまり最初に俺が召喚されたあの場所だ。ゾンビだらけの中に戻るなんて考えたくもないが、希望があるなら行くしかない。


「王都に行くのは危険だよな……。」


「そうだね。でも、この世界を救う勇者なら何とかするんじゃない?」


「やめてくれ、そのプレッシャー……。」


 そんな会話をしていた矢先、森の奥から低い唸り声が聞こえた。


「グォォ……グォォォォ!」


「……ヤバい! 完全ゾンビが来た!」


 ミナが慌てて叫ぶ。その声を合図に、木々の間から現れたのは、体格が異様に大きなゾンビ。肌はただれ、腕には血まみれの爪。


「おい、こんなの聞いてないぞ!?」


「黙って走れ! あいつは普通のゾンビと違ってヤバい奴!」


「マジかよ、また逃げるのかよ!」


 俺とミナは全力で走り出す。異世界の森を、後ろから迫る完全ゾンビの唸り声を聞きながら。


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