第16話 重荷


 集まった人々からの視線が突き刺さる。

 不安、怯え、期待。いろんな感情が混ぜ合わさり、僕らに降り注いでいた。女性、子供、老人、怪我人……戦えないような人たちばかりだ。


「ヒューリンデンの民よ!彼らが我々人類の希望!異世界より舞い降りた英雄です!」


 ああ、これはパフォーマンスだろうな。

 僕らを召喚するために、家族を失った人だっているはずだ。現に、憎々しげな目でこちらを見ている子供もいる。


「森から現れた夥しい数の魔獣を圧倒し、我らを守ってくださいました!」


 ああ、なんか嫌だな。

 他のみんなも、うんざりしている様子だ。そもそも、僕らを召喚しなければ魔獣が森から出てくることはなかったはずだが。


「これより我々は反撃に転じます!!奪われた故郷を取り戻し、再び我らの国を作るのです!!」



『『『『『おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』』』』』


 

 歓声が上がる。

 きっと待ち望んでいたのだろう。この状況を打破できる存在を。


 己を犠牲にしてでも、守りたかったものがここにあるのだろう。


 ああ、重い。

 なんてものを背負わせてくれたんだ。



――――――



「そうですか、彼らの遺品が森に……」


 一休みした後、会議室に集まっていた。

 賢者から森での戦闘と、犠牲になったであろう人々のことを話すと、マユルワナさんは難しい顔をしていた。


「皆様に黙っていたことは謝罪いたします。気に病む方もいらっしゃるかと思い、伏せておりました。いらぬ諍いを避けるために民との接触も制限しています」


 城に人が少なすぎたのも、配慮の結果らしい。今回の件がなければ、ずっと隠されていたのだろうか。


「皆様との信頼関係が築けてからお話しするつもりでした。ですが、わたくしたちの覚悟はそれほどのものであると理解していただきたいのです」


「いや、私としてはそんなことはどうでもいいんだけどね」


 あ、どうでもいいんだ。

 まあ、みんな気づいてたみたいだし、そこまで衝撃でもなかったのかな。僕は結構効いたけどね。


「それより、森の状況が気になるね。この後、調査をしたいんだけど構わないよね?」


「え、ええ。それはもちろん構いませんが……」


 淡白な反応に戸惑っているようだ。

 本人たちにとっては重大なことだったはずだから、この反応も当然だろう。


「ああ、他の人たちとは接触しないようにするから安心してね。別に気分を害したいわけじゃないから」


「そう、ですか。では、引き続き城へは近づかないように通達しておきます」


 そう言った後、マユルワナさんは僕らの方を見渡した。


「先ほど見ていただいてご理解いただけたと思いますが、現状我々には戦力と数えられる者がおりません」


 それはそうだろうな。

 ざっと見た感じでも、戦えそうな人はいなかった。


「そこで、皆様にお願いがあります。大陸に渡り、捕らわれた我が国の兵士たちを救出してほしいのです」


「ふむ。捕えられているということは、監獄でもあるのかな? 当然、そこを守る兵もいると思うけど、殺めずに突破できるのかい?」


 確か、この世界の生物を殺したら世界の歪みを生み出してしまうのだったか。結構厳しい気がする。


「突破はできる限り避けて、忍び込みます。今回狙うのは我が国の監獄ですので、構造はわかります。それに、こちらに戦力はないと油断しているでしょうから、勝算はあります」


「ふーん、そうなんだね。まあ、大陸というのも気になるし、救出作戦には参加するよ」


 なんかほんとに興味なさそうだな。


「ありがとうございます!出発は十日後を予定していますので、準備をお願いします!」


 次の予定が決まってしまった。

 これって、僕も行かなきゃいけないのかな。


「それじゃ、もういいかな? 森の調査に行ってくるよ」

 

「ふあー、まったく老体には堪えるのぉ。ゆっくり風呂にでも入りたいもんじゃなぁ」


 ジィさんが肩を回しながら、ぼやいている。

 風呂かぁ、確かに入りたいなぁ。


「お風呂ですか? この城には浴場もございますので、準備いたしますよ!」


「おおー、言ってみるもんじゃな。夜になったら入らせてもらうとしようかの」


 ジィさんが嬉しそうだ。

 せっかくだから、僕も入らせてもらおう。


「では、解散します!救出作戦の前日に詳細をお伝えしますので、その時にまた集まりましょう」


 マユルワナさんの一言で、会議は終了した。

 なんかもう色々あって疲れたな。ちゃんと眠れてないし、今日はゆったりと……。


「そんじゃあ、走るか!!!」


 リュウに捕まった。

 ほんとふざけてるよこいつ……。



……



「ぜぇ……はぁ……ふぅ……」


 走ったよ。走りましたよ。

 リュウに追い立てられながら、城の周りを五周走りきった。僕って偉いよね。


 今は大の字に寝転んで、息を整えている。

 もう、ほんとに休みたい。


「よーし、体も温まったし組み手でもするかぁ!」


 はあ?? こいつ張り倒してやろうか。

 いや、できないけど。というか、そんな素振りを見せたら嬉々として組み手が始まりそうだ。


[ざんねーん。ここからは魔法のお時間でーす]

 

 いつの間にかヨロイが側に来ていた。

 流石にしんどかったので助かった。昨日の苦しいやつはもうないだろうから、魔法の方がいい。


「……まあ、しゃーねぇか。今日は譲ってやるよ」


 リュウはちょっと不満そうだったが、すんなり引いてくれた。そう、それでいいんだよ。


[それじゃー訓練場に向かおうかー]


 立ち上がりヨロヨロと歩き出す。

 魔法の訓練は楽だといいな。


 訓練場の扉を開け、中に入る。

 そこには草原が広がっている。うわ、やっぱり違和感がすごいな。


 そして、見渡すと奥に山ができていた。

 あれか、リュウが頼んでたやつか。仕事が早すぎるだろう。ヨロイの頼んでいた大きなパネルはないが、机と椅子、そして訓練用の的は置かれていた。


[おおー、ちゃんと色々できてるね。大きいパネルはまだ無理だったか……]


 僕からしたら大きいパネルは別にいらない。

 温泉作って欲しいって言ったら、作ってくれたりするのだろうか。


 せっかく作られていたので、席に座る。

 今日は何をするんだろう?


[それじゃー早速始めようか!前回、魔力は覚醒できたよね。もう慣れた?]


「あ、そういえば全然気にならないな」


 魔力を覚醒してすぐは気持ち悪かったが、いつの間にか忘れていた。これなら特に問題はない。


[それは良かった。じゃ、次の段階である魔力の制御に移ろうか!]


 魔力の制御か。

 魔法を使うのとは、何が違うのだろう。


[まあ、これも色々と訓練方法があるんだけど、まずは体内循環からだね!]


「体内循環?」


[そう!意識して魔力を動かす練習だね。瞑想して、体の隅々まで魔力を自由に動かせるようになろう]


 おお、これは楽そうだ。

 瞑想というからには、座って目を瞑ってやるあれだろう。これならやれそうだ。


[お、やる気ありそうだね!とりあえずやってみようか!]

 

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