第14話 魔獣の森


 ヴァンの召集により、森の近くにみんなが集結していた。いつも通りカミ以外。


「あー、これは確かに危険そうだ。なんかどんどんこっちに向かってきてるね。周辺の人たちを城に避難させたのは正解だったよ」


 え、そうなの?

 僕も避難した方がよくないか?


「お前はここにいろよ? 見とくのも経験になるぞ?」


 リュウに肩を組まれた。

 ちっ、先読みが早すぎる。


「思ったよりも数が多そうであるな。この人数で対処しきれるか微妙である」


「いやいや、余裕でいけるだろ!」


「うーむ、森を更地にしていいなら簡単なんじゃがの。そうなると更に生態系に異変が生じる可能性もある」


[そもそもなんでこんなことになったのかな? 原因を排除する必要があると思うんだけど]


 みんなが議論している中、僕は黙って森を睨みつけている。いや、やることないんだよね。


「私たちの召喚によって世界の歪みが生じて、強力な魔獣でも発生したのかな? その魔獣が暴れ回って生態系が狂ってしまったとか」


「単純に食糧が枯渇したとかも考えられるがのぉ。まあ、なんにせよ森の調査はせねばなるまい」


 ふむふむ、魔獣がいっぱいいる森の調査か。

 絶対行きたくないね。


 話し合いの結果、迎撃班と調査班に分かれることになったらしい。


 迎撃班は、リュウ、ヨロイ、賢者。

 調査班は、ヴァンとジィさん。


「コウくんはとりあえず迎撃班にいようか。流石に森は危ないからね」


「そうだよね!」


 別に城に避難しても構わんのだよ?

 ……城にいたら、なんでお前だけここにいるんだ的な視線を受けそうだな。うん、ここにいよう。

 


「み、皆様!住民の城への避難は完了しました!」

 

 そう言って走ってきたのはマユルワナさん。

 わざわざお姫様が自ら伝えにきてくれたのか。


「あー、ありがとね姫さん。危ないから姫さんも城に戻ってね」


「いえ!皆様が戦ってくれている中、喚び出したわたくしが安全な場所にいるなど……」


「いや、邪魔だから戻ってね?」


 おお、鋭すぎるな賢者。

 マユルワナさん固まってるじゃないか。


「で、ですが……!」


「この時間も無駄だからね? 私たちのことを考えてくれるならすぐに戻ってねー」


 最早マユルワナさんの方を見てもいない。

 まあでも、言葉は辛辣だけど賢者の意見に賛成だな。足手まといはいない方がいいもんね。僕もだけどね。


「そ、そうですか……」


 ああ、マユルワナさんがしゅんとしてる。

 なんだよ、僕の方を見るなよ。


「それなら、コウ様も一緒に……」


 そうなるよねぇ。


「コウくんはやることがあるんだよね。ほら、帰った帰った」


 適当に真面目な顔して頷いておく。

 やることってなんだ?


「……わかりました。ここは皆様にお任せします!ご武運を!」


 そう言うと、パタパタと来た道を戻っていった。


「賢者って、マユルワナさんに冷たくない?」


「うーん、勝手にこんなところに召喚してきた相手を好意的にはみられないなぁ」


 確かに。それもそうか。

 なんで僕はそんなに嫌悪感を覚えてないんだろうね。


 そんなことを考えていると、すでに調査班のヴァンとジィさんの姿はなかった。いつの間に。


「それじゃあ、こちらも迎撃準備を整えようか。基本はヨロイくんが結界で誘導して、リュウくんが撃破で。私は全体のサポートをするからね」


「おうよ!」

[任せとけー]


 僕は?


「魔獣の数が多いから、後ろに漏らさないように気をつけてね。あと、森は極力傷つけないように」


 ああ、僕がやることはなさそうね。


「コウくんはヨロイくんの魔法をよく見といてね。あと、ヨロイくんから私たちに伝言があったら大声で伝えてほしい」


 おお、本当にやることあったのか。

 確かにパネルじゃ別のところにいる人には伝わらないもんね。


「りょーかいー」


 とりあえず、ヨロイの後ろにでも立ってようかな。一番安全そうな気もするし。


「がんばれよーヨロイー」


[がんばるぜー]


 その後、ヨロイは地面に向かって何やら書いたりしながら歩き回っていた。というか、森の境界ってかなり広いけど、どうやって守りきるんだろう。端から端までかなり距離があるんだが。


[飛行型はいないんだよねー?]


「ヴァンくんの報告だといないみたいだね。まあ、現れたら私とリュウくんがどうにかするから気にしなくていいよ」


[おーけー]


 なんかいいよなーこういう会話。

 なんというか強者感が出てるよね。


「……おい、来たぞ」


 先ほどから黙って目を瞑っていたリュウが、静かに言った。森の方に意識を向けると、確かにざわめいている。


「それじゃ、ヨロイくんよろしく」


[はいよー]


 そう言うと、ヨロイは前に進み出て両手を左右に広げた。おお、すごい。魔力が横に広がっていくのが感じ取れる。


[聖四晶障壁]


 ヨロイが腕に力を込めると、魔力が迸って地面から光の壁が立ち上った。高さは3メートルくらい? ただ、横にはめちゃくちゃ長い。というか、どこまで続いてるんだ?


「え、これもしかして島を分断してるの?」


[そうだよー。そうしないと魔獣がどっかから漏れるじゃない? まあ、その分強度はそれなりだけど]


 さらっと言っているが、これは凄いことではないのか? 魔法についての知識はないから、どれほどのことをしているかわからない。


「賢者ー、これって凄くないの?」


「少なくとも私にはできないねぇ」


 凄かったみたい。

 あのなんでもできそうな賢者ができないことを平然とやってのけるとは。


[照れるね]


 普段はかなり変な感じだが、やる時はやるようだ。まあ、流石は僕って感じ?


 現実逃避してたけど、僕でもわかるくらいに魔獣が近づいてくる音がしている。唸り声とか雄叫びみたいなのも聞こえてくるな。


 正直に言って、怖い。


 そして、その時がきた。

 森から、沢山の魔獣が飛びだしてくる。その姿は狼のように見えた。一様に目は赤く、大型犬よりも巨大で、なにより悍ましい気配を纏っていた。


「グルァァァァア!!!!」


 狼型の魔獣も僕らのことを見つけ、狙いを定めたかのように飛び掛かってきた。うわ、牙も爪も凶悪だ。


 全ての魔獣がヨロイの隔壁に阻まれている。

 うげぇ、真っ先に飛び出してきた魔獣が、続々と出てくる後続の魔獣に潰されている。いや、ちょっとこれはグロテスクすぎるな……。


「なんかこのまま勝手に自滅してくれそうかな?」


[うーん、流石にこの調子で押され続けたらちょっとキツそうかな。リュウくんよろしく!]


「任せろ!」


 みんな平気な顔してるなぁ。

 なんというか、場慣れしている。こんなことに慣れる人生って嫌だなぁ。


 リュウが翼を生やして飛び上がり、攻撃に移る。体内の魔力が高まっているのがわかった。


「龍閃」


 赤黒い光線が魔獣を薙ぎ払う。

 魔獣の悲鳴のような叫び、肉の焼ける嫌な匂い、飛び散る血飛沫。その破壊の光景は、ここが戦場だということを嫌でも実感させてきた。


 迎撃戦はまだ始まったばかり。


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