第17話 お風呂はいいですね
「……」
額に汗を浮かべ、集中する。
脳が熱くなっている気がしてならない。もう頭がパンクしそうだ。
パシッ。
[はい、やり直し。全然言った通りに動かせてないよ?]
ちくしょう、誰だよ楽そうとか思ったやつ。
僕だよこのやろう。めちゃくちゃしんどいんだが。
いや、別にヨロイの言葉に嘘はなかった。
瞑想ということで、地面に胡座をかいて座っているだけ。体力的にはなんの問題もないのだが、精神的にかなりきつい。
パシッ。
[うーん、またやり直しだね。ちゃんと集中してる?]
目を瞑って集中しているので、やり直しのたびにパネルで肩を叩かれている。これが地味に痛い。なんか座禅とかいうのがこんな感じじゃなかったか?
「すみませんヨロイ先生。少し休憩してもよろしいでしょうか」
このままやっても意味がない気がする。
全然上手く魔力を動かせるイメージが湧かない。
[ええー、まだ始めたばかりだよ? まったくしょうがないなー]
お許しが出たので寝転がる。
こんなに難しいと思わなかった。
魔力を感じることはできるのだ。
それを操ろうとすると、全然できない。ちょっと動かせたかと思っても、すぐにどっかにいってしまう。
「ああー……」
この世界に召喚されてから無力感が凄まじい。僕ってなんもできないんだなって突きつけられてる。
まあでも、やるか。
魔法使ってみたいしな。
「ヨロイ、もう一回お手本見せてくれない?」
始める前に見せてもらったが、今なら何かヒントが掴めるかもしれない。
[ん? いいよー。よく見ててねー]
そう言うと、ヨロイが魔力を動かし出した。
なんかもうギュンギュン動いている。あ、ハートマークとか描いてる。すごーい。
「……参考になんねー」
[まあ、これに関しては近道なんてないから地道にやってくしかないね。さ、張り切っていこー]
地道なのは別に嫌いじゃないけど、進んでるかどうかもわからないのが辛いところ。
こうして、他の人から見ると座ってるだけの訓練は続いた。
――――――
[今日はこのくらいにしとこうか。お疲れ様ー]
「……」
もう喋る元気もない。
あれからなんの進捗もありませんでした。
体は動くので城に向かう。
ずっと同じ体勢でいたから、なんか全身が凝ってる気がするな。
城に戻ると、アイマさんが出迎えてくれた。
なぜかジィさんとリュウもいる。
「おかえりなさいませ。浴場の支度が整っていますので、どうぞお使いください」
「よぉ!遅かったな!」
「おお!やっと戻ってきおったか。早速入るとしようかのぉ」
おお、お風呂だ!
どうやら、僕の帰りを待っていてくれたらしい。
[それじゃ、ボクはこれでー]
ヨロイは入らないのか。
まあ、ずっと鎧を着てるくらいだから、入るにしても一人で入りたいのかな。
「ご案内いたします」
アイマさんに連れられて、城の中を進む。
カミは置いといて、賢者とヴァンは入らないのだろうか。
「他の人は入らないの?」
「賢者の方はまだ調査しとるからわからんのぉ。まあ、入りたそうな雰囲気はなかったがの。ヴァンのやつはしらん」
え、あれからずっと森にいるのか。
最初に遺跡を出る時も一人だけ残っていたが、賢者というだけあって研究熱心ということかな。まあ、僕もそうなり得るということなんだけど。
話しながら歩いていると、アイマさんが立ち止まった。
「こちらです。この浴場は英雄様専用となっておりますので、使用する際はお声がけください」
「おお、それはありがたいのぉ。あとは勝手に入るから、気にせんでくれ」
「かしこまりました」
そう言って、アイマさんが去っていく。
さあ、いよいよお風呂だ!
服を脱ぎ、浴場に向かう。
どうでもいいが、ジィさんとリュウはバッキバキの体をしていた。なんだあの筋肉。
そして、ジィさんは刺青みたいなのが体中にあるし、リュウは鱗が生えている。普通の人はびっくりしちゃうね。
「おおー、広いな!」
広い風呂というのはそれだけでテンションが上がる。適当に洗って、早速湯船に浸かった。
「ああ〜〜」
なんかもう心地よさが染み渡る。
やっぱり風呂は入らないと。
「おおー、ええ湯じゃなぁ」
「たまんねぇなぁ」
他の二人も同じような感じになっていた。
まあ、それはそうか。僕だもんな。
「コウは今日なんの訓練をしとったんじゃ?」
「あー、魔法の制御だね。体の中の魔力を自在に動かせって言われたんだけど全然できなかったよ」
「魔力の制御か、懐かしいのぉ。確かに苦戦した記憶があるわぃ」
「アレはなぁ、一回感覚掴んだらいけるんだが、そこまでがめんどくせぇよな」
どうやら、結構難しいことだったらしい。
「なんかコツとかある? 地道にやるしかないってヨロイは言ってたけど」
「そもそも魔力がどうやって動いてるか観察することかのぉ。これは感覚的なことじゃから、人によって異なるゆえアドバイスも難しいのぉ」
「ま、ヨロイに賛成だな。地道にやってけばいずれ感覚が掴める」
「そっかー。ま、ちょっとずつやってみるよ」
「おお、それがええ」
風呂から上がったら、もう一回挑戦してみようかな。ちょっと回復してきた気もするし。
「ジィさんはなんかわかったのか?」
「あー、今回は儂らが召喚された遺跡まで行ってきたんじゃが、あの術式がまあ複雑でのぉ……。あとで詳しく説明するが、相当厄介なことになってそうじゃな」
森の調査と言いながら、遺跡にまで行っていたのか。あの賢者やジィさんたちが厄介と言っているのは恐ろしいな。
「まあ、絶対なんかあるよな。そういうのに鈍い俺でもなんかあるとわかるくれぇだし」
僕はなんもわからんけどね。
「こうなってくると元の世界に戻れるかも微妙なところなんじゃよなぁ。なんとかなればええがのぉ」
その後もだらだらと喋りながら、ゆっくりと風呂を楽しんでいた。なんか、こっちの世界に来て一番リラックスできた気がするな。
風呂から出て、自室に向かう。
なぜか二人ともついてきていた。
「え、二人とも部屋あっちじゃないの?」
「あん? 賢者が戻ってきたらどうせ報告会やるに決まってんだろ? コウの部屋に先に行って待っときゃいいじゃねぇか」
「ああ、そうなのね……」
僕の部屋で集まるのは決まってるのね。
いや、まあいいんだけどさ。
部屋に着き、中へと入る。
そこにはすでに他のメンツが揃っていた。
「やあ、それじゃあ今日の調査報告をしようか」
当たり前のように報告会が始まった。
プライバシーとか絶対考えてないよねこいつら。いや、でも僕だからいいのか? 良くない気もするけどなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます