第21話 困った時の
「ふむ、これはちょっと予想外だったね。ここまで見つからないとは」
賢者が珍しく困惑していた。
まあ、この四日間手分けして捜索して進捗がないのであれば困惑もするだろう。
ちなみに、魔力制御も進捗がなくて僕も困惑している。
なぜだ。
「このまま続けても意味はなさそうだね。仕方ない、奥の手を使おうか」
「奥の手?」
そんなのあるのか。
早く使ったらよかったのに。
「できれば使いたくはなかったんだけどね……」
「もったいぶるなよ!さっさとそれ使って見つけようぜ!」
リュウは乗り気だった。たぶん捜索に飽きたのではないだろうか。ふぅ、と賢者はため息をつき、みんなを見渡す。
「カミの力を、借りようと思う」
「……確かに、使いたくねぇ手だなぁ」
神? ああ、カミか。
出番なさすぎて忘れてた。力が強すぎて動いちゃダメなんだっけ。
他のみんなも微妙な雰囲気だ。
「大丈夫かのぉ。世界の歪みで、えらいことになるじゃなかろうか?」
「その可能性はあるんだけどね……。というか、カミの影響で魔人が生まれたかもしれないし。でも、現状それしかない気もするんだよね」
「まあ、そうじゃがなぁ……」
なんだかみんな乗り気じゃない様子。
「とりあえず、カミに聞いてみようか。限定的な力の行使なら問題ないかもしれないし」
とりあえず、カミに会いに行くことになった。
久しぶりに会うなぁ。何日ぶりだろ。元気にしてるのかな。
「……何の用だ? 我のような役立たずのところに」
やさぐれていた。
カーテンも閉めきった暗い部屋の隅で、膝を抱えて座っている。僕の部屋より広い部屋でなにやってんだ。
え、お前あの神々しさはどうしたの?
心なしかまわりのキラキラも少ない気がするし。
「あー、えっと、久しぶりだね」
なんか賢者も動揺してない?
顔はフードで見えないけど、引き攣ってる感じがする。
「……ふふ、久しぶり、か」
こんなキャラだったっけこいつ。
なんか可哀想になってきた。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「我にか? まあ、役に立てるとは思わんがな……」
あ、めんどくさくなってきたわ。
さっさと話を進めよう。
賢者がここまでの経緯を説明した。
なんかここ数日で色々ありすぎだな。
「そこで、カミくんに魔人を見つけてもらえないかと思ってね。力を抑えて、森だけに絞れば探知できないかい?」
「ふむ、可能ではある。が、この世界への影響は未知数だ」
まあ、そうだろうな。
動くだけで影響があるかもしれないとかいってるくらいなのに、魔法を使ったらまずそうだ。
「一応、世界の歪みを抑える結界を作ったから、気休め程度にはなるはずだよ。お願いできないかな?」
「……よかろう。最小限の力で探ってみよう」
ちょっと嬉しそうだな。
「それじゃ、早速結界を構築するよ。 ジィさん、ヨロイくん、手伝ってくれるかい?」
そう言って、部屋の中に魔法陣みたいなものを描き始めた。おー、なんかそれっぽいな。
「それじゃあ、お願いするよ」
「うむ」
描き終えた魔法陣の中に、カミが足を踏み入れる。うわ、なんかピキピキいってない?
「あ、ダメかも」
賢者が小さく呟くのが聞こえた。
え、ダメかもってなに!?
不安になっていると、カミが少しだけ光った。
「ふぅ……ギリギリいけたか」
カミが魔法陣から出てくる。
出たと同時に、魔法陣が崩壊した。
「いやー、危なかったね。カミくんの力が強すぎるね」
賢者もたぶんめちゃくちゃ焦ってたな。
「それで、カミくんどうだった?」
そうだった。
あの一瞬でわかったのだろうか?
「お前たちの言う、魔人という存在だが……」
カミがみんなを見渡す。
「この森にはいない」
誰も話し出さない。
いない? どういうことだ?
「……いない? それは確かなのかい?」
「うむ。限定的な過去視により魔人は特定したが、森にはすでに存在しないことがわかった」
「それは、この森を……いや、島を出たということかな?」
「この城周辺まで近づけば、流石にお前たちでもわかるだろう。つまり、島を出たと考えるのが妥当だ」
なんということだ。
これまでの捜索は徒労だったのか。まあでも、いないなら良かったんじゃないかな。
「……まいったね。事態はもっと深刻になってしまったか」
「え、安全になったんじゃないの?」
「今この時だけね。海を渡れるということは、戻ってもこれるはずだから安心はできない。いつ現れるかわからない、手がつけられないほど強力に育つかもしれない、繁殖して増殖するかもしれない。正体不明というのはね、それだけでかなり厄介なんだよ」
説明されて寒気がした。
たしかに、あんなのが強くなったり増えたりするのは危険だ。
「魔族除けの結界があるから、島からは出られないと思っていたけど根本的に違うものだったか。これは失態だね」
雰囲気が重い。
賢者も押し黙ってしまった。
「……まあ、なんにせよ捜索は打ち切りじゃな。各々警戒を強めるとしよう」
「そう、だね。そうするしかなさそうだ。あとは、大陸に行った時に軽く調べてみるくらいかな」
そうだった。
魔人のことでゴタついていたが、マユルワナさんが言っていた救出作戦も間近に迫っている。僕は行かないけど、かなり大規模な作戦なんじゃないのかな?
「そうか、そんなのもあったなぁ。俺は待機予定だったが、魔人のこともあるしそっちに参加した方がいいか? 守りはヨロイがいりゃ十分だろ」
「そうだね。念のためにリュウくんも大陸に向かおうか。ヨロイくんもそれでいいかい?」
[問題なーし。何かあっても、コウくんを守りきるくらいはできるでしょ]
ありがたいことだが、最悪他の人たちは見捨てられそうだな。僕がそれについて何か言える立場じゃないけど。
「さて、あらかた今後の動きについては決まったかな。カミくん突然押しかけてすまなかったね」
「……構わぬ」
「それじゃあ解散で。何かあったらすぐに情報共有しようね」
カミの部屋からみんなで出ていく。
あ、みんな普通に出ていくのね。
――――――
走り込み、魔力制御の訓練、風呂、という日課を済ませ、ベッドに倒れ込んだ。
今日も魔力制御は進捗がなかった。
あの時感じた魔力の動きはただの願望だったのではないかと疑い始めている。
仰向けになり、両手を上げる。
なんでダメなんだろうなぁ。ポーズの問題ではなさそうだしなぁ。
なんとなく、魔力を動かそうとしてみた。
「……んん??」
跳ね起きる。
え、今動いたような気がする。前と同じ感覚がした。
なんだ?
前となにが同じで、今までとなにが違う?
寝るところだったのに、完全に目が覚めてしまった。もう少し、あと少しで何か掴めそうなのに。
結局、その後はなにも起こらなかった。
ただ、前回の魔力が動く感覚は気のせいではないと確信できた。
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