転生したら悪役令嬢の飼い猫になってしまい、人生をやり直すことにした。
code0628
出会いと命名
「……」
もし、目が覚めて最初に見た光景が部屋の中じゃなく、外の風景だった時、人って言うのは思考が停止するだなって俺は思った。
「ニャー」
俺は、ここは何処って言うつもりで声を出したはずだ。
けど、代わりに聞こえたのは可愛らしい子猫のような鳴き声だった。
「……ニャー」
試しにもう一度声を出してみた。
結果は変わらず、ネコの鳴き声だった。
これは夢か?……でも、木や草、土の匂いを確かに感じている。
周囲を見渡しても森林の中に居ることで匂いに違和感を感じることは無い。
それに、四足で立っている感覚もある。
……ん?四足?
俺は、自分の手を恐る恐る見る。
そこには、黒毛の動物の手だった。
「ニャッ!?ニャニャニャ!」
えっ!?どういうこと!?
近くにあった水たまりまで急いで近づき覗く。
そこに映ったのは可愛らしい黒猫だった。
えーーーっ!マジでどういうこと!?何が起きてるんだ!?
俺は水たまりの前で座り込むと、前足で顔を触って確かめる。
ふわふわで気持ちいい……。
っじゃなくて!なんで?俺は部屋で寝てたはず!
俺は落ち着きなく、水たまりの周りを歩きながら、寝る前の事を思い出す。
確か、いつも通り仕事をして、その日は珍しく終電ギリギリだったんだよな?
で、急いで終電に乗って家に帰って来た。
飯食って、風呂入って、スマホで動画を見てたんだよ。
そして、気が付いたら黒猫になっていた?
意味わかんねぇー!
これは、あれか?異世界転生ってやつ?
チートを貰って異世界でモテモテハーレムする異世界転生ってやつじゃないのか!?
でも、ここは異世界なのか?……もしかして、地球で黒猫に、ただ転生しただけか?
それなら、俺は野良ネコ?……いやいや!その前に俺は死んだのか?過労死か!?
「ニャーーーーッ!」
もう、訳が分からない!
それから、俺はどれだけの時間経過したのかわからないが、しばらく悩み続けた。
気が付いてから大分時間が経ったが、現状から変化が無い。
と言うことは、本当に俺は黒猫に転生をしてしまったのかもしれない。
……よしっ!このままここでうじうじ悩んでいても仕方ない。
とりあえず、ここはどこなのかを確かめないといけないし、周囲を少し探索してみるか。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ハァハァ……」
疲れた。
あれから、しばらく周囲を探索してみて分かった事がある。
ここは間違いなく異世界だった。
なぜかって?そりゃ、異世界転生モノじゃ有名な緑のあいつが居たからな。しかも、めっちゃ数居たわ。
そんなのを見たら、嫌でもここは異世界だってわからされたよ。
いやぁ~、本当に猫でよかったと心底思った時でもあったよ。
嗅覚のお陰で見つからずに済んだんだからね。
あいつら、すっげーくっせぇーのなんの。
それなら、人間の時だった時でもわかるもんだって?……動物の嗅覚をなめちゃいけねぇーぜ。
それにしても、マジで今の子猫の状態の俺が見つかったら、あいつらにスナック菓子感覚で食べられてたと思うとゾワッと毛が逆立ったね。
さて、ここは異世界だって分かったところで、どうするよ?って事なんだよなぁ。
今の俺は子猫。チートスキル?なにそれ?状態なわけなんだよなぁ~。
試しに王道のステータスオープン!とかって言ってみたりしたんだけどさ。
「ニャーニャニャーニャ!」
ってしか、言えないわけで出るわけなかったんだよなぁ~。
心の中でも唱えてみたけど出なかったから、そもそもそんな存在はないのかもしれないけどね?
異世界転生ってのはさ?俺がたまぁ~に妄想してた異世界転生~チートを貰ってウハウハハーレム生活~ってやつとかじゃないの?
なんで、子猫に転生しちゃうの?ハードモードなん?なんで?神様俺って悪い子でしたか?
ポツン。
俺の可愛らしいピンクのお鼻に水滴が当たる。
見上げると、曇天の空が広がっていた。
雨かぁ~。踏んだり蹴ったりだなぁ。
そういえば、探索していた時に街道っぽいの見つけてたんだよな。
あそこの近くに居れば、優しい人間が拾ってくれないかな?
猫って星を超えても可愛い生き物でしょ?流石に雨の中で震える黒の子猫が居たら見て見ぬふりはしないよね!?
流石俺!見た目は子猫になっても、頭脳は大人だわ。
さて、雨が酷くなる前に街道の近くまで行って、雨に当たらない場所でも探しますかぁ~。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
土砂降りの雨の中一台の馬車が一本の街道を走っていた。
馬車の中には、二人の人影があった。
「申し訳ございません。お嬢様」
人影の1つ、老執事が対面に座る華やかなドレスを纏った少女へと頭を深々と下げる。
「気にしないで。ハロルド。王城までの道が通行止めになっているなんて誰も思いはしなかったわ」
「事前にわかっていましたら、このような危険な道を進むことにはならずに済んだのです」
お嬢様と呼ばれた少女は頭を上げようとしない老執事を微苦笑しながらも肩に手を当て頭を上げさせる。
「ハロルド。私は大丈夫って言ったのよ。それに薄くなったあなたの頭を見ていると悲しくなってくるわ」
少女はそう言うと、カラカラと笑った。
「……コホン。お嬢様。そのような笑い方は下品ですよ」
「ふふ。そうね。いつものハロルドに戻ってよかったわ」
そう言うと、少女は窓から土砂降りの外を見つめる。
「それにしても、嫌な天気ね」
「そうですな」
その言葉を最後に場所の中は静寂に包まれた。
~。
「ハロルド。何か聞こえなかったかしら?」
「はて?何か聞こえましたか?」
少女は耳を澄ませる。
すると、小さく声が聞こえた。
ニャ~ン。
少女の耳には確かに聞こえた。
そして、偶々窓の外を見た時だった。
「馬車を止めて!」
少女は御者にそう言い馬車を止めさせると、外に飛び出す。
「お嬢様!?」
老執事も少女の後を追って馬車から飛び出す。
「ハァハァ」
「お嬢様!お待ちください!」
少女は泥に足を取られながらも、馬車で通り過ぎた一本の木の元まで走っていく。
「……ッ!やっぱり居たのね」
少女は木の前で立ち止まると、しゃがむと木のうろの中を覗き込んだ。
「お嬢様!いきなりどうされたのですか!?」
追いついた老執事は、ドレスが汚れるのも気にせずしゃがんでいる少女を見る。
「この子の助けてって声が聞こえたのよ」
立ち上がった少女の腕には泥で薄汚れ弱々しく震える黒猫が抱き抱えられていた。
「……はぁ。お嬢様、これから王城で舞踏会ですよ?お召し物をこんなに汚してしまって……。子猫を助けるのはいいのですが、お嬢様自ら行かずに、このハロルドに仰っていただければよかったのです」
老執事は、そう言うと傘を少女の上で広げ雨を遮る。
「……体が勝手に動いちゃったのよ」
老執事はもう1つため息を溢すと。
「馬車まで戻りましょう」
そう言うと、少女と黒猫と一緒に馬車まで歩き出す。
バタンッ。
ガタッ。ガラガラ。
「この後のことを考えませんとな」
走り出した馬車の中でハロルドは言う。
「替えのドレスは持ってきているでしょ?それでいいじゃない。……あなたびしょ濡れね?いつからあそこに居たの~?名前は何がいいかしら?」
子猫を持ち上げながら言う少女に呆れつつも、私がお仕えしている人はこういう人でしたね。と心の中で思うのだった。
これが異世界の猫に転生した者とその飼い主になる少女との出会いだった。
「あなたの名前はルクスねっ!」
少女エリザベス・フォン・ルクレールは優しく笑った。
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