異世界in・The・ゾンビ ワールド 〜王様から「この世界を救ってくれ」と頼まれたけど、もうすでに手遅れでした〜
@とむ
第1話 ゾンビの異世界は嫌だ。
広がる青空。緑豊かな森。遠くに見える城壁の街――そう、これはゲームやラノベでお馴染みの異世界そのものだ。
「ようこそ、勇者様!」
目の前に現れたのは、年老いたヒゲの王様風のおじいさんだった。全身鎧をまとった兵士たちに囲まれている。
「勇者よ、この世界を救ってくれ。我々は深刻な危機に陥っているのだ!」
ここまでは、よくある異世界召喚の出だし。大体ここから魔王を倒しに行くとか、王女を救いに行くとかそういう話が始まるのだろう。
だが、俺の異世界生活はその瞬間、完全にズレた。
なんか、臭くないですか?」
ふと気づくと、あたりに鼻をつく悪臭が漂っていた。そして、王様の後ろに立っていた兵士たちを見て、俺は凍りついた。
目の下にクマができ、肌は灰色。ところどころ皮膚が剥がれて骨が見えている。口からはヨダレが垂れ、目には生気がない。
そう――全員ゾンビだった。
「うおおおおおお! ゾンビじゃねえか!」
俺は全力で後ずさった。だが、王様はその様子を見ても驚く様子はなく、むしろ淡々と説明を始めた。
「そう、わしらはゾンビなのだ。」
「なんで!? 普通の人間じゃないんですか!? 異世界召喚って、もっとこう、キラキラしてるイメージだったんですけど!」
「かつてはそうだった。しかし、この世界には数年前から『ゾンビ病』が広がり、人間のほとんどがゾンビになってしまったのだ。」
「おいおい、それもう手遅れじゃないですか!」
どうやらこの世界では、ある日突然ゾンビウイルスが蔓延し、人々が次々とゾンビ化したらしい。ただ、完全なゾンビではなく、最低限の理性を保っている者もいるらしい。つまり、この王様のように「ゾンビだけど会話はできる」タイプだ。
「勇者よ、我々を完全なるゾンビ化から救ってくれ!」
「えーっと……俺、一応普通の高校生なんですけど。ゾンビを治す方法なんて知らないですよ?」
「だからこそ、お主を召喚したのだ。我々には時間がない。治療法が見つからなければ、我々は完全なゾンビになり、世界は終わりを迎える……。」
ここで普通なら「仕方ない、引き受けるか」となるのだが、俺は一つ大きな疑問を抱いた。
「待ってください、そもそも俺、この世界で生き延びられるんですか? ゾンビだらけの世界とか無理ゲーじゃないですか!」
王様は、しばらく黙り込んだ後、申し訳なさそうにこう言った。
「……それについては、すまない。」
その瞬間、俺の後ろから聞き覚えのある呻き声が聞こえてきた。
「グゥゥ……アアアア!」
振り向くと、森の中から何十体ものゾンビがこちらに向かってくるのが見えた。しかも、このゾンビたちは完全に理性を失ったタイプ。俺の目の前に迫ってきたのは、噛みつく準備万端のゾンビの群れだ。
「王様! これ、もう助からなくないですか!?!?」
「ふむ、そうかもしれんが、勇者ならなんとかするのではないか?」
「無責任すぎるだろ!!!」
俺は咄嗟にその場を全力で駆け出した。ゾンビだらけの異世界で、俺の生存戦略が始まる。
だが、この先、俺がどうやってこの世界を救うのか――それは、まだ俺にもわからない。
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