side① - 3
美容室のアシスタントの仕事が早く終わり、何となく駅をさまよった日があった。
ゲームセンター、映画館、ファミリーレストラン、俺には縁のなかった場所をただぼーっと眺めていた。もう帰ろうかと、改札口へ向かっている最中、偶然にも和也と出会った。
和也の隣には、とある男がいた。
黒髪で伸びた前髪の間から見える切れ長の目が綺麗な男だった。両耳にはジャラジャラと大量のピアスをつけていた。顔面にも、唇の下にひとつ、こめかみにひとつ。
「大学の友達なんだ」
と和也は言った。
隣の男は「どーも」と会釈し、【
彼はモデルみたいな人だった。スラリとしたスタイルは、和也と並んでいても劣ることはなく、2人で並べば一般人とは違うオーラを放っていた。
和也の携帯電話が鳴った。すまん、と言い和也がその場を少し離れると、二見は俺を品定めするように、視線を下から上へと移した。
「ボク、キミにあってみたかったんよ」
「ユウくんって言うんやろ」二見は関西訛りでにこやかに微笑んだ、かと思うと和也には聞こえない小さな声で、
「キミはなんでも持っててええなあ」
と俺に耳打ちした。
確かな嫌悪が降り掛かってきた。
どこの誰が見ても、二見の方がなんでも持っている側の人間であることは明白だった。俺は皮肉を言われたのだと理解した。俺自身はなにも持たない空っぽだと言われたような気がした。
恥ずかしくなって、居てもたってもいられず俺はその場から逃げた。図星だと思った。
「身の丈にあった生活をしなさい」
昔、父親に言われた言葉を思い出した。俺が菓子を強請った時に言われた言葉だった。それは、俺が和也からプレゼントされた指環の1000分の1の価値にも満たないような菓子だった。
その場で涙が出るかと思った。でも、
「遊!待てよ。」
和也が俺を呼んだ。もう歩き出していた足は自然と止まり、そのうち手が引かれた。今にも泣き出しそうな俺を見て、和也は着ていたジャケットを脱ぎ俺の頭に被せた。
和也は二見に「今日はこいつと帰るわ」と言い残し、俺を路地裏へと隠した。
勝った、と思った。さっきまで、和也の世界を占めているのは俺ひとりだけではない、という当然の事実に落胆していたが、それでも占有面積は俺が1番なのだという優越感に襲われた。和也はその指で、零れそうになっている俺の涙を拭い優しく微笑んだ。この時、絶えず優しさを与えてくれるこの男を、本当に自分ひとりのモノにしたいという明確な欲望が芽生えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます