第34話 はじめてのせいれいまほう
賢者に促され、訓練用の的の前に立つ。
いや、そんなすぐにできるものではなくない?
「ものは試しというだろう? コウくんはもう精霊に認識されているから、お願いしてごらん」
お願いねぇ……。
とりあえず、念じればいいのかな?
精霊さん、精霊さん。
僕の目の前にある的を燃やしてくれませんか?
《いいよー!まっかせてー!!》
お、なんか魔力が流れていったな。
うーん、思ったよりも多い気がするけど……。
ボォォオオオ!!!!
なんかめっちゃ燃え上がってる!?
「あっつぅぅぅぅ!!!!」
火が!火が近い!
「あっはっは、期待通りのことをしてくれるねぇ。頼み事は明確に伝えないと、そんな風になっちゃうから気をつけてね?」
「先に言えぇぇぇえええ!!!」
ぜっっったい、遊ばれてるよね?
目の痛みの件は水に流してやったのに、性懲りも無くふざけやがって。なんか髪の毛焦げた気がするんだけど。
「実際体験してみた方がわかりやすいだろう? あ、精霊に悪気はないから、責めちゃダメだからね」
「悪いのはお前だ……!!」
精霊は悪くない。僕も悪くない。
僕が責めるのは、お前だ賢者。
《また主の悪い癖が出ておるな……》
《…………………………でも、とっても楽しそうです》
ほんと楽しそうだね!賢者はね!
まあでも、頼み方が曖昧だったということは理解した。確かに、燃やしてくれとしかお願いしてないからね。もっと明確にするとなると……、どうすればいいんだ?
ちょっととか、少しとかだと人によるしなぁ。なんか単位でもあればいいけど、そんなものは知らないし、僕が知ってたところで精霊が知っているとも思えない。あとは、精霊に渡す魔力量とかか?
「賢者、質問!精霊に渡す魔力量で燃える規模とか制御できる?」
「うーん、できるとも言えるしできないとも言えるかな。渡した魔力が100とすると、基本的に100以上の魔法は発動しない。でも、それ以下は精霊の気分とかによるね」
「うぐぐ……」
どうにも難しいな。
それならやっぱり、はっきりとしたイメージを伝えるしかないか。どうせ念じるだけなんだから、思い浮かべたイメージも伝えられるだろう。
再び訓練用の的の前に立ち、集中する。
イメージするのは、最初に賢者が燃やしてたくらいの炎だ。
精霊さん!
こんな感じで目の前の的を燃やして!
《あいよー》
なんかテンション低いな。
あれ、さっきよりも流れる魔力がかなり少ない。
ポッ、と小さな火がついた。
すぐ消えた。
「な、なぜ……?」
今度は明確にイメージしたはずだ。
なんでこんなに小さな火になってしまったんだろう。
「さっきよりも小さい炎という考えも伝わってしまったんじゃない? どういう伝え方をしたのかわからないけど、イメージと思考が一致してないと上手くいかないよ」
なるほど?
確かにさっきの炎の印象が強くて、火力を弱めてほしいと考えていた気もする。いや、これなかなか難しくないか? 雑念があるとそれも影響してしまうってことだろ?
「……とりあえず、どんどんやってみるよ」
それから、試行錯誤して色々とやってみたが、なかなか安定して同じくらいの炎を出せなかった。というか、精霊の気分によるムラが大きいから制御できてないな。
ちなみに、精霊に魔力渡しすぎてぶっ倒れている。
「今日はこのくらいにしておこうか。精霊と触れ合ううちに、なんとなく精霊の性格とか気分がわかってくるようになるから、あとは練習あるのみだよ」
「……がんばります」
なんかこう上手くいきそうでいかない、もどかしさがある。しっかりとイメージを伝えられるように、練習しなければ。
今日はもう無理なので戻るけど。
なんか疲れたから、ゆっくり風呂に入るとしよう。
……
風呂に入る準備をしながら、精霊魔法について考える。
そもそも当たり前のように受け入れているが、精霊ってなんなんだろうか。わりといろんなところで見かけるが、ふよふよと漂っていたり、木の上で微動だにしなかったり、何をしているのかよくわからない。
基本的に人には視えず、干渉してくることもないようだ。なんかたまにイタズラとかしているみたいだけど、精霊のせいだとは誰も思っていない。視えないのだから当然だが。
うーん、考えてもよくわからない。
そういう存在だと割り切るのがいいかもしれないな。
考え事をしながら、湯船に浸かる。
今日もいい湯加減だ。ちょっとぬるめが、個人的には好み。あー、癒されるなぁ。
「ふぅ〜〜〜〜〜」
《ふぃ〜〜〜〜〜》
……ん?
なんか聞こえた気がするが、気のせいだろうか。まあ、なんでもいいか。
「はぁ〜いい湯だなぁ〜」
《ふぁ〜今日もいい湯加減なの〜》
んん??
気のせいじゃないよな?
浴槽内を見渡すと、目が合った。
湯船に浮いて、くつろいでいる精霊と。なんか絵本で見るような妖精みたいな見た目だ。
「……」
《……》
なんだこの沈黙。
とりあえず、話しかけてみるか。
「あー、お風呂好きなんだね」
《……とっても好きなの》
「気持ちいいよねぇ」
《……とっても同意なの》
なんだろうなぁ、この感じ。
確証はないけど、たぶんこれはそうなんだろうな。
賢者の言葉を思い出す。
『運命の精霊とは、必ず巡り合う』
「僕、コウっていうんだ。よろしくね」
《よろしくなの》
『すぐには見つからないかもしれない。でも、出会ったら直感でわかる』
……思ったより早かったな。
「ちょっと聞きたいんだけどさ」
うーん、なんて言えばいいんだろう。
いきなり、契約してくださいとか言ったら変人だと思われたりしないだろうか。というか、精霊ってみんな契約のことは知っているのか? 契約のやり方とか僕知らないんだけど。
「運命って、信じる?」
あ、やばい。
考えすぎて胡散臭いペテン師みたいになっちゃった。
《……あんまり、信じてなかったの》
お、大丈夫だったか?
今更だけど、なんか緊張してきたな。
「僕も、わりと疑ってたんだけどね」
賢者に聞いた時は、何言ってんだこいつと思っていた。だって、直感でわかるって意味わかんないよね。
「でもまあ、今はほんとにあるんだなって思ったよ」
《……おんなじ感じなの》
さて、覚悟を決めようか。
なんとなくだけど、精霊の方も察している気はする。
「出会ってすぐにこんなことを言うのもなんだけど……」
運命ってあるんだなぁ。
「僕と、契約してくれないかな?」
《なんかちょっと嫌なのーー!!》
すごい勢いで飛び去ってしまった。
……泣いていいかな。
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