動物だけに許される事
ガタンゴトンって馬車に揺られること数十分。
「ルクスは外見るの好きなの?」
俺はエリーちゃんのお腹攻めを抜け出した後から、場所の窓から外を見ていた。
「ルクスの目には、何が見えてるのかしらね」
それがね、うっすらとしか見えてないんですよ!森を抜けて開けた場所を走ってる事はわかるんだけどね?
お?遠くの方に光が見える!
なんだろう?結構大きな建物みたいだけど。
コンコン。
その時、御者台からノックされる。
「お嬢様。そろそろ着くようです」
その音を聞いたダンディーさんが、そんなことを言う。
「そう。着いたらとりあえず着替えなきゃね」
着替え?今も結構すっごいドレス着てるけど、それじゃダメなん?
「そうですね。少し控えめになってしまいますが……」
「いいのよ。そもそもこのドレスが派手過ぎたのよ」
そう言うと、エリーちゃんはスカートを持ち上げる。
あぁ!見えちゃう!見えちゃ……。
あれ?裾の方が結構汚れてる?
……もしかして、俺を助けた時か!?
そりゃあ、土砂降りの中、俺を拾うために外へ出てきたら汚れちゃうよな……。
「にゃ~、にゃ~」
気づけば前足で泥汚れを触っていた。
スカートに着いた泥は乾き始めていて、少し触るだけでパラパラと落ちてはいくが、綺麗にはならない。
「なに~?気にしてるのかしら?」
ま、まぁ?気にならないと言えばウソになるけどね?
「派手に装飾される事にも、それなりの理由があるのですよ」
「富や権力の誇示の事でしょ。私そういうのあまり好きになれないのよ」
「好きや嫌いで物事を決めてはいけません。いずれお嬢様も慣れていかなければいけない事です」
「はぁ。貴族って面倒な事ばかりで嫌になるわ。……それに、もう少しで着きそうじゃない」
エリーちゃんは肘掛にもたれ、頬杖をついたまま、ため息を零すと窓の外を見つめる。
ぷくり。と頬を膨らませているのが可愛いと俺は思いました。
そんな事より、話を聞いていると、エリーちゃんってそこそこ位の高い貴族なのかもしれないね。
まぁ、エリーちゃんが貴族様だってのはなんとなく、わかってはいたことだけど。
侯爵?う~ん。高すぎるかな?伯爵あたりかな?
「ルクス。貴方にも貴族の猫として、相応しくなって頂きますからね」
え?ダンディーさん!どういうこと!?
そんなモノクルをキラリと光らせて言わなくてもいいと思いますよ?
というか、月の光さえ無いこんな悪天候の中どうやって光らせたの!?魔法ですか!?
「にゃ!にゃ!にゃ~!」
「やる気があるようで、すばらしいです」
違うんですよ?というか、子猫に何をさせる気なのぉ!?
その笑顔が怖いですよー!ダンディーさん!
「ハロルドって案外動物と喋るタイプの人だったのね」
俺とダンディーさんのやりとりを見ていたエリーちゃんが頬杖をつきながら言う。
「こほん。お嬢様、これも執事の嗜みってやつですよ」
「嘘つくんじゃないわよ」
エリーちゃんに、そう言われたダンディーさんは、ご立派な髭を撫でながら窓の外へと視線を移す。
「……おっと、そろそろ到着なされますよ」
ダンディーさんがそう言うと、馬車の速度が徐々に遅くなり始める。
「……そうね」
あれ?エリーちゃんの表情が優れないぞ?
馬車が止まると、静かに扉が開かれた。
「お嬢様、どうぞお気をつけてお降りくださいませ」
扉の先には、刺繍が施された白いヘッドドレスを付けた肩で切り揃えられた黒髪の女性が軽くお辞儀をしていた。
「ステップが少々高うございますので、ゆっくりお進みくださいませ」
ダンディーさんが、立ち上がり、エリーちゃんの手を取りサポートしようとしたが。
「必要ないわ」
エリーちゃんはそう言うと、俺を抱え上げると馬車を降りる。
なーんか、雰囲気が出会った時より冷たくなっている気がする?なんで?
「ルイ、ドレスが汚れたの。着替えたいわ。部屋まで案内して頂戴」
「かしこまりました。ご案内致します」
エリーちゃんの言葉に、頭を下げていたメイドさんは、部屋までの案内を始める。
黒髪のメイドはルイって言うんだ?
それにしても、エリーちゃんが別人?ってくらい変わっちゃったんだけど。
どうして?なんか怖いんだけど!?
あぁ……。思い出しちゃったよ。
学生の時にギャルが俺の席に座っててさ!そこ俺の席なんだけどって言った時の俺を見る目!
マジで怖かったわ!その時なんて言われたと思う?
あっそ。
あっそってなに!?結局退いてくれなかったし!教室の後ろの窓のところに縛ってあるカーテンで休み時間終わるまで時間を潰してた俺の気持ちを思いしれぇぇぇぇ!
っと、そんな辛い過去を経験して耐性のある俺でも、今のエリーちゃんの声音や雰囲気が、記憶を呼び覚ますくらい冷たいよ!
馬車の中じゃあんなに可愛かったのに。
二重人格ってやつ?
今のエリーちゃんだったら、窓の縁とかに指をこうサッてやってホコリを見つけて文句とか言っちゃいそうだもん!
今のエリーちゃん怖いよー!
「にゃ~!、にゃむっ!」
あぁ、ふわふわでいい匂いがする。
ここが天国か……はっ!いやいやいや!
エリーちゃん、俺が声を出した瞬間に、顔を胸元に押し付けるのは如何なものかと?
そして、ルイさん?ルイさんも結構鋭い目元をしているのね?
声を出した時、一瞬睨まれたかと思ってビクッてしちゃったよ。
「こちらになります」
1つの部屋の前に到着すると、ルイさんは静かに扉を開くと軽くお辞儀をして入室を促す。
うおぉー、すっげぇ!前世じゃまったく縁が無い場所だったんだろうなぁ。
その部屋は、まさしく豪華絢爛っていう言葉がピッタリな家具や装飾が施されていた。
「ルイ、貴女は入りなさい。……ハロルド。貴方、扉の前で控えてなさい」
「かしこまりました。お嬢様」
ダンディーさんがエリーちゃんの言葉に一礼すると、部屋の外に残したまま扉は閉まった。
「お嬢様!その汚れはどうしたのですか!?」
閉まると同時にルイさんが豹変した。
エリーちゃんのドレスの汚れた部分に顔を近づける。
「泥が乾いたものですね?」
ひぇ。
「……この薄汚れた猫が原因ですか?」
エリーちゃんの腕の中に居た俺の所に、ルイさんの顔が急接近してくる。
顔が整ってる分、無表情だとめっちゃ怖いよね。
しかも、目に光がねぇーもん。
俺がブルブル震えていると。
「……ルイ。怖がらせないでよ」
エリーちゃんがそう言い、ルイさんの視線から俺を隠してくれた。
た、助かった。
「しかし!せっかくのドレスを汚した事の罪は大きいです!何かしらの罰を与えなければ!」
えぇ……。ルイさんマジっすか?
ペチッ。
「イタッ。お嬢様!何を!」
俺に魔の手を伸ばしていたルイさんの手をエリーちゃんが叩き落としてくれた。
マジ天使!エリーちゃんマジ天使っすわ!
「ルクスに何をさせる気よ」
「ルクス?まさか!その猫にもう名前を付けたのですか!?」
「な、なによ?いいじゃない」
「お嬢様に近づく者は、誰であろうと危険なので近づけさせないのが、私の信条なんです!そう!例え子猫でも!」
初めて見た時はクールビューティーな人かと思ったけど、エリーちゃんが関わるとやばい人に変身するタイプの人でしたかっ!?
「そんな信条は捨てちゃいなさいよ。……こんなかわいいルクスが私に何をするって言うのよ」
腕に抱かれていた俺の脇の下をもって目の前まで持ち上げるニマニマするエリーちゃん。
というか、雰囲気が戻ったぞ?
マジで二重人格説出てきた?
コンコン。
「お嬢様。仲が良いのは素晴らしい事なのですが、些かお時間がかかりすぎていると思いますよ?」
ノックの後、ダンディーさんの声が扉の向こうから聞こえてきた。
「そうだったわ。ルイ。替えのドレスは持ってきているわよね?」
「はい。しかし、今のドレスよりは多少見劣りしてしまいますが」
……ルイさんの切り替えもすごいな~。さっきまで鼻息荒く喋っていたのに、今じゃ最初にあったクールビューティーなメイドさんなんだもんね?
「気にしないわ。逆に今のドレスの方は派手過ぎて落ち着かないし、丁度いいわ」
これも、ルクスのお陰ね?と言いながらウィンクするのは可愛すぎるでしょう。エリーちゃん。
そして、エリーちゃんとルイさんによるお着替えが始まりました!
もうね?目の保養になりましたよ。えぇ!本当に素晴らしいものでした。
マジで眼福でした!俺の脳内チップに永久保存されました!これで寂しい夜も元気に過ごせます!ありがとう!エリーちゃん!
え?何がって?そりゃーね?あれですよ?ドレスに着替えるんですから、色々と脱ぎ脱ぎしなきゃね?出来ないでしょう?
心の底から猫になってよかった!と叫びたい気分だぁぁぁぁぁ!
「にゃ~~~~!」
「あ?」
「にゃっ!?」
まぁ、途中でルイさんのゴミでも見るような目で見下されたから、全部は見られなかったんだけどね?
それでも、転生してよかったと思えた時間でした!
え?そんなことでいいのかって?小さな幸せがあるのは素晴らしい事なんだよ!
まぁ、1つ気になるのはエリーちゃんの変わりようなんだけどね?う~ん。気になる。
「あぁ~!お嬢様!素晴らしいです!艶めかしです!いやらしいです!」
「いやらしい!?ルイ、いきなり何を言ってるの!?」
コンコン。
「……少々お声が漏れております」
まぁ、この光景を見ていると、すっげー仲のいい主従でいいなって思うよな。
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