第13話 魔力覚醒


「ガァァァァァァアアアアアア!!!!!?」


 苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい!!

 なんだこれなんだこれ!苦しくないとか嘘じゃん!


 涙とかなんかいろいろ流れてるがそんなこと気にしてられるのは最初のうちだけだった。もうダメなんかもうわけわかんない。


「……おい、あれめちゃくちゃ苦しそうじゃねぇか?」


[いや、あんなの全然だよ。やっぱり同じ人間だとめちゃくちゃスムーズだね。あれはただ単に魔力覚醒の反動だから、別にどの方法だろうとああなるんじゃない?]


「あー、まあそれもそうか? ま、耐えるしかねぇな」


 


「あ゙あ゙ぁぁぁぁぁあああああああああ!!!」



……



「……お、お前を、ゆる、さない」


 く、苦しかった……。

 叫びすぎて喉がガラガラだ。ヨロイのやつふざけやがって何が苦しくないだ。


[おー、お疲れー。いやー、三日三晩苦しみと気絶と覚醒を繰り返すより全然マシじゃない? 魔力波長が同じだと便利だねー]


 ……えぇ、あれでマシなの?

 なんかさっきまで怒りに満ちていたが、急に冷めてしまった。なんというか、ドン引きだ。


[元々魔法の才能を持たない者が無理矢理魔力を手に入れるための方法なんだから、そりゃあ命懸けだよね。今回は本当にすんなり上手くいったんだよ。いやー、よかったよかった]


 軽々しく魔法使いたいとか思うんじゃなかった。他の奴らみんな命懸けで魔法を使えるようになったのか。ヨロイの言う通り、僕は恵まれてるんだな。


「いや、でも先に言っといてくれればよくない?」


[先に説明したらやらなさそうじゃない? 生き残るために魔法は必須だよ?]


 くっ、正論だ。

 仕方がない。終わってしまったことは水に流すとしよう。


[そんなことよりさ、今まで感じ取れなかった何かがわかるようになってる?]


 ヨロイにそう言われ、意識してみる。

 すると、薄っすらとではあるが何かが体を巡っていることが認識できた。これが魔力か。なんだか気持ち悪いな。


「ああ、なんとなくわかるよ。微妙に気持ち悪いんだけど」


[それが魔力だね!気持ち悪いのはそのうち慣れるよー。普段血液の流れなんて意識してないでしょ?]

 

 そんなもんなのか?

 まあ、そうこう言ってうちにあまり気にならなくなってきたか。


[リュウくん、ちょっと魔力解放してくんない?]


「ん? おお、いいぜ」


 そう言ったリュウの方を見ると、体から何かが迸っていた。これも魔力なのか。


「おーすげー」


[お、その反応はちゃんと見えてるね。よかったよかった]


 なんかすごいな。

 オーラみたいな光がリュウを包み込んでいる。僕にもあんなことができるんだろうか。


「ふぅ、もういいよな? まあ、実際はこんな無駄な使い方はしねぇからな?」


 あ、しないのか。

 僕にわかりやすく見せてくれたってことか。


[さーて、魔力の覚醒は上手くいったから、次は制御だね!ただ、魔力が体にまだ馴染んでないから今日はここまでかなー]


「そうだよね今日はもう終わろうね!!」


 もうほんとに疲れた。

 あの苦しみに耐えただけでも褒めてほしいくらいなのに、今からまた別のことをやるなんて無理だ。帰ろう。そして寝よう。


「しゃーねぇ。俺の方も今日は終わりにしてやるか。また明日走り込みからな!」


「……ああ、はい」


 嫌だなぁ。やりたくないなぁ。

 でも、やらないと生き残れないって言われてるしなぁ。


[それじゃー戻ろうかー]


 扉から出て、外に出る。

 なんか変な感じだな。外から外に出てるのか。ほんとに不思議空間だ。現実世界はそろそろ夕暮れだった。


「じゃあなー真っ直ぐ帰れよぉ!」


[またあしたねー]


 そう言って、リュウとヨロイは去っていった。帰る方向一緒じゃないの? どこ行ったんだろう。


 なぜかちょっと寂しくなりながら歩いていると、不意に声をかけられた。


「コウ殿!ちょうどよかった。ちょっとついてきてほしいのである」


 ヴァンに呼ばれてしまった。

 どうしたんだろうか?



――――――



「こ、これは……!!」


「ふっふっふ、そろそろこれが恋しくなっていると思っていたのである!」


 目の前にあったのは、肉!!!

 鉄板の上で焼かれた肉からは肉汁が滴り、見るからに美味しそうだ。


 ゴクリ、と唾を飲み込む。


「た、食べていいのか……?」


「もちろんである!おかわりもあるのである!」


「いただきまーす!」


 う、美味い……!!

 ちょっと肉は硬いが、歯応えがあると思えば全然いける。ちゃんと味付けもしてあって、焼き加減も絶妙だ。


「ありがとう、ありがとうヴァン。なんていい奴なんだ……!」


「ふふふ、いいのであるよ。コウ殿は頑張っていたのでご褒美である」


 優しさが身に染みる。

 僕ってこんなにいい奴だったかな? まあ、いい奴ではあるか。


「いい食べっぷりであるなぁ。森の監視のついでに狩っておいてよかったのである」


 しみじみとヴァンが呟いている。

 ……ん? 森?


「えっと……森には牛とか豚とかがいたのか?」


「そんなものはいないのであるな!牛っぽい魔獣を狩ってきたのである!!」


 ブファッッッ!?


「なんてもの食わしやがる……!!!」


 思わず吹き出した。


 え、魔獣の肉なのこれ??

 大丈夫なのか? なんか悪影響とかないの??


「い、いや、大丈夫であるよ? 毒とかはなさそうであったし……」


「そういう問題じゃなくない!?」


 え、確か世界の歪みが原因で魔獣が発生しだしたとか言ってなかったっけ? そんなのを食べて問題ない方がおかしくない?


「心配しすぎであるな!鍛えるのだからタンパク質はたくさん摂るのである!」


「うるせぇ!!ちょっとは申し訳なさそうにしろ!」

 

 なんなのこいつほんとに。

 魔獣はダメでしょ。見たことないけどさぁ。


「はっはっは、コウ殿は心配性であるなぁ。吾輩から一つ助言しておくのであるが、食べられる時に食べておかねばならんのである」


「ぐっ……」


 であるであるとふざけているように思えるが、その雰囲気は真剣そのものだった。いや、でも魔獣はなぁ。


「コウ殿は、他に食糧がない場合でも魔獣は食べないのであるか?」


「いや、それとこれとは……。今は他に食糧もあるし……」


「なにも、違わないのである。今のコウ殿は、召喚された先の得体の知れない人物からの好意で食事を提供されているだけ。それがなければ、盗んで食うか、狩って食うかしかないのである。そして、弱ければ何もできず飢えるのみ」


 それは、そうかもしれない。

 唐突に、冷や水をぶっかけられた気分だった。


「厳しいことを言うようであるが、これが現実。ゆえに、食える時に食うのである!」


「……ああ、その通りだな!!」


 魔獣がなんだ!!肉は肉だ!!

 元の世界でだってゲテモノくらい食べたことある!ワニとか見た目は怖いけどなんか硬いだけの肉だったし!!


 ガツガツと肉を貪る。

 あーー、美味えなぁーーーー。


「うむうむ、良い食べっぷりであるな」


 ヴァンは満足そうに頷いている。

 厳しめのことを言われてしまったが、これは彼なりの善意で、何も考えていなかった僕にとっては必要なことだったのかもしれない。


「ありがとう、ヴァン」


「いいのであるよ、コウ殿」



 

 なんだか気分がいい。

 今日は待望の魔力を手に入れて、肉を食べて腹も満たされた。あとはゆっくり寝たいところだ。


「……む? 森が、騒がしいのである」


 ゆっくり、寝たいところなんだが……。



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