第28話 第三回調査報告


「それじゃあ、真の報告会を始めるよ」


 賢者がそう告げる。

 真の、とか言うとさっきのが偽の報告みたいじゃないか。


「かなり悪い報告と、めちゃくちゃ悪い報告があるんだけど、どっちから聞く?」


「悪い報告しかないの!?」


 なんだよその選択肢。

 良い報告がほしかった。


「まあ、冗談はおいといて、かなり悪い報告からするね?」


 結局悪い報告なのね。


「さっきの会議で報告したように、監獄にいた看守たちについては特に問題なく対処できた。ただ、厄介な相手も存在するみたいなんだ。ね? ヴァンくん」


「そうなのである。救出の際、吾輩は監獄の周辺も索敵していたのであるが、かなり離れた山中で我々を監視する存在を発見したのである」


「で、情報を得るために追跡したんだけど、あっさりと逃げられちゃってね。どうも私たちの知らない術式や魔法を使っていたみたいなんだよね……」


 この世界独自の魔法ということか、

 まあ、それくらいはあるんだろうな。


「要するに、詳細はわからなかったけど、この世界に強者は存在して、私たちでも一筋縄ではいかない連中がいたという報告だよ」


[逃げたってことは、そんなに強くないんじゃないのー?]


「どうだろうね? 向こうは一人だったから、情報を持ち帰るために逃走したと考えも考えられる。流石に四人相手はできないだろうからね」


 みんなと戦える存在がいるのか。

 あれ、そういえば。


「ジュルトラさんはどうなの? マユルワナさんの話では、強そうな感じだったけど」


「うーん、たぶんそこまでは強くないと思うよ。一対一なら負けることはないかな」


 凄いなこの人たち。

 おそらくは国でトップクラスの強者でも問題ないのか。


「まあ、姫さんが第六剣とか言ってたし、それが強さの順番ならもっと強い人がいてもおかしくないね。ジュルトラも弱いわけではないし」


 なるほどなぁ。

 つまり、みんながいたとしても簡単に世界征服はできないということか。


「さて、めちゃくちゃ悪い報告もしてしまおうかな。もう結論から言っちゃうけど、情報がほとんど得られなかった」


 ん? それはそこまで悪いことなのか?

 情報収集に失敗しただけじゃないの?


「まず、魔族とやらの話す言葉が理解できない。そして、言語に依存しない方法で情報を抜き出してみたけど、これも理解できなかった」


 んん? 雲行きが怪しくなってきたな。


「つまり、私たちは情報を遮断されている。おそらくは、これも召喚時の制限の一つだね」


 ああ、確かにこれは僕でもめちゃくちゃ悪い報告だとわかる。みんなも深刻そうな雰囲気だ。


「流石にここまでは予想以上じゃったなぁ。本格的に召喚術式を解析せねばならん」


「そうだね。優先的にみんなで協力して解析を進めようか。大体報告は以上だけど、なにか気になることとかある?」


[魔族ってどんなのだったー?]


 おお、そういえば気になるな。

 あれだけマユルワナさんが言っている魔族。実際に見てみるとどうだったのだろう。


「角が生えてたり、緑やら青やらの肌だったり、牙や鉤爪があったり、いかにもそれらしい見た目をしていたね。言葉は唸り声にしか聞こえなかったかな」


[なるほどねぇ……]


 ゲームに出てくる人型のモンスターみたいな感じだろうか。画面越しだからなんともなかったが、実際に目の前にいたらめちゃくちゃ怖そうだ。


「魔族もねぇ、もう少し調べたかったんだけどちょっと時間がなかったね。次があればもう少し粘ってみようかな」


「次からはジュルトラとやらがついてきそうじゃからなぁ。どうなることやら」


 確かにそうだろうな。

 こそこそと調査してたら怪しまれるに決まってる。


「他には何かあるかな? そういえば、こっちは何事もなかった?」


「特別なことはなかったかなぁ。あ、魔力を動かせるようになったよ。十秒くらいだけど」


「おお、それは朗報だね。いやー、ここのところ悪いことしかなかったから良い報告は嬉しいね」


 おお、普通に照れるな。


「よし、訓練の負荷を上げていこうか。さっさと魔法を使えるようになってもらわないと、この先が不安だ」


「えぇ……」


 いや、僕のためだろうから否定はできないけどさ。


「お手柔らかにお願いするよ……」


「うんうん、それはもちろん。とりあえず、起きてる時はずっと魔力を意識して、無意識下でも魔力を動かせるようにしようか」


「はい……」


「戦闘中に相手はゆっくり待ってはくれないからね。どんどん鍛えていこう」


 おっしゃる通りだ。

 とりあえず、今から始めよう……。


「お、いい心掛けだね。その調子で、自分の身が守れるくらいには成長してくれると助かるよ」


 現状足手まといでしかないからね。

 仕方ないね。


「それじゃあ、今日はこんなところかな。解散!」

 

 例によって、みんなが魔法とかで退室していく。魔力の流れがわかるようになったから、やたら高度なことをしてるということは理解できた。あ、ヨロイさんは早く出てってね。


 みんなを見送りながらも、魔力を動かし続ける。十秒ずつ連続で動かしているだけだが、頭が割れそうだ。これに慣れなきゃいけないのか……。



 まだ寝るにはちょっと早いから、訓練するか。その後、風呂に入って寝るとしよう。



――――――


「おはようございますリュウ殿にコウ殿!清々しい朝ですな!!」


 リュウに追い立てられながら日課の走り込みをしていると、同じく走り込みをしているジュルトラさんと出会ってしまった。


「ああ……、その、おはよう……ございます……」


 走ってる時に話しかけてくるんじゃねぇ!

 今日から魔力制御の訓練も並行でしてるから、こっちは常にギリギリなんだよ!


「うむうむ!走るのは良いですなぁ!捕まって体が鈍っていたので早く体力を戻したいものです!!」


「そ、そう……ですね……」


「はっはっは!それではお先に!!」


 スピードを上げてどんどん遠ざかっていく。

 あれで鈍ってるのか……。


「リュウ……」


「あん? なんだよ?」


「明日から、コース変えよう……」


「……ああ、そうだな」


 あれに毎朝遭遇するのはしんどいよ。



――――――



「コウ様、どうぞ」


「ありがとう、キリラちゃん」


 走り込みを終え、食事をとる。

 兵士の人たちがたくさん帰ってきたはずだが、城には相変わらず誰もいない。時折、ジュルトラさんを見かけるくらいだ。


「キリラちゃんは、ジュルトラさんのこと知ってるの?」

 

「はい。ジュルトラ様は有名です」


「そっかー。さっき走ってる時にジュルトラさんに会ったんだよね。あの人最近まで捕まってたはずなのに元気に走ってたよ」


 なんかよくよく考えるとあの人凄いな。

 監獄の奥で鎖に繋がれてたという話を聞いたが、そこから二、三日でなんであんなに動けてるんだろ。


「そうですか……ジュルトラ様も走って……」


「そうそう、めちゃくちゃ速かったね。やっぱり強い人は体力もあるんだね」


 そんな他愛のない話をした後、食事を食べ終えて訓練場に向かう。


 さあ、魔法を使えるようにどんどん訓練していこう。

 

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