第10話 第一回調査報告


 僕の部屋にみんなが集まっている。

 いや、なんで僕の部屋なんだ。


「あれ? カミがいないけど」


「ああ、それについてもあとで説明するよ。とりあえず、ヴァンくんの報告から聞こうか」


 ヴァンはこの島について調べてたんだっけ。

 そんなにすぐ調べ終わるもんなのかな。


「では、第一回調査報告会を始めるよ」


「ごほん、では吾輩の調査結果を聞くのである」


 偉そうだなー。

 なんかちょっと他のメンツに比べて影が薄いから、目立てて嬉しいのだろうか。


「……何考えてるか、その目でだいたいわかるのであるな。まあ、良いのである」


 なにかぼやいているが、気にしない。

 ヴァンによると、確かにここは島だということがわかったらしい。人が住んでいるのはこの城周辺だけで、あとは大部分が森になっているそうだ。森には魔獣とやらが棲息していて、ここの人たちは近づかないのだとか。魔獣の方も滅多に森から出てこないらしいので、棲み分けができているのかもしれないとのこと。


「おおまかには、こんなところであるな。島にいる人数に対して食糧は十分、水資源も豊富にあるゆえ、生きていく分にはなんの問題もなさそうである」


 ヴァンがそう締めくくる。

 まあ、魔獣以外は特に危険なこともなさそうだ。


「森に強そうな魔獣はいたのかよ?」


「森は広大かつ何が起こるかわからないから、そこまで詳しく調査はできていないのであるな。浅い部分だけを見たところでいえば、いくつかの縄張りがあって、それぞれにボス的な魔獣は存在してそうである」


 森には近づかないでおこう。

 絶対に。


「ありがとうヴァンくん。引き続きよろしく頼むね」


「任せるのである」


 ヴァンの報告が終わった。

 次は賢者かな?


「それじゃあ、私の方からこの島に張られてる結界の調査結果と、他にもいくつか報告するよ」


 なんかみんなちゃんとしてるなぁ。

 僕のやらされてた特訓とは大違いだ。


「結論から言うと、あの結界は私たちでは修復できないね。軽く解析しただけでも膨大な情報量だったよ」


 マユルワナさんが言っていた通り、一年ほどで壊れてしまうということか。


「新たな結界を張ることも考えたんだけど、干渉の影響とかこの世界の歪みのこととか考慮すると、とても一年じゃ対応できないからやめたよ。まあ、なんとかなるでしょ」

 

 賢者ってたまに投げやりになるよね。

 この世界に興味なさそうだもんなぁ。


「結界の方はもう少し詳しく解析してはみるけど、そんなところだね。次の問題は世界の歪みについてなんだけど、こっちはかなり深刻だよ」


 賢者がいつになく真剣な表情をしている。


「まず、私たちが召喚された時点で歪みが生じている可能性はコウくんも聞いたね?」


「ああ、ヨロイから聞いたよ」


 そのおかげでみんなの魔法が使えるんだよな? おかげでっていうのも変な感じがするけど。


「どうやら懸念は当たっていたみたいでね。私でも観測できるほどに乱れが生じていたよ。おそらく、近いうちに森で異変が起きる」


「儂も観測したからほぼ間違いないじゃろうな。ヴァンよ、森への警戒を強めておいてくれんか」


「承知したのである」


 なんかサクサク話が進んでいく。

 こいつらもしかして優秀なのか? つまり僕って優秀なんだな。


「で、はじめに言ってたカミくんのことなんだけどさ。アレ規格外すぎて、ちょっと動くだけで世界に歪みを生じさせてる可能性があるんだよね」


「動くだけで……?」


 おお、なんかすごいことになってるな。

 流石は自分で神と名乗るだけはある。それにしても、アレ呼ばわりはなかなか酷いね。


「そうなんだよね。だから今ごろ部屋の隅で膝抱えて座ってるよ」


「それは可哀想であるな……」


「そんなわけで、カミくんの力は頼れないからそのつもりで。まあ、別に必要ないと思うけど」


 カミに対して辛辣じゃない?

 確かにノリは悪かったけどさぁ。


「あとは、召喚に際しての制約なんかも今後は調査予定だね。そのあたりはジィさんにお願いするよ」


「まあ、期待せんで待っとくんじゃな」


 ジィさんが面倒くさそうにしているが、あれはやるべきことはやるタイプだな。僕にはわかる。


「さて、あとは……コウくんについてかな」


 おっと、なんだろうか。

 別になにもしていないが。


「育成方法にクレームが入ってるんだよね。特にリュウくん」


「根性が足りねぇんだよなぁ」


 え、この期に及んでまだそんなこと言ってるの? ちょっとは反省してくれ。


「まあ、そんなに切羽詰まった状況でもないから仕方ないんじゃないかな? 私たちが一緒にいるのはかなり大きいよ」


「それはそうだけどよぉ……」


 賢者のアシストにより、リュウも納得してくれたようだ。助かった……。


「肉体的なトレーニングについては、しっかり計画を練ろうか。ヨロイくんの魔法講座については順調かな?」


[このパネルのでかいやつ作ってー。講義で使いたい]


「待て!ゆっくり話せばいいんだよ!」


 まだ諦めてなかったのか。

 パネルがデカかろうが、あの速さでは読みきれないんだよ。


「うーん、大きいパネルは難しいかなぁ。手持ちの材料じゃ心許ないんだよね」


[そっかー。じゃあ、しゃーない]


 良かったけど、賢者の手持ちの材料ってなんなんだろう。パネルとか杖とかどこから取り出したのか謎だ。


「まあ、何かこちらでも考えておくよ。というか、今は講義を聞いてるだけだからいいけど、魔法を使い始めると場所がいるなぁ……。その辺も考えないと」


 賢者がなにやら思案を始めたので会話が止まった。


 ぼちぼちこの会議みたいなのも終わりかな。

 お腹空いてきたなー、とか考えていると。


「む、誰か来るようじゃな」


 ジィさんが突然呟いた。

 結界みたいなものにでも引っかかったのだろうか。


「ん? おお、姫様か。……ちょうどいいので解散!」


 賢者の言葉で、会議が終わる。


 また各々消えていった。

 相変わらずカッコいいな。そういえば、カミの奴は動くだけで世界が歪むなら、昨日のふわっと消えた魔法とか絶対影響大きかったよね。やっぱあいつダメだわ。


 ヨロイはなんか部屋の隅で隠れてるつもりになってるけど、それでいいのか。


 というか、集まってることってマユルワナさんに知られたくない感じなのね。別にいい気もするんだけど。


 ぼーっとみんなを見送っていると、扉がノックされた。


「コウ様、マユルワナです。少しよろしいでしょうか?」


「はーい」


 わざわざ訪ねてくるとは、一体なんの用だろうか?


 

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