第35話 運命ってやつは


「あっはっはっはっは……!!!」


「笑うんじゃねぇ!!」


 賢者に振られたことを伝えた。

 めっちゃ笑われてる。


「くっふふ……!!あははっ!!」


 こんな笑う賢者初めてみたわ。

 ただひたすらに腹が立つけど。


「し、深刻そうな顔して、何があったのかと思ったら……!!振られたとは……!!」


「そろそろ笑うのやめろぉ!こっちは結構傷ついたんだぞ!?」


 あまりのショックに、風呂場で呆然と小一時間過ごしてしまった。危うくのぼせるところだったよ。


「……ああ、ごめんごめん。なんというか、あまりにもコウくんらしいと思っちゃってね。……くふっ」


「それはつまりお前のことだけどなぁ!」


 その言葉が全部自分に返ってくることがわかっているのだろうか。あと、笑うのをやめろ。


「あははっ、それも含めて、だよ。いやー、遠い昔に似たようなことを私もしたことを思い出してね。思わず笑ってしまったよ」


「えぇ……」


 なんかそれはそれで複雑だな。

 僕はどこにいっても振られまくってるってことか?


「はー、面白かった。懐かしいことを思い出させてくれたお礼に、一つアドバイスをしてあげよう」


「……なんだよ」


 笑われたのはかなりムカついたとはいえ、精霊に関しては圧倒的に賢者の方が詳しい。振られない方法を是非教えてもらいたいものだ。


「運命ってのはね、待ってるだけじゃ掴み取れないんだぜ」


「うっさいわ!!」


 キメ顔で言い放ちやがった。

 口調まで変えやがって。まともなアドバイスを期待した僕がバカだったね。


「うーん、結構本気のアドバイスだったんだけどね。それじゃあ、もう一つヒントをあげよう」


 ヒントだぁ?

 ……とりあえず、聞いてやろうか。


「乙女心がわかってないね」


「はぁ!?」


 乙女心だと? そんなもん……、わからないけどさ。

 え、ほんとにこれヒントなの?


《……………………ヒントというか答えです》

 

「ふふ、コウくんにはここまで言わないとわからないさ」


 なんだよ楽しそうに喋りやがって。

 いや、それよりちゃんと考えよう。確かに出会った精霊は女の子っぽい感じだったし、何か失礼なことをしていたのかもしれない。あの時の状況を思い出そう。


 出会ってすぐ。

 風呂場で全裸。


 うん? すでにアウトか?


「賢者ぁ!挽回するにはどうしたらいいかな!?」


 これはダメだわ!

 僕が間違ってた!!賢者さん教えてくださいお願いします!!


「はっはっは、自分で考えなさい」


「使えねぇな!!」


 ど、どうしよう。

 めちゃくちゃ気持ち悪いやつじゃん僕。風呂場でさ、運命ってあるんだな、とか感情に浸りながらキメ顔で僕と契約してとか言ってる痛いやつじゃん。あ゙ー、恥ずかしいよほんとにもう顔を合わすのも申し訳ないけど流石に謝らないと気が済まない。よし謝ろうそして許してくれたら仲直りしてもらおう。


「賢者!僕ちょっと急用ができたから帰るわ!」


「はーい、頑張ってねー」


 まだ、間に合うと信じよう。

 運命は、待ってるだけじゃ掴み取れないんだ!!

 

 ……


 訓練場を飛び出して城に向かう。

 しばらく走って、少し冷静になった。このまま、もう一度出会えたとして、なんて言えばいいんだ?


 謝罪の気持ちを伝えるのはもちろんだが、やっぱり贈り物とかした方がいいのかな。でも、僕って何も持ってないんだよな。お金もないし。


 城に近づいたので、走るのをやめて歩き出す。

 城にある庭園が見えた時、閃いた。


 庭園に向かって駆け出す。

 キリラちゃんは!? いた!良かった!


「キリラちゃん!ちょっといい?」


「……コウ様、どうされましたか?」


 キリラちゃんがこちらを振り向く。

 仕事中にいきなり押しかけて申し訳なさがあるけど、聞かずにはいられない。


「花って貰えたりしないかな!?」


「……お花、ですか?」


 贈り物の定番といえば、花!

 たぶん。そうだよね? 花を誰かに贈ったことなんてないけど、わりと一般的なイメージがある。


「どうされたのですか?」


 キリラちゃんが、不思議そうに聞いてくる。

 こちらの我儘なのだから、ある程度話さないといけないよな。


「ちょっと、失礼なことをしてしまったんだよね。だから、仲直りするのに花を贈ろうと思ってね」


 なんか、こう言うと贈り物で機嫌をとろうとしてるように聞こえるけど僕は本気だ。


「……そうですか。仲直りは、した方がいいですね。ちょっと待っててください」


 そう言って、キリラちゃんはタタタッと駆け出した。

 この感じは、協力してくれる感じかな?


 しばらく待っていると、キリラちゃんが戻ってきた。

 大きな花束を抱えて。


「……これくらいで、大丈夫ですか?」


「ええ!? こんなにいいの?」


 結構な大きさだぞこれ。

 それに、いろんな花が綺麗に整えられている。


「問題ないです」


「ありがとうキリラちゃん!とっても綺麗だね!」

 

 凄いなこれは。

 キリラちゃんには美的センスがあるね。


「よし、それじゃ行ってくるよ。ほんとにありがとね!」


「頑張ってください」


  ここまで協力してもらったんだから、頑張るしかない。誠心誠意謝って、それでもダメなら泣こう。


 意気揚々と歩き出す。

 そして、どこに向かえばいいのかわからず立ち止まる。


「……どうやって見つけよう」


 勢いでここまできてしまったが、どこにいるのかさっぱりわからない。他の人には視えないから聞いても仕方がない。精霊に聞いてみるか?


 ちょうど、木の上でじっと動かないマリモみたいな精霊がいるので聞いてみよう。


「すみません、精霊さん。お風呂好きの精霊がどこにいるか知りませんか?」


《……》


 返事はないが、精霊なのですぐ返事が返ってくるとは思っていない。初日に片っ端から精霊に話しかけたが、普通に会話が成り立った精霊は思いのほか少なかった。


《……わかんない》


「ありがとう!」


 なんだか遠くを見つめていたが、答えてくれただけありがたい。そもそもお風呂好きの精霊というだけでわかるものだろうか? 精霊同士って、お互いをどう認識しているんだろう。


 その後も出会った精霊たちに尋ねてみたが、わからないと言われるばかりだった。なんだか笑われていたような気もする。とりあえず浴場にも行ってみたけど、そこにもいなかったので正直に言って手掛かりが全然ない。


 気づけば、夜になっていた。

 僕の行ける範囲はだいたい探し尽くしたし、一体どこにいるんだろう。諦めきれないので、まだ探すつもりではあるけど。


 一旦庭園まで戻ってきたのだが、ここからどうしようかな。立ち止まって、考える。空を見上げると、やたらでかい月っぽいものが輝いていた。

 

 うん、頑張って探すしかないな。

 気合いを入れ直し、来た道を戻るために振り返る。


 そこには、探していた精霊の姿が。


「いる!?」


《うにゃ!?》


 精霊は驚いた様子で花の裏に隠れてしまった。

 え、どういうこと? もしかしてずっと後ろにいたってこと?


 いや、そんなことはどうでもいい。

 やっと再開できたんだから、やることは一つだ。


 精霊の方にゆっくりと近づき、声をかける。


「少し、話を聞いてもらえないかな?」

 

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