第12話 ここが訓練場
賢者の方に向かうと、そこには先ほどまではなかった高さが二メートルくらいある長方形の箱があった。正面には扉がついている。公園とかにある簡易トイレみたいだ。
「一応、試作品ができたから試してみようと思ってね」
「え、もうできたの?」
リュウと喋ってはいたが、そんなに長い時間は経っていなかったと思う。しかし、人が一人立って入れるくらいの大きさだけど、これでいいのだろうか? まずは小さめに作ってみたとかかな。
「とりあえずコウくん入ってみてくれる? 私たちも一度入っているから安全性は確認済みだよ」
「おっけー」
まあ、とりあえず入ってみよう。
中がどうなってるか気になるし。
お邪魔しまーす。
そこには、一面に広がる草原。
「おおおお!?」
なにこれ!?
なんでこんなに広いの!?
「いやー、いい反応するねぇ」
ニヤニヤしながら賢者が後から入ってきた。
他の面々もぞろぞろと入ってきている。
「おおー、こりゃすげーなー」
リュウも驚いているみたいで安心した。
僕だけだったらバカみたいじゃないか。
「仮想空間を構築してジィさんの扉と繋げてもらったんだよね。私とヨロイくんによる複合結界でこの空間の独立性は保たれてるから世界への影響もかなり減衰できたはずだよ。あ、何かするときはちゃんと扉を閉めてね?」
ふむ、なんだかよくわからないことを言っているが、ここでなら何しても大丈夫だと理解した。
「うーん、その顔はわかってないね。まあ、理解してもらう必要はないけどね」
なんかそう言われると悔しいな。
だが、わからん。
「龍閃!!」
ゴゥッッッッ!!
隣から轟音が響く。
「なにやってんの!?」
リュウが突然口から赤黒い光線を放ちやがった。
なんなのこいつ怖いよ。
「おー、なんともねぇな。こりゃすげぇや」
「リュウくん、やるなら先に言ってよ……」
賢者も呆れている。
こいつ一回叱っといたほうがいいよほんとに。
「……まあ、どうせ耐久試験するつもりだったからいいか。一旦完成ということで。何か要望とか不具合とかあったら改善するから言ってね?」
賢者ってリュウには甘い気がするよね。
しかし、ほんとにすごい空間だな。こんなもの作れるんなら、なんでもできるんじゃないか。
[講義する用に机と椅子と大きいパネル置いといてー。あと、訓練用の的とか]
「山とか作れねぇの? 足腰鍛えさせようぜ」
早速要望を言ってるな。
全然遠慮がない。
「はいはい、考えとくよ」
「なあ、儂もう戻ってええか? 別の調査したいんじゃが」
ジィさんは仕事熱心だな。
賢者とジィさんのおかげで上手く回ってる気がする。この二人が良心だ。
「ああ、もう構わないよ。ありがとうジィさん」
うぃー、と言いながらジィさんが出ていった。
「それじゃ、私も行くから。あとは適当に訓練でもして、不具合ないか確かめといてよ」
良心!!
二人ともいなくなるのかよ。リュウとヨロイの二人組はかなり不安なんだが。みんな僕なのに不思議だね。
「おお、任せとけ!」
[ありがとねー]
ああ、行ってしまった。
今から何が始まるのだろう。
「とりあえず、端まで走ってみるか!」
「えぇー……」
また走るのか。
今朝走ったばかりだというのに……。
[いやいや、せっかくの別空間で走るだけなんてもったいない。ここは魔法の実戦訓練をしよう!]
「おぉー……」
まだこっちの方が興味が惹かれるな。
ただ、実戦というのが気になる。
「おいおいおい、体力は一番大事だろうが!最初はとりあえず走っときゃいいんだよ!」
[それなら城の周りぐるぐる走ってたらいいよねー。ここでしかできないことをする方が合理的ではー?]
なぜか対立してる二人。
なんでそんなにやる気に満ち溢れているんだろうか。他人を鍛えるのってそんなに楽しいのかな。ま、他人じゃないけど。
「よーし、そんじゃあ勝負といこうぜ!俺が攻撃でヨロイが防御だ!」
[望むところだー!]
なんかよくわからない方向に話が進んでないか? なんで勝負になってるんだ。僕の意思とか聞こうよ。
「よく見とけよコウ!審判はお前に任せる」
[ボクの魔法を見せてやるぜー]
「ああ、はいはい。わかったよ」
距離をとって向かい合う二人を見る。
魔法で勝負する感じかな。……なんで二人ともこっちみてるんだ?
あ、これ僕が開始の合図するやつか。
「それじゃあ、はじめー」
「龍閃!!」
[聖八晶結界!!]
轟音が鳴り響いた。
リュウの赤黒い光線がヨロイの作り出した結界に阻まれている。なんだかすごい光景だ。どうでもいいが、なぜヨロイはわざわざ背負ったパネルに技名を表示させてるのか。
「うおぉぉぉぉお!!」
[そりゃあぁぁぁぁあ!!]
いや、だからなんでパネルに。
もしかして余裕なのか?
光線と結界が拮抗している。
なんかすごいなーと眺めていると、唐突に終わりが訪れた。
結界が砕け、光線が霧散する。
あれ? この場合はどっちが勝ったのかな。
「……」
[……]
二人が無言でこちらを見ている。
僕が判定しなくちゃいけないのか……。
「ええと、一応守り切ったので、ヨロイの勝ち?」
[よっしゃあぁぁぁぁあ!!]
「くそぉぉぉぉぉお!」
テンション高いなぁ。
ヨロイはガッツポーズして、リュウは地面を叩いている。あ、地面割れた。怒られても知らないよ。
というか、この空間はほんとにすごいな。
あれだけやったのになんの問題もなさそうだ。割れた地面もすでに元に戻ってるし。
[というわけで、魔法の訓練をはじめます!]
ああ、そうだった。
そもそも僕の訓練の話だったっけ。
「訓練って、なにするの?」
[とりあえず、魔力を感じ取るところからだね。他のみんなにも聞いて、いくつか方法があったから選んでいいよー]
あれか、ヨロイが二度とやりたくないとか言ってたやつか。まあ、これだけいるんだから安全なのもあるだろう。
[①ガンガン体に魔力を流し込む(苦しい)
②死ぬ寸前まで魔力を叩き込む(痛い)
③百年くらいかけて瞑想する(辛い)
④魔力の高い者の血を飲む(狂う)
⑤他者から魔力を奪う(相手は死ぬ)
どれがいい?]
「どれも嫌だ!!!」
なんなんだこの選択肢!!
こいつらやっぱおかしいよ。
①はヨロイだな。苦しいのは嫌だ。
②はリュウっぽい。痛いのは嫌だ。
③はたぶん賢者かなぁ。寿命って知ってる?
④はヴァンだな。意味わからん。
⑤が一番怖いよ。消去法でジィさんか。
[あ、⑤については襲ってきた悪人から奪ったから問題ないって言ってたよー]
「じゃあ僕は誰から奪えばいいので?」
悪人とかいなくないか?
そもそも魔力を奪うとかしたくないんだが。
[そうだよねー。ボクのおすすめはやっぱり①かなー]
「②でいいんじゃねぇか? 早く終わるぞ!」
それぞれ自分のやつを推してるだけだな。
苦しいのと痛いのだろ? 嫌だなぁ。でも、他はどう考えても無理だしなぁ。
[悩めるコウくんに朗報です!まず、他者の魔力を流し込まれると苦しくなる主な原因はなんでしょうか?]
苦しくなる原因?
「変なもの流されて拒否反応が出るとか?」
[それもある!でも今回は不正解!一番の原因は人それぞれ魔力の波長が違うから体内で反発しちゃって、馴染むまでめちゃくちゃ苦しくなるのです!]
ほー、なるほど。
指紋みたいに個人で魔力が違うのか。
[普通これはどうしようもないね!でもぉ〜? 奇妙な巡り合わせでボクたちは〜?]
鬱陶しいな。
でも言いたいことはわかってきたぞ。
「同一人物だから、苦しくない?」
[大・正・解〜!そうなると選択肢は?]
「……①しかないな」
なんだこの露骨な誘導尋問。
でもまあ、きっとこの方法が一番いいはずだ。
[だよねー!それじゃあ、さっそく始めようか!]
「ああ、よろしく頼むよ」
なんにせよ、これが終われば魔法が使えるのだ。楽しみで仕方ないな。
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