第9話 魔法のお勉強


[ここから、ボクのことは先生と呼ぶように!]


「はい!ヨロイ先生!」


 なんだこのテンション。

 まあ、いいんだけど。


 勉強だけど楽しくなってきたな。

 さっきの話もわかりやすかった気がするし、これは期待できる。こちらは人選ミスじゃなくてよかったよ。


[ではまず基本的な魔法構築理論から説明するね。まあ、そもそも昨日少し他のみんなが魔法を使っているところを見れたと思うんだけど系統によって全然魔法の構成が異なるんだよね。じゃあ何が根本的に違うのかっていうとまず現象を発現させるためのエネルギー、今回はわかりやすく魔力とでも呼ぼうかな、その魔力をどこから何から調達するのかってところがポイントになるよね。その次はどうやって魔力を調達するかってところになってくるんだけど、契約やら祈祷やら宣誓やら隷属やらの様々な方法で他者あるいは別の何かから引き出す方法もあるし、一方で自らの魔力を使用する場合もあってこれに関しては魂魄とか血液とかから捻出する方法とかもあるんだけど結構特殊な感じになってくるから難しいんだよね。ただ、やっぱりそこが面白くて……]


「ストーーーーーーーップ!!」


 パネルの上をものすごい速さで文字が流れていっていた。誰だこんな奴を育成担当に任命したのは。わざとか?


[なに? あ、質問かな? 意欲的なのは嬉しいんだけど一通り説明してからの方が理解しやすいと思うから質疑応答の時間は後でとろうと思ってたんだよね。だから待ってもらえると……]


「ちげぇよ!? 文字が速すぎて読むのが追いつかねぇんだよ!」


 え? といった風にパネルを見るヨロイ。

 なんか色々と文字を流している。


[おお、ほんとだ。まったくもう、早く言ってよねー]

 

 ふはは、揃いも揃って腹がたつ。

 え、こいつらほんとに僕なんですか?


 しかし、ここは僕が大人になろう。

 話が進まないからね。


「……そうだね」


 話の内容は面白そうだったので、もうちょっとゆっくり講義してもらえればそれでいい。


[うーん、やっぱり話をするのと文字が表示されるのとでは勝手が違うね。便利だけど盲点だったなー]


 いや、あの勢いで話されたら結局理解できないと思う。なんかもう面倒なので言わないけど。


[しょうがない、賢者に頼んでもっと大きいパネルを作ってもらうかー]


「速度を、落とせ!!」


 なんでそうなるんだバカなのか?


[えー、それだと講義の予定がずれ込んじゃうからなー]


「いいよ、それで。ゆっくりやろうよ……」


 なんでそんなに初日から飛ばすんだ。

 だいたいはオリエンテーションとかから始まるんじゃないのか。


[まあ、どのみち今日は仕方ないからゆっくりやるよ]


「それでいい」


 やっと、魔法について聞けるな。

 まだ昼前なのに疲れたよ。


[どこまで進んだっけ? 十二次元魔法関数の領域分類のとこだったかな?]


「絶対違うね!!わかってて言ってんだろ!!」


 ふざけないと気がすまないのか?

 これで講義の予定がどうとか言ってるの意味わからんだろ。


[……で、まあ魔法ってのはざっくり言って、魔力源、魔力経路、魔法構成、発動形式の違いなんかがあって、他にもあるけど細かく言えばキリがないよってことだね]


「なるほどね」


 なんか急にまともになったけど、なんとなくは理解できた。要するに、いろんな魔法があるよってことだろ?

 

[……ほんとにわかってる? まあ、いいんだけどさ]

 

 なんか疑われている。

 お前も僕なんだからわかるだろう? そういうことだよ。


[それじゃ、ボクの魔法について話そうかな]


「待ってましたー」


 これを聞きたかったんだ。

 僕がこれから学ぶ魔法。楽しみすぎる。


[ボクの魔法は、イメージしやすいように名前をつけるなら、〈聖光魔法〉といったところかな]


 ほう、〈聖光魔法〉とな。

 思い浮かぶのは癒しの魔法とかかな? 慈愛に満ちたこの僕にぴったりの魔法だね。


[悪しき者どもを撃滅する聖なる光の魔法だよ!]


 物騒だった。

 まあ、正義の心を持った僕にぴったりの魔法だね。


[ちょっと詳しく説明するねー]


 ヨロイによると、わかりやすく聖光魔法と呼んだが、聖なる光というだけで宗教とか神とかは関係ないらしい。


 悪を滅する光の魔法とか言っていたが、修練を積めば聖なるビームが放てるそうだ。素晴らしい。それ以外にも浄化や守護結界、簡易な治癒魔法も扱えるとおまけのように付け加えていたが、むしろそっちがメインではなかろうか。

 

[発動形式としては詠唱とか魔法陣とかあるけど、そんなの戦闘中にやってられないよね。だから、とりあえず最初は即時展開できる魔法を覚えてもらいまーす。詠唱も場合によっては効果的だから、そのうち教えるけどね]


「詠唱か……」


 なんか、詠唱ってちょっと恥ずかしいよね。

 しかし、正直に言うとカッコいいと思っている自分もいる。詠唱はロマンだ。


[まあ、そもそも魔力を感じ取るところから始めないといけないから、詠唱なんてかなり先の話だけどねー]

 

「魔力ってどうやって感じ取るんだ?」


 この世界には魔法があることはわかっているが、これといって何かを感じたことはない。


[いろいろと方法はあると思うけど、ボクが教えてもらった時はガンガン身体に魔力流されて強制的に理解させられたね。はは、二度とやりたくないよ]


 え? それを僕にもやるんですか?

 同一人物なんだし、それって二度目みたいなもんじゃないの?


「二度とやりたくないなら、やめとこうよ……」


[ボクとしても正直に言ってお勧めできないね。他のみんなが穏便な方法を知ってることを祈ってるといいよ]


 頼む賢者……!!

 なるべく痛くなくて苦しくない方法を知っていてくれ!!他のやつはあてにならん。


[さて、いろいろ説明したけど何か聞きたいことはあるかな?]


 聞きたいこと、か。

 それはもう何故喋らないのかとか何故鎧をずっと着てるのかとか気になるところではあるけど、別に魔法関係ないしなぁ。それに、なんか聞きづらい雰囲気もある。


 うーん……あ、そうだ。


「なんか、他の人らの魔法は癖が強いから消去法でヨロイの魔法を教えてもらうことになってたけど、あれってどういうこと?」


 昨日そんなことを賢者が言っていた気がする。


[あー、あれね。一応言っておくと、ボクの魔法が簡単というわけではないんだよね]


 あれ、そうなのか。

 習得が比較的簡単だから選ばれたのかと思っていたが。


[他の人の魔法だから詳しくは言わないけど、体質に依存してたり契約が絡んできたりして、ややこしいんだよね。要するに、めんどくさい]


 めんどくさいのか。

 じゃあ仕方ないな。


[その点ボクの魔法は優秀だね!元の世界では継承式の魔法形態だったから苦労したけど、コウくんはボクだから問題なし!]


 同じ人間なんだから継承とか関係ないもんな。

 でも、継承式ってことは。


「誰かから魔法を受け継いだってこと?」


[あー、うーん、そうだね。まあ、そのあたりの話もいずれするよ]


 おっと、この話はダメだったか。

 僕は紳士なので踏み込まない。僕だからわかるが、あれはめちゃくちゃ言いたくないやつだ。


 なんだか微妙な空気になってしまったな、と考えていると。

 


「おーい、二人ともちょっと来てくれるかい? 一度情報共有をしたいんだ」


 賢者が声をかけてきた。

 もしかして、何かわかったのだろうか。


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