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家に帰ると、和也はすぐに風呂を沸かした。「一緒に入るか?」と聞いてきたので、俺は黙って脱衣場に入った。和也はすでに上のシャツを全て脱いでいて、あとは下半身を晒すだけだった。和也は呆気にとられていた俺の代わりに服を全て剥いでくれた。和也もメガネを外し、パンツをおろした。俺たちは互いに初めてありのままの姿を見せあった。いや、見せあったというより、俺が一方的に見ていた。広く明るい風呂場。シャワーを浴びる和也の剛健な筋肉がよく見える。俺の知らないところで、きっとトレーニングをしているんだ。和也はシャンプーを洗い流し、風呂に浸かる俺の方へ来た。恥ずかしくて和也から目を逸らす。和也は俺の背後に足を浸からせたかと思うと、ぐいっと俺を抱きかかえそのまま風呂に沈んだ。
色々なところが直接、触れ合っている。抱かれた腕はそのまま俺を離さず、和也のついた息が、首筋にあたってこそばゆい。風呂の温度はちょうどいいはずなのに、今にものぼせてしまいそうだった。
自身の
バスローブ越しの触れ合い。ただの抱擁。直で触れる熱を知ってしまってからでは、物足りなく感じた。こんな温厚な彼にでも、少なからずそういう欲はあるだろうと俺は思っていた。冷たい足先で和也の足の甲をつつく。やっぱり俺は欲張りな人間になってしまっている。和也が欲しかった。和也にも俺を求めて欲しかった。でも、和也は「愛してる」と言って、ただ抱きしめる力をを強くするだけだった。
和也は優しい男だった。
あまりにも優しすぎる男だった。これ以上に彼に近づける日はもう来ないのかもしれないと思うと、どうしてか胸が痛くなった。後に俺たちの関係は、プラトニックというのだと、店に来た女性の客が教えてくれた。彼女は「素敵な関係ね」と言い、精神的な繋がりこそが、真実の愛なのだと教えてくれた。
「真実の愛」という言葉は、俺を気持ちよくさせた。それからも、和也から与えられるプラトニック的な愛情は、日に日に俺を満たしていく。定期的に贈られる、指環のコレクションは年々増え続けた。いつ間にか耳のピアスの穴は塞がり、俺の闇も晴れていった。彼と直接的に繋がれなくても、心は繋がっているのだと俺は信じて疑わなかった。
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