第22話 作戦会議


 何事もなく数日過ごし、救出作戦の前日。

 会議室にみんなとマユルワナさんが集まっていた。カミ以外。


「お集まりいただきありがとうございます!さっそく、明日の救出作戦の概要をご説明しますね!」


 マユルワナさんが、机の上に地図を広げた。

 前に見た大陸の地図と、今回向かう監獄周辺の詳細な地図らしい。


「まず、日没前くらいにこの島を船で出発します。その後、大陸の南端を迂回し、この島と反対側から上陸します」


 地図をなぞりながら説明が進む。

 夜に到着するように出るんだろうけど、敵地に船を近づけることができるんだろうか。


「上陸についてなんですが、皆様どれくらい飛べますか?」

 

 なんかすごい質問だな。

 飛べること前提でこの作戦は成立するのか。


「この島から大陸くらいまでは飛べるよ。他のみんなについても心配しなくていい」


 そうか、飛べるのは普通のことなのか。

 いや、そうなの??


「流石ですね!それなら上陸は問題ないとして、次はメルジャナ監獄に向かいます」


 マユルワナさんが示す場所を見ると、上陸してからも結構距離があるように見える。


「移動についてはお任せしますが、人目につかぬようお願いします。監獄までですが、夜の間に到着できそうですか?」


「問題ないよ」


 え、問題ないのか。

 どんなスピードで移動するんだろう。めちゃくちゃ目立ちそうだ。


「素晴らしいですね!では、監獄についてからですが、ここはお任せするということで本当によろしいんですか?」

 

「うん。内部の地図さえあればなんとかしてみせるよ」


 事前になにかしらの話し合いがあったようだ。

 

 というかこれ作戦会議か?

 みんなの力押しで全てが解決しそうだ。


「頼もしいです!では、救出後なんですが上陸地点に戻ると時間がかかりすぎますので、最短距離で海を目指してください。そこに船を寄せておきます」


「船は近づけるのかい?」


「この辺りはかなり入り組んでいる海岸ですので、敵軍の船はいないはずです。街なども近くにありませんので、比較的安全だと考えています」


「こちらの船は海岸までこれるのかな?」


「熟練の船乗りがおりますので、問題ありません。皆様と救出した兵士たちを乗せた後はこの島まで戻るだけですね」


 ざっくりとした説明が終わった。

 めちゃくちゃ雑な作戦だと思うんだけど、こちら側の能力が高すぎてどうとでもなりそうな気がしている。


「大まかな作戦は以上なんですが、なにか質問はありますか?」


「救出する兵士の数はわかるのかな?」


「おおよそ五十名前後が収監されていると思われます。善良な兵士だけでなく、犯罪者もおりますのでお気をつけください」


「ふむ、五十名か。思ったよりは少ないね」


「各地に分散されて捕まっているのです。ここをまずはじめに狙う理由なんですが……、必ず救出してほしい者がいるのです」


 マユルワナさんの瞳に力がこもる。


「我がヒューリンデン王国には、十王剣と称される武を極めた者たちがいるのです!その強さは、かの帝国の七将五賢に匹敵すると言われておりましてですね……!!」

 

 おっと、いきなり知らない単語がいっぱい出てきたな。話についていけない。というか、すごいテンション上がってるな。


「そうなんだねぇ。その十王剣の一人を救出してほしいということでいいのかな?」


「……あ、はい。そうですね」


 賢者が軽く受け流してるな。

 ちょっとくらい聞いてあげようよ。マユルワナさん悲しそうだよ。


「その人の特徴と名前を教えてくれるかい? 置いていってしまうのは避けたいからね」


「名前はジュルトラ・ワーメインといいます。大柄な男性で、立派な口髭が特徴的です。彼を象徴するものとして身の丈を超える巨大な大剣があるのですが、これは取り上げられているでしょうね」


「ジュルトラさんね。覚えておくよ」


「第六剣であるジュルトラは〈破砕剣〉の異名で広く知られています。一般の兵士とは別で隔離されている可能性もありますので、ご注意ください」


「うん、わかったよ」


 マユルワナさんは懲りずに凄さをアピールしてるな。第六剣とか破砕剣とか聞いて欲しそうだ。まあ、うちの賢者はスルーしますけどね。


 いや、僕は結構気になってるんだけどね。

 しかし、あんなに『気になりますよねー??』みたいな感じでこられると、聞きたくなくなる気持ちはわかる。


「……ジュルトラは、わたくしが特に信頼している将です。彼を救出できれば士気も上がりますので、ぜひともよろしくお願いしますね」


「これはちょっと聞きづらいんだけど、まだ生きているのかな? 敵からすると生かしておく必要がないと思うんだけど」


「ジュルトラは人望厚い将でしたので、人質として生かしてあると考えます。秘密裏に処分されている可能性はありますが、おそらくはまだ大丈夫かと」


 マユルワナさんも確信はないようだな。

 まあ、救出できればラッキーといったところか。


「こんなところでしょうか? なにか疑問があれば出発までにお願いしますね」


「あー、疑問とかじゃねぇんだが、俺も作戦に参加することにしたんで、よろしく」


 そういえば、リュウも追加で参戦するんだったか。

 魔人を考慮してのことだが、マユルワナさんには伏せておくようだ。


「まあ!そうなんですね!こちらこそよろしくお願いいたします」


 マユルワナさんが嬉しそうだ。

 リュウが戦力に加われば、作戦の成功率も上がるだろう。


「それでは、解散といたしましょう。皆様、明日はよろしくお願いいたします」


 深々と礼をしている。

 王族の人とかって、頭を下げない印象があったけどマユルワナさんは違うようだ。


 こうして、会議は終了した。

 僕にできることはないので、みんなの無事を祈るのみ。



――――――



「ぐぐぐぐ……!!」


 動け!動けよぉ!

 そろそろ動いてくれたっていいじゃないか魔力ちゃん!

 

 作戦会議も終わり、いつも通り日課の魔力制御に取り組んでいる。先日寝る前に動かせたのは確信しているのだが、その後が続かない。


[がんばれー]


 ヨロイはもはや見守るだけになっている。

 パシパシ叩かれることは無くなったが、ずっと見てられるのも辛い。なんというか、無駄な時間を過ごさせてる気がしてくる。


「……ぬぁーー!!!」


 集中力が切れてしまったので、地面に倒れ込む。

 もうちょっとな気がしてるんだけどなぁ。何がダメなんだろうか。


 みんなが出発する前に、魔力制御ができるようになっておきたかったけど無理そうだ。


「……よし、やるか」


 休憩を終え、立ち上がる。

 せめて、戻ってくるまでには良い報告ができるようにしたいな。

 

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