猫好きに悪いやつは居ない
うわぁ~、雨脚が強くなってきちゃったよ。
あれから、しばらく街道付近に居たけど、雨が強くなってきたから雨宿りが出来そうな木のうろに避難したけど、これからどうしようかなぁ~。
雨で濡れたのも失敗だったなぁ。
日も沈んで気温も下がって寒くなってきちゃった。
この身体じゃ、火を起こして暖を取ることなんて出来ないし。
マジでどうしよう!このままここを誰も通らなかったら寒さで凍死しちゃうんじゃないの!?
誰でもいいから!はやく!だれか!俺を!ひろってぇぇぇぇ!
――――――――――――――――――――――――――――――
「ニャ……」
どれだけ時間経った?
木のうろに居ても、雨の跳ね返りで身体がどんどん濡れてきてるし。
マジでこのままじゃ凍死で死ぬって冗談じゃなくて本当になっちゃう。
ふざける元気もないし。
ザァーッ!
「?」
あれ?雨音の中になんか聞こえたような。
木のうろから、顔だけを出して周囲を見る。
すると、雨と暗闇で視界が悪くなっている中で光が近づいてきているのが分かった。
あれはなんだ?
視線を凝らすと、豪奢な馬車が近づいてきているのがわかった。
あれ!?馬車じゃね!?
やったぜ!まさか見えるとは、流石ネコ科。
って、そうじゃない!気づいてもらわないと!
「ニャ~、ニャ~」
気づけ!気づけ!
「ニャ……」
くっそっ!寒さで体力なくなってやがる。
「ニャ~ン!」
助けてぇぇぇ!
ザァー!
ガタガタガタ!
目の前を無常にも通りすぎて行く馬車。
まじかよ……。
この雨の中じゃ、子猫の声なんて聞こえないか~。
くっそ~。俺の異世界転生モテモテハーレムは、速攻終わりか~。
座る体力も無くなり横になった身体の熱を地面はどんどん吸っていく。
パチャ!パチャ!パチャ!
ん?
このまま終わりかぁっと諦めていた俺の耳に、泥の上を走るような音が聞こえた。
「ハァハァ。……ッ!やっぱり居たのね」
その声の方向に顔を向けようと努力したが、動かなかった。
俺の体を声の主が持ち上げる。
持ち上げた人物は、金髪碧眼の目の覚めるような美少女だった。
ついでに言うと、すばらしいドリルをお持ちだった。
「お嬢様!いきなりどうされたのですか!?」
どうやら、もう1人居たみたいだ。
「この子の助けてって声が聞こえたのよ」
俺を胸に抱き抱えた少女は、一緒に来ていた人のそう言う。
あれ?もしかして、この娘は俺の言葉がわかるのか!?
よし!試してみるか!
………………。
バタンッ。
ガタッ。ガラガラ。
あれ!?
馬車の中!?いつの間に!?
周囲を見ると、完全に馬車の中に居た。
さっきまで、外に居たのに?
え?魔法?短距離転移ってやつ?
「この後のことを考えませんとな」
声のした方向に視線を向けると。
モノクルをしたダンディーな老執事が居た。
カッケェ。
そのまま渋おじ様を見ていると、視線が勝手に動いた。
「替えのドレスは持ってきているでしょ?それでいいじゃない。……あなたびしょ濡れね?いつからあそこに居たの~?名前は何がいいかしら?」
目の前には、また美少女が映される。
どうやら、少女の目線まで持ち上げられてるらしい。浮遊感あるもん。
それにしてもそっか、さっきまでこの娘の腕の中に居たのか。
視線を少女の胸元に向けると。
おっふ、中々のものをお持ちじゃないですかっ!
もしかして!もしかして!その場所に居たから、俺は意識を失ってしまったんじゃないでしょうか!?どうなんですか!?美少女さん!
なんか、独りじゃないって思うと、元気が出てきたよ!
「あなたの名前はルクスねっ!」
目の前の美少女は優しく笑い、可愛らしい声で俺にそう名前を付けた。
速報。俺の名前はルクスになったようです。
美少女が名付け親とか最高じゃん!
「ニャー!」
「あら?気に入ってくれたのかしら?」
俺の反応に美少女が笑顔になって俺もさらに笑顔ですよっ!
「クシュッ!」
さむぅ~。
ブルルッと体が震える。
「そういえば、ルクスはびしょ濡れだったわね」
俺を膝の上に優しく置くと、腰のあたりをゴソゴソし取り出したもので俺の体の水気を拭き取り始める。
「にゃ~、にゃ~……」
うぉ!めっちゃいい匂いする!しかも、拭いてくれてる布の肌触り?毛触り?っていうのかな。これも最高に気持ちいい!
ここは天国ですかっ!?……あれ?マジで天国か?目覚めたら木の根元で雨に打たれてたら絶望でショック死しちゃうかも……。
「ふふ。気持ちいいの?」
見上げた少女の顔の笑顔にノックアウト寸前の俺。
あぁ……。夢でもいいです。一生目覚め無いで!
「お嬢様。そのハンカチをご使用なさらなくても、申し付けて頂ければ別のハンカチがありましたのに……」
美少女の体温と優しく拭かれる感覚で夢心地になっていた俺の耳にダンディーさんの声が届いく。
「いいのよ。大切に仕舞っていても仕方ないと思わない?」
チラリと俺の体を拭いているハンカチへ視線を向ける。
確かに、真っ白で綺麗なハンカチだった。
四隅には緻密な刺繍がされていたり、マーク?模様?みたいなのも刺繍されていた。
確かに高そうだけど、なんか訳でもあるんかね?
「……エリザベス様。奥様に怒られても私は知りませんよ」
お!?この美少女エリザベスって名前なのか!高貴な名前じゃないのぉ~!う~ん?エリーって呼んじゃおうかな?
「それこそ大丈夫だわ!お母様だってルクスの可愛さを見たら、許す以外に選択肢はないもの!」
エリーのお母様もきっと美人なんだろうなぁ。
「ルクスもそう思うわよねー?……スゥー。石鹸で洗ったらもっとフワフワになるわね」
「にゃっ、にゃにゃにゃ」
ちょ!やめてぇ!なんか変な気持ちになるぅ!
俺を持ち上げて、背中の匂いを嗅いだり、顔でスリスリする。
「はぁ、お嬢様その振る舞いは如何かと思いますよ」
丁度持ち上げられた俺の目の前には困った顔をしたダンディーさんが写った。
「ハロルド以外誰も居ないんだから、別にいいじゃない。小言ばかり言ってると頭薄くなるわよ」
「にゃ!にゃ!」
俺も居るよー!エリーちゃん!
「ルクスもお嬢様の振舞ははしたないとおっしゃってるのでは?」
「にゃ!?」
このダンディーさん。結構親しみやすそうだな。
「違うって言ってるわよ。ルクスはそんなこと言わないわよねー?」
抱き抱えられていた俺の向きが変わり目の前はダンディーさんからエリーちゃんに移り変わった。
「ん~っ!」
俺のお腹に顔を当ててくるエリーちゃん。
あぁ!ダメだよエリーちゃん!そんな所に顔を突っ込んだら!声も出さないでぇ~!変に振動して!俺!俺!変な気分に!
「にゃ~~~~~っ!」
「……これは、誰にも見せられない姿ですね」
ダンディーさん!そんな事言ってないで、貴方のお嬢様の行動を止めてぇぇぇぇぇぇ!
「にゃっ!にゃ~~~~~っ!」
屋根を強く叩く雨の音と子猫の叫び声が室内に響いた。
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