第24話 大混乱


 ひとしきり叫んだら、割とスッキリした。

 人類滅びろは流石に言いすぎたね。子供たちに罪はないよ。まあ、あんな他力本願なバカな大人は滅んでもいいと思ってるけどね。


 よし、戻ろう。

 そして、汗かいたからもう一回風呂に入ろう。ジィさんが無駄に追い焚き機能とかつけてたからそれを使おう。


 しかし、あの絡んできた男ほんとにムカつくなぁ。

 あれくらい軽く捻り潰せるように特訓頑張ろう。


 そんなことを考えながら、浴場の扉を開ける。


「……え?」



 


 そこには、半裸の女性がいた。





 なんで!?


「ご、ごめんなさいぃぃぃいいい!!!!」


 神速で扉を閉める。

 いや、え? なんで?? というか誰?? ここ僕たちだけが使うんじゃなかったの???


 かつてないほど混乱している。

 落ち着け。落ち着こう。たぶん僕は悪くないはず。いや、でも流石に見ちゃったのは僕が悪いのか??

 

 少し冷静になってきて、気づく。

 あれ? 僕なんで……。

 


「……あー、さっき入ってなかったっけ? もしかして二回目? 失敗したなぁ……」


 浴場から声が聞こえる。

 聞いたことのない女性の声だ。


「もう大丈夫だから、入ってきてくれる? もうこの際、説明するよ」


 説明する??

 もうなにがなんだかわからないが、言われた通りにしよう。


 扉を開けて中に入る。

 そこには、タオルを巻いた先ほどの女性が立っていて。


「あー、ボクが、ヨロイだよ」

[あー、ボクが、ヨロイだよ]


 パネルを持ってこちらを見ていた。



「はあ!?!?!?!?」



 え、なに、どういうこと??

 なんか、パネル持ってるし、そういえば後ろに鎧が置いてある!?


「え、ヨロイ?? あのヨロイ??」


「……そうだね」



 ……



「え、じゃあ僕なの!?」


「……そうだね」


 そうだね、じゃねぇよ!!

 この世界にきて一番の衝撃だわ!!


 

――――――

 


「まあ、詳しい話は風呂にでも浸かりながら話そうか」


 そう言われて、なぜかそのまま風呂に入っている。

 んー、これ、いいのか? あんまりよろしくない気がするけど。


「……えーと、本当に僕なんでしょうか」


「あー、うん、そうだよ。信じられないかもしれないけど」


 顔立ちは、確かに似ている気がする。

 でも、声は女性の声だし、体つきも全然違う。だって、女性の体してたし。


 しかし、だからこそ僕はこんな突拍子もないことを信じ始めていた。


 なぜなら、いかがわしい気持ちに一切なっていない!!


 思春期真っ盛りのこの僕が!女性のあられもない姿を見てしまったのに!まったく、これっぽっちも、微塵も、興奮しなかったんだ!!


 つまり、そういうことだ。


「いや、信じるよ。君はヨロイで、僕なんだね」


「……なんかやけにあっさり信じるね。もっと疑われると思ってたよ」


 まあ、もうその話はやめよう。

 この人がヨロイであることに疑いはない。


「隠してたのは、女性になってたから?」


「そうだよー。なんか恥ずかしいじゃん」


 理由はめちゃくちゃ軽かった。

 いや、でもわかるな。僕でもそう思う。あ、僕か。


「はー、こんな感じでバレるとはなー。気をつけてたんだけどね。まさか、風呂に二回も入るとはね」


「今までもこっそり入ってたの?」


「そうだよ? お風呂好きだからね」


 まあ、そうだよね。

 僕だもんね。


「一応、他のみんなには黙っといてもらえる? 今更感あるから隠し通していきたいんだよね」


「りょうかーい」


 まあ、隠しておきたいことの一つや二つ誰にでもあるだろう。このことは誰にも話さないと決めた。


「そういえば、なにかあったの? こんな時間に起きてるなんて珍しいよね」


「あー、まあいろいろあったんだけど……」


 もはやどうでもよくなってる。

 こっちの衝撃が強すぎて。


 まあ、別に隠すようなことでもないので、城の前で起こったことについて話した。


「うわー、そんなことがあったんだ。ごめんね、一緒にいなくて」


「いや、もう大丈夫。ヨロイの方は、結界の修復は上手くいったの?」


「いやー、あれは賢者の言ってた通りいじらない方がいいね。危うく壊しかけたよ」


 笑いながら言ってるが大丈夫なのかそれ。

 まあ壊れてないならいいか。


「うーん、なんかしばらく人と喋ってなかったから変な感じがするよ」


「そりゃあ、そうだろうな」


 こちらに来てどれくらい経ったっけ?

 もうあんまり覚えてないが、その間一切喋っていなかったのだから。


 ……


 これって、聞いてもいいのかな?


「なんで女になってんの?」


「……あ、それ聞いちゃう?」


 いや、気になるでしょ。


「いや、別に言いたくないなら構わないんだけど」


 隠したいなら別にそれでもいい。

 ただ、これは流石に聞くでしょう!


「……まあ、ボクでも聞くね。そうだなぁ、隠すことでもないというか、隠すこともないというか」


 ヨロイの方を向いていないので表情はわからないが、考え込んでいるのだろうか。


「端的に言うと、異世界召喚されたその時から女の子の体になってたんだよね」


 ん? それだけ?


「これがボクにも理由はわからなくてさー。召喚しやがった人はボクが男だったとか信じるわけもないし、そもそもあの召喚の儀からして男が選ばれるわけもなかったんだけどねー」


「え、じゃあ、よくわかんないけど女になっちゃったってこと?」


「そうそう」


 軽いな。

 そして確かに隠すようなことはない。理由がわからないんだから。


「まー、どちらにせよコウくんにはそのうち明かさないといけなかったから、時期が早まっただけなんだよねー」


「そうなの?」


「うん。前にボクの魔法は継承式って言ってたと思うんだけど覚えてる?」


 なんだっけ、最初の魔法の講義で言っていたような?


「あんまり説明はしなかったけど、要するに代々受け継いでいく魔法形態ということなんだよね。で、継承する時に手を重ねて目を見る必要があるんだよ」


「あー、その時に顔が見えるってことか」


「そういうことー。顔見たら流石に女だってわかっちゃうよね」


 それはそうだろうな。

 いくら男と思い込んでいたとしても、違和感を覚えるだろう。


「まあ、魔力制御ができてからの話だけどねー。どう? できそう?」


「……いやー、なんとも。もう少しな気がするんだけどねぇ」


 なんで上手くいかないんだろうなぁ、と思いながら、手を掲げて、魔力を動かしてみる。

 

 んん??


「今動いてなかった?」


「だよねぇ!?」


 なんなんだ急に!

 これで三回目だけど、なにか共通点でもあるのか?

 

 えーと、最初はヨロイの真似してみた時で、その次はベッドの上、今回は風呂場か。


 ……うーん、これはもしかして。


「力みすぎなのか?」


「あー、それはあるかもねー」


 よしよし、そうとわかればリラックスだ。

 幸い、リラックスするための場所と言っても過言ではない風呂場にいる。ここでできなきゃ嘘だろう。


 両手を上げ、魔力を動かす!!


「それ力んでない?」


「だよねぇ!?」


 僕も薄々感じていた。

 というか、力まないようにするのって意識すると難しくないか?


 ……


 ふぅ、落ち着いた。

 もう腕を上げるのもやめよう。自然体だ。


 目を瞑り、体の力を抜く。

 もう一回、今度はゆっくりやってみよう。


 ……


「お、おお!?」


「おー、おめでとー」


 今、一瞬だが自分の意思で動かすことができた。


「よっしゃあ!!」


 きたきたきたぁ!!

 めちゃくちゃ嬉しいなこれ!!


「これで魔法使える!?」


「いや?」


 あれ、そうだっけ。


「あとは自由自在に動かせるようにならないとね。まあでも、これは大きな一歩だよ!」


 パチパチとヨロイが拍手をしてくれている。

 そうか、まだ魔法使えないのか。でも、ここまできたらもうすぐな気がしてきた。


「そうだよね!? 」


 いやー、こんなのやる気も漲るってもんですよ。

 明日からもどんどんやっていこう。

 


 その後、テンション上がりすぎてのぼせました。ごめんヨロイ。

 

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