第20話 臨時報告会


 森での浄化作業の夜。

 再び僕の部屋にみんなが集まっていた。


「黒い人型の魔獣か……」


 報告を聞いた賢者が厳しい表情をしている。


「一応確認だけど、毒蛙が死んでいるのはジィさんも確認したんだよね?」


「おお、間違いなく死んでおったわ。生命反応の探知も行ったから、体内におっても気がつくはずじゃ。まったくもって腑に落ちんのぉ」


 ジィさんも腕を組み、険しい顔をしている。


「ふむ、まあ二人が確認しているし昨日の時点で死んでいたことは疑いようがないね。それよりも、二人がかりで戦って取り逃したことの方が問題だ」


「すまねぇ……」

「申し訳ないのである……」


「ああ、いや責めているわけじゃないんだよ。二人の戦闘能力は知っているからね。問題は、人型がその状況から逃げ出せる力をもっていたことだね」


 賢者の言う通りだと思う。

 リュウとヴァンで取り逃したのならどうしようもない。


「アレはかなり危険だな。俺としては、総動員してさっさと狩っておくべきだと思う」


「吾輩も同意見であるな。ただ、追跡しようとしたのであるが妙に気配が薄くて無理だったのである。アレが本気で身を隠せば、発見するのは困難であろうな」


 沈黙が続く。

 誰もがこの状況に困惑している様子だった。


「ひとまずその人型……魔人とでも呼ぼうか。魔人の捜索は持ち回りで実施しよう。発見したらすぐに全員に伝えること。かなり不気味な存在だから、一人で戦おうとしないように」


[何人で捜索する?]


「全員で動くのは流石に良くないから、二人一組の二班で捜索をしようか。一人は必ずコウくんと残る感じで」

 

 ありがたいけど、ちょっと複雑だ。

 足手まといになってるなぁ。


「伝達が早いのが私とヴァンくんだから、ここは別の班にしよう。とりあえず明日は、ヴァンくんとジィさんの班、そしてリュウくんと私の班で捜索だ。ヨロイくんはコウくんの訓練で」


[はーい]


 他のみんなも頷く。

 今日はこれで解散となった。


 なんだか不穏な感じだ。

 あの黒い人型、魔人のことをら思い出すだけで不快感が込み上げてくる。今日はもう何も手につかないかもしれないな。


「よーし、風呂入るかのぉ!コウも行くじゃろ?」


「行く!」


 風呂は入るよね。

 だってリフレッシュしたいし。森に入ったから汚れてるし。嫌な汗もかいちゃったし。


 リュウも誘ったら来たので、前と同じメンツで風呂に入った。あー気持ちよかった。


 気分転換もできたし、ちょっとだけ魔力制御の練習をしてから寝ることにした。



 本日も進捗なしだ。



――――――



「はぁ……はぁ……はぁ……」


 朝から魔人の捜索に出るからって……!!

 それより早く起きて走らせるとかやめてくれよ!!


「よしよし、走りきったな!継続は大事だぜ? そんじゃ、捜索に行ってくるわぁ」


「気を……つけて、ね……」


 叩き起こされたのは腹が立つけど、魔人を相手にするのは心配だ。地面に寝転がりながら言うセリフでもない気はするが。


 リュウはちょっと驚いたようにこっちを見た。


「おうよ!任せとけ!」


 あー、朝早すぎるせいで食事まで時間があるな。

 そういえば、ヴァンに肉を頼みたかったけど色々あって忘れてた。まあ、魔人の件とか落ち着いてから頼むとしよう。


 息を整え、立ち上がる。

 ちょっと散歩でもしようかな。城の周りなら出歩いても構わないと言われてたはずだ。前に見た庭園にでも行ってみようか。


 ぶらぶらと歩いて、庭園に入る。

 前はゆっくりと見れなかったが、綺麗に整えられてるなぁ。


 そんなことを考えていると、見覚えのある姿があった。


「あ、キリラちゃん、おはよう。朝早いね?」


「……英雄様、おはようございます」


 キリラちゃんは水やりをしていたようだ。

 手を止めさせて悪かったかな。


 しかし、そろそろ英雄と呼ばれるのもなんかなぁ……。


「キリラちゃん、僕、コウっていうんだ。英雄って呼ばれるのはちょっとアレだから、できれば名前で呼んでくれると嬉しいな」


「……かしこまりました。では、コウ様、とお呼びいたします」


「ありがとね。ごめんね、仕事の邪魔しちゃって」


「いえ。それでは、私はこれで」


 そう言って、仕事に戻っていった。

 うん、今日はちょっと話せて良かったな。超人たちとだけ話してたら常識がなくなりそうだからね。


 しばらく城の周りを歩いた後、食堂に向かう。

 キリラちゃんは普段通りではあったが、ちゃんと名前を呼んでくれた。



 食事のあと、訓練場に向かう。

 昨日はちゃんと訓練できなかったから、今日は頑張っていこう。


「お願いしまーす」


[さあ、どんどんやっていこうかー]


 ヨロイはすでに中にいたので、さっそく魔力制御の訓練が始まる。訓練といっても、あぐらかいて座ってるだけだが。


「……」


 集中する。

 昨日ヨロイが魔法を使っていた様子を思い出しながら、きっかけを掴もうとしていた。あの魔力の流れを再現するんだ……!!


 パシッ


 まあ、気合いがあればできるもんでもないね。

 あー全然動かせねー。でも絶対動かせるんだよなー。みんな魔法使えるようになってるしー。


「……ちょっと、休憩で」


[はいはーい]


 立ち上がって伸びをする。

 うーん、どうしたらいいんだろうね?


 ヨロイはどんな感じで使ってたっけ。

 確か、両手を前に出して……。


「……ん?」


 なんか今、ちょっと動かせたような?

 あれ? 気のせいか?


[お、掴んだ? ちょっと進歩したんじゃない?]


 まだ実感がない。

 と、とりあえずもう一回。


 さっきと同じ感じで、両手を前に出して。

 よし、やるぞ。


 ……


 ……


「できねぇ!!!」


 なんだよ期待させやがって!!

 この流れならいけると思うだろうが!!!


[そう上手くはいかないねー。まあでも、着実に進んでると思うよ?]


「慰めなんかいらねぇ!!でもありがとう!!頑張るよ!!」


[情緒不安定になってるねぇ]


 なんか生温い目で見られてる気がする。

 鎧着てるからわかんないけど。


 なんだろう。あぐらがダメだったのか?

 ちょっと色々体勢変えてやってみるか。


 気のせいかもしれないが、これまでまったくなんの成果もなかったから楽しくなってきた。あれか、どっか体の一部に集めるみたいな感じの方がいいのか?


 その後も試行錯誤しながら魔力制御の特訓を続けた。あの感覚を、もう一度……!!



「……あれは、何をしているのであるか?」


[あ、おかえりー。あっはっは、なんか迷走してるんだよねー!見てると面白いよ!]


 うるせぇ外野は黙ってろ。

 もうちょっと腕を伸ばした方がいいのか? いや、角度が大事か?


「あんまり上手くいってないのであるな……。おーい、コウ殿!肉を持ってきたのであるよー」


「え、肉!? ありがとうヴァン!」


 訓練は終了だ。

 早く肉を食べよう。


 肉が焼けるのを待っていると、魔人の捜索に出ていた他のメンツも続々と集まってきた。


「おー、肉じゃねぇか!タンパク質は大事だからな!たくさん食えよ?」


「おうよ!めちゃくちゃ食うわ!」


 肉を食べていると、ジィさんと賢者も入ってきた。

 これで揃ったな。


[みんなおかえりー。無事でよかったよ。何かわかった?]


「いやー、痕跡っぽいものはいくつか見つけたんだけど、さっぱりだね。明日も引き続き捜索することになりそうだ」


「まあ、痕跡を見つけただけでも上々かのぉ。森は広いが、そのうち見つかるじゃろうて」


 おお、なんかいけそうな感じだな。

 これは期待できそうだ。




 だが、予想に反して捜索は難航する。

 三日経っても発見することはできなかったのだ。

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