第11話 お姫様と


「ここが畑です!コウ様が食べてる野菜はここで作ってるんですよ!」


「おー、広いですねー」


 何故かマユルワナさんと畑を見ている僕。


 いや、突然部屋を訪ねてきたお姫様に、城の周りをご案内しますね!とか言われたら行くしか選択肢はないだろう。


「食事はお口に合いましたか?」


「ええ、とても美味しいですよ」


 足りないとか肉が食べたいとか言えないよなぁ。


「ふふ、良かったです!実は、わたくしもこの畑でお仕事を手伝っているんですよ?」


 今朝の服装はそのためだったのかな。

 お姫様なのに偉いなぁ。僕なんか走ったり勉強したりしてただけだよ。……なんか罪悪感が。


 それにしても広い畑だなぁ。数人が働いているのが見えるけど人数が少ない気がする。魔法とかでなんとかなるのかな?

 

 畑を一通り見て周り、再び歩き出す。


「それにしても、お元気そうで良かったです。今朝は本当にお疲れのようでしたから」


「ああ、いえ、お見苦しいところを……」


 走り疲れて賢者に運ばれたてた時か。

 できれば忘れてほしいところだけどね。


「……コウ様には、謝らなければと思っていたんです」

 

 急になんの話だろう?


「わたくし達には召喚魔法に縋るしか道はなかったとはいえ、申し訳ありませんでした。召喚されたということはコウ様には英雄の素質があるのでしょうけど、戦いとは無縁の生活を送っていた方を巻き込んでしまうことは考えておりませんでした」


 マユルワナさんに頭を下げられてしまった。

 

 ん? もしかして煽られてる? 弱いって言いたいのかな?


 ……流石の僕でも、違うってことはわかってる。ただ、なんというかなぁ、もやもやするね。


「……ええと、謝られましても」


「そう、ですよね。今のはわたくしの自己満足でした。重ねてお詫び申し上げます」


 うーん、なんだかいたたまれない空気になってしまったな。沈黙の中、歩き続けるのがつらい。


 適当に歩いていたようだが、ここは庭園かな? 綺麗な花がたくさん植えられている。


「あれ? あそこにいるのは……」


 食堂で配膳してくれていた子がいた。


「あれはキリラですね。こんにちは、キリラ」


 あの子はキリラというのか。

 花壇の花に水をあげているようだ。


「姫様と英雄様、ようこそ」

 

 キアラがこちらに挨拶を返してくれた。

 相変わらずの無表情だが、配膳の時よりは機嫌が良さそうだ。花が好きなのだろうか。


「ここの花たちはキリラが管理してくれているんです!まだ小さいのにしっかり者でしょう?」


 これは、話をするチャンスか。


「綺麗な庭園ですねー。キリラちゃんは仕事ができてすごいな」


「……ありがとうございます、英雄様。では、他の仕事があるので失礼します」


 話しかけると、そそくさと去ってしまった。

 僕、嫌われてるんだろうか。


「すみません、本当はもっと明るい子だったんですけど、母親を亡くしてからあんな感じになってしまって……」

 

「そうなんですか……」


 予想外の重い話をされてしまった。

 そんな話に慣れていない僕には、なんと答えていいのかもわからない。


「親族がまだ残っていたことは救いでした。昨日案内をしていたアイマを覚えていますか? 実は、キリラはアイマの孫で……」


「おや? 姫さんにコウくんじゃないか。こんなところで何をしているんだい?」


 いいタイミングだ賢者!

 僕はこういう悲しい話はとても苦手なんだ!


「あら? ケンジャ様ご機嫌よう」


「うんうん、ご機嫌よう。姫さん、コウくん借りていっていいかな? どんどん鍛えないと使いモノにならないんだよね」


 あまりにも酷い言い草だ。

 だが、逆にあからさますぎる。ここは黙っておこう。


「え、ええ、それはもちろん構いませんが……。あまり、無茶なことはしないであげてくださいね?」


「ふふっ、姫さんは優しいね。でもそれはコウくん次第かなー。じゃ、そういうわけで借りてくよ」


 ふわりと体が浮いた。

 え、またこれで運ばれるの?


「コウ様、それではまた」


 マユルワナさんにそう声をかけられるとすぐに動き出した。なんだなんだ、何事だ。


「コウくん」


 小さな声で賢者が話しかけてくる。



「姫さんには、気をつけてね?」



 気をつける? マユルワナさんを?

 賢者は意味深なことを言うだけ言って、それ以上のことは語ってくれなかった。ちゃんと説明してほしい。


「さあさあ、そんな目で見ないで!コウくんに用事があったのは本当なんだよ」


 今は話す気がないらしい。

 なんとなくわかってしまうんだよな。やっぱり自分のことだからだろうか。


 そんな話をしているうちに、城の裏手までやってきていた。


「……まあ、いいや。それで、何が始まるんだ?」



「待ってたぜぇ!!」

[やってやるぜー]


 

 リュウとヨロイが仁王立ちしているが、見なかったことにしたい。あと、ジィさんもいる。


「あのあと、コウくんの育成について話し合ってね。ちょっといろいろ試してみることにしたんだよ」


 ええ、なんか怖いんだけど。

 賢者がいるから、まだ安心できるか……?

 

「さっきの報告会でカミくんの存在が危険という話をしたと思うんだけど、私たちがこの世界に悪影響を及ぼさないとも言い切れなくてね」


 確かにそれはそうか。

 カミ以外の他の連中も、人としては大概逸脱した感じの存在だろう。というか、人じゃないのもいると思うけど。


「そこで、世界への影響を抑える結界でも作ろうっていう話になったんだよね。あとついでに、そこで魔法とかの特訓すればいいかなって」


 簡単に言ってるけど、そんなものがホイホイ作れるものなんだろうか。というか、それがあればカミも動けるのでは?


「カミくんは無理だね。ちょっと力が強すぎる」


「心を読むなよ……」


「なんせ私だからねぇ」


 便利なのか厄介なのか。

 隠し事とかできなさそうだな。


「というわけで、ここは好きに使っていいと許しを得たので好き勝手にしまーす。まずは魔法陣の構築から始めようか。ジィさんとヨロイくん手伝ってー」


 三人でなにやら小難しい作業をし始めた。

 これ、僕は来る必要あったのか?


「あ、コウくんはリュウくんとトレーニングについて話し合っといてね」


「おーし、考えようぜぇ。今朝は飛ばしすぎたわすまん」

 

 リュウが謝ってきた!

 そこまで言うなら話し合いに応じてやろう。


「お手柔らかに頼むよ」


「任せろって!まず、体力は絶対必要だから走り込みは必須だ。これはいいか?」


「それに関してはまあ、同意するよ。距離が問題だって言ってんの」


 なんで急に城の周り十周とか言い出したんだ。何キロあると思ってんだよ。


「そこなんだよなぁ。もう察してると思うが、俺は龍の特性をもってんだよ。だから人の感覚を忘れちまってんだよな」


 龍っぽいなと思っていたリュウはほんとに龍だった。まあ、鱗も生えてるし何回か翼を生やしてるのも見たから今更驚きはないね。


「コウ的には、何周くらいが妥当だと思う?」


 これは難しい質問だな。

 なんせ走るのは嫌いだからそんなに多くしたくない。だけど、鍛えてもらっている手前あまりに少ないと申し訳ない。そうなると最適解としては……。


「まあ、三周くらいじゃないかな」


「よしわかった、五周だな」


「人の話聞いてた!?」


 なんで自然に二周増やしてんだよ!


「いや、おめぇは走りたくねぇからちょっと少なく申告するに決まってんじゃねぇか」


 当たり前のように言われてしまった。

 くそっ、やりづらいな。全部バレてるじゃないか。


「あとは、筋トレと組み手くらいか。筋トレのメニューは考えとくとして、次からは俺と組み手だ!」


「嫌だ!!!」


 絶対痛いじゃん!

 こいつ手加減下手そうだし!!


「そう言うと思ったぜ!俺は意外にも手加減が上手いから安心してくれや」


 はあ? 自分から手加減が上手いとか言う奴を信用できると思ってんのかこいつ。


 とか思ってると目の前に拳。

 遅れて風圧が!!


「な? 手加減上手いだろ?」


 ドヤ顔で寸止めしてくるリュウ。

 なんでそんな中学生みたいなことするの。


「あーもう、わかったよ。やればいいんだろ!?」


 善意で言ってくれてることはわかってるのだ。できる限りは頑張ろうじゃないか。


「よく言った!それでこそ俺!」


 屈託なく笑うリュウを見て力が抜ける。

 悪気はないんだよなぁ。




「二人ともー集合ー!」


 筋トレについて話していると、賢者に呼ばれた。何か進展があったのだろうか。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る