第30話 はじめてのまほう


 継承の儀を終え、訓練場にやってきた。

 いよいよ魔法を使えると思うと、ワクワクが止まらない。


「いやー、楽しみであるなぁ」


「ここまできてヘマすんじゃねぇぞー?」


 なんだか外野がうるさい。


「なぜかこっちがソワソワするのぉ。なんじゃろうか。雛鳥が飛び立つ時みたいじゃな」


「そうだね。なんかだかこっちが不安になってくるよ」


 なんでみんないるの!?

 授業参観みたいで恥ずかしいじゃん。


[はーい、それじゃあ始めるよー]


 ヨロイは鎧を着込んでいた。

 いやー、これこのまま始めるの? まあ、別にいいんだけどさ……。


 気を取り直して、ヨロイの話を真剣に聞く。


[コウくんの体には、ボクの魔法が刻まれた。だから、使い方は感覚でわかるよ。今からボクが手本を見せるから、真似してみてね]


 そう言うと、ヨロイはゆっくりと魔力を動かし始めた。僕にわかるように、ちゃんと見せてくれているのだろう。手を前方にかざし、魔法が発動する。


「聖晶結界」


 ヨロイの前に、半透明の結界が出現する。

 今から、僕もこの結界を出すのか。


 感覚でわかると言われたが、最初は疑っていた。

 だが、手本を見せられた今ならわかる。なぜかはわからないが、魔法が使える確信があった。


[さあ、コウくんの番だよ]


「……うん」


 ヨロイに促され、心を落ち着ける。

 魔力制御は問題ない。あとは、さっきヨロイが見せてくれた魔力の動きをなぞり、発動するだけだ。


 ああ、緊張する。

 だが、ゆっくりではあるが確実に魔力を動かすことができていた。そして、ヨロイと同じように手を前方にかざす。


「……聖晶結界」


 声が震えた。

 魔力が体内から放出される感覚。


 そして……。


「で、できた……!!」


 目の前には、半透明の結界。

 ヨロイのものと比べると不安定で形も歪だったが、それでも確かにそれは魔法だった。

 


[おめでとう!これでキミは、魔法使いだ!]



 その言葉を、噛み締める。


「……や、やったぁぁぁぁぁあ!!!」


 嬉しい!!めちゃくちゃ嬉しい!!

 思わずガッツポーズして叫んでしまった。


 パリン


 ああ!? 結界が割れちゃったよ!


[まあ、最初はそんなもんだね。ここからは、魔法の密度を上げて強度を上げる訓練かな]


「頑張ります!!」


 うわー、魔法使えちゃったよ。

 ちょっともう一回やってみようかな。


 ふと気づくと、周りから拍手が起こっていた。

 興奮して周りが見えていなかったが、みんなが祝福してくれている。


「めでたいのであるなぁ!今夜は肉である!」

「へっ!まだまだ脆いから使いもんにはならねぇが、よくやったな!!」

「おー、なんか感動しちまったのぉ。年じゃなぁ」

「おめでとう。これからも精進するといいよ」


 ああ、なんだか嬉しいな。

 これまで自分なりに頑張ってはきたが、それはみんなが色々と動いてくれていたからできたことだ。


「ありがとう!みんな!」


 感謝の気持ちを込めて、みんなを見る。


「では次は、吾輩の血闘魔法を……」

「いやいや、ここは龍法だろう!? その体に叩き込んでやるぜ!!」

「あまり人には教えんが、儂直々に秤魔法を伝授してやろう。なに、面倒じゃが応用は効くぞ?」

「便利なのは精霊魔法だろうね。覚えておいて損はないと思うよ?」


 こいつらほんとに……。


「気が早いんだよ!!そんないっぱいできるわけないだろ!?」


[そうでーす。コウくんはこれから聖光魔法を極めていくのでーす]


 いや、それもどうなの?

 せっかくなら色んな魔法使ってみたいけど。


 訓練場に笑い声が響く。

 そこには、穏やかな空気が流れていたように思う。


 こうして、僕は魔法使いになった。

 まだなりたての、ひよっこではあるけれど。



――――――



 初めて魔法を使った日の翌日。

 今日も今日とて、魔法の練習に励んでいる。


「聖晶結界」


 魔法の発動は問題ない。

 昨日から何度も魔法を使っているが、発動できないということはなかった。


 ただ……。


 ペシッ


 リュウが結界を指で弾く。


 パリンッ


 結界が儚く散る。


「脆すぎんなぁ」


[脆いねぇ]


「な、なぜ……」


 あれから、結界の強化に取り組んでいたが、一向に上手くいっていなかった。魔力の圧縮とやらができていないらしい。魔力をギュッとすればいいのだと思ったのだが、全然できない。


[うーん、まあ圧縮も魔力制御の一つだからね。また地道に頑張っていこうか。圧縮は他の魔法でも活用できるから頑張って習得しようね]


「はい……」


 一つ乗り越えたとおもったら、また壁にぶち当たる。まあ、だいたいのことはそんなもんかと思い始めた。カッコよく魔法を使えるように頑張るとしよう。


「まあ、今でも小石くらいは防げるんじゃねぇか? 圧縮も重要だが、戦場だと速さも必要になるからな。今日はそっちの訓練もするか」


[おー、それもいいねー]


 そう言って、二人で小石を拾い集めている。

 え、いや、ちょっと待って。


「そんじゃ、適当に投げつけるから上手く魔法で防げよー」


[いくぞー]


「いや、ちょ、ま、はや!痛いって!」


 二人から小石を投げつけられている。

 はたから見たら、これ完全にいじめじゃない?


「聖晶結界!聖晶結界!……いてぇなこのやろう!!」

 

 ちょっと!多いから!


「おいおい戦場じゃ待ってはくれねぇぞー? 気合い入れろやぁ」


「うるせぇ!わかってるよ!」


 いやこれ、いちいち魔法名言ってたら間に合わないよ。発声なしで、任意の場所に発動できないと意味がない。


 そんなんすぐにできるかぁ!?

 でもやるしかない!


[お、でもすごい。五回に一回くらいは反応して防げてるね]


「おー、ほんとだなぁ」


 なんか喋ってるが、こっちはそれどころじゃない。

 必死に小石が飛んでくるところを見極めて、どうにか結界を張っている。


「圧縮はまだまだ時間かかりそうだが、こっちはすぐにいけそうだな」


[そうだねー、魔力制御の訓練を頑張った成果が出てるよ]


 左肩、右足、右膝、腹、左足……。

 ああもう、魔力の移動が追いつかない。もっと速く、速く動かさないと。


「お、速くなったぞ。なかなかいいんじゃねぇか? もうちょい強く投げるか」


[いいねいいねー!楽しくなってきたよ!]


 なんか時々小石が結界をぶち破るようになったんですけど!? めっちゃ痛いんだが!!


 これ、結界の強度上げないと無理じゃない? いや、とりあえず結界を重ねて……。


[お、複層に気づいたよ。まあ、まだ甘いけどねー]


「やっぱ痛みがあると伸びが早いのかねぇ」


 重ねるの難しいわ!

 あ、というか、もう魔力が……。


 酸欠状態みたいになり、へなへなとその場に崩れ落ちる。昨日もなったけど、これ結構きついんだよな……。


「おっと、魔力切れか。まあ、いきなりあんだけ魔法使ってりゃそうなるか」


[魔力量も上げないとねー]


 あー、さすがに疲れたな。

 ちょっとすぐには訓練再開できそうにない。


 城に戻って休もうかな、と考えていると訓練場の扉が開いた。入ってきたのは賢者だ。


「訓練中ごめんね。みんな、ちょっといいかい?」

 

「ちょうど休憩に入ったところだから問題ねぇよ。なんかあったのか?」


 リュウが怪訝そうに尋ねる。

 わざわざここに来るなんて、どうしたのだろうか。


「姫さんからの呼び出しだよ。なんでも、この島に接近する船があるらしい」


「……穏やかじゃねぇなぁ」



 どうやら、ゆっくり休憩している暇はなさそうだ。

 

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