第27話 帰ってきた英雄
「コウ様、英雄様方の船が戻ってきたようです」
走り込みを終えて城に戻ると、アイマさんが声をかけてくれた。
「ありがとうございます!では、迎えにいってきますね」
「ヨロイ様にもお伝えしましたので、ご一緒に向かわれるのがよろしいかと」
おっと、それはそうだな。
「そうですね。ちょっとここで待ってます」
しばらくして、しっかり鎧を着込んだヨロイが合流したので港に向かう。そこまで心配していないとはいえ、気がかりではあったので急ぐ。
港に着くと、そこには大勢の人がいた。
きっと、救出した兵士の家族とかもいるのだろう。前回のことを思い出し、少し尻込みしてしまう。
「コウ様、ヨロイ様、こちらへどうぞ!」
一番前にいたマユルワナさんが声をかけてくれたので、そちらに向かう。多くの人々の視線が突き刺さっているように思えたが、努めて無視した。
一番前まで来ると、離れたところに船が見えた。まだ距離があるので、少し時間がかかりそうだ。
……
待つことしばし。
港に船が到着し、次々と救出された兵士たちが降り立った。出迎えた人々は、再会を喜んでいる。
最後に、みんなと立派な口髭を蓄えた大男が降りてきた。あれが、マユルワナさんの言っていたジュルトラさんかな?
それを見た人々が、一際大きな歓声を上げる。
『ジュルトラ様ー!ご無事でよかった!』
『英雄様たちだ!あの方たちはやっぱり救世主なんだ!』
『ありがとう英雄様!!』
みんなを称える声が続く。
なんだか誇らしい気持ちと共に、英雄の中に僕も入っていることへの申し訳なさも募ってくる。
そんなことを思っていると、みんなとジュルトラさんがこちらに近づいてきた。ジュルトラさんは、マユルワナさんの前まで来て、跪く。
「不肖ジュルトラ、おめおめと姫様の元に帰還いたしましたぞ!!」
「よく戻りましたね、ジュルトラ。貴方のおかげでわたくしたちは逃げ延びることができました。働きに感謝を」
「敗残兵である某になんたるご厚情……!!今後は姫様のためにより一層の働きをすることをお誓いいたします!!」
「ありがとう。期待していますよ」
感動的な場面なんだろうけど、ジュルトラさんが半裸なのがなんともなぁ。ムキムキの大男が上半身を曝け出して可憐な姫君に跪く様子は、変な感じだった。
「やあ、元気にしてたかい?」
マユルワナさんたちを気にも留めず、賢者が話しかけてきた。
「みんな、無事で良かったよ。問題はなかった?」
「うーん、あったといえばあったかな。その辺のことは、また後で」
なにかよくないことはあったようだ。
話を聞くのが、少し怖い。
「ちゃんと毎日走ってたのかー?」
「もうバッチリよ!」
リュウが肩を組んで聞いてくる。
ふふん、褒めてくれてもいいんだよ?
「はっはぁ!よくやった!まあ、お前ならちゃんとしてると思ってたけどな!」
「お、おう」
なんだかこうストレートに褒められてしまうと照れ臭いな。まあ、僕は単純なのでこんなふうに言われたら今後も走るだろうな。
「では、一度城に戻りましょうか!少しお休みしていただいてから、今回の報告を聞かせてください」
マユルワナさんの言葉で、解散する流れになる。みんな疲れてるだろうから、さっさと戻ろう。
「ふいー、まったく疲れたわぃ。さてさて、風呂に入るとしようかのぉ」
ほんとにジィさんは風呂好きだな。
まあ、僕もだけど。
「あー、なんだかまだ揺れてるのであるな……。ゆっくり寝たいのである」
ヴァンは出発前も言っていたが、船が苦手なようだ。みんな平気そうなのに、何が違うんだろう。
ガヤガヤと話しながら、城に向かって歩いていく。やっぱりみんなが揃うと安心感があるな。
――――――
休む時間をとった後、城の会議室に集まっていた。メンバーは、カミを除いた僕たちとマユルワナさん、そしてジュルトラさんだ。僕とヨロイはジュルトラさんとは初めて話すので、先ほど挨拶はしておいた。
「報告をお聞きする前に、英雄の皆様に改めて感謝を申し上げます」
そう言って、マユルワナさんが丁寧に頭を下げる。
「ひ、姫様!?」
ジュルトラさんが驚いている。
やっぱり、王族の人が頭を下げるのはよくないことなんだろうか。
「ジュルトラ、この方達はわたくしが英雄召喚の儀により呼び寄せた英雄です。この世界に生きる者として、礼を尽くすのは当然のことなのです」
「な、なんと……!あの伝説の……!?」
ジュルトラさんが目を見開き、こちらを見回す。このおじさん、いちいちリアクションが新鮮だなぁ。
「姫様がおっしゃるのなら、そうなのでしょうな。皆様、失礼いたしました。そして、此度は某を含めた兵士一同を救っていただき、改めて感謝いたします」
ジュルトラさんが、深く深くお辞儀をする。
人望が厚いと聞いていたが、確かにその通りだと思える礼儀正しい人だった。
「さて、本題に入りましょうか!どのようにして救い出したのか聞かせてください!」
マユルワナさんの目が輝いている。
王国の強い人の話とかテンション上がっていたし、こういう話が好きなのだろうな。
「うーん、まあそんなに語ることもないのだけどねぇ……」
苦笑しながら、賢者が話し出す。
「特に道中は何もなかったから、監獄についてからでいいよね。まず、私とジィさんの魔法で看守や衛兵の大半を眠らせたり昏倒させたりしたね」
え、もうそれほとんど仕事終わってない?
「で、監獄に侵入してからはヴァンくんの索敵で敵を見つけ出してリュウくんが対処。この時点で制圧できていたから、あとは捕まっていた兵士の人たちを解放して回ったって感じだね」
あっさりしてるなぁ。
流石は英雄と言ったところなのか。なんの問題もなく作戦を終えている。
「流石は英雄の皆様!メルジャナ監獄の守りは堅いと聞いていましたが、皆様には通用しないのですね!」
マユルワナさんがすごく嬉しそうだ。
まあ、こんな人たちが味方にいたら頼もしくてしょうがないよね。
「うーん、そうでもないかな? 今回は備えがなかっただけだから、警戒していたらこうはいかないと思うよ?」
「そうでしょうか……? 皆様なら、問題なさそうに思えるのですが」
僕もそう思う。
「ま、次はこんなに上手くいかないと考えて、別の策も用意しておこうという話だね。他の監獄も解放しにいくんだろう?」
「その予定ですが、ケンジャさんのおっしゃる通り警戒されていると思いますので、すぐに動くことはありません。計画を練りますので、少々お待ちいただければと」
「うん、それでいいと思うよ。こちらでも色々と準備をしておくとしよう」
「ありがとうございます!」
その後も少しやりとりはあったが、すぐに解散することになった。まあ、またなにかあれば召集がかかるだろう。
会議室を出て、自室に向かう。
どうせ、みんないるんだろう。
自室の扉を開け、中に入る。
「さて、情報共有をしようか」
やっぱりね。
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