第20話 静かな共鳴
「未来のハーレム—多文化交流カフェ」の試験運営が始まって1カ月が経った。日々訪れる人の数は多くないが、少しずつ常連が増え、カフェは地域にとって新しい居場所になりつつあった。
カフェには「静かなつながりコーナー」も設けられ、賑やかに会話を楽しむスペースと、静かに本や展示に触れる空間が共存していた。その柔軟な形が、多様な人々を受け入れる拠点としての可能性を広げていた。
新しい訪問者
ある午後、カフェに一人の若い女性が訪れた。彼女は小柄で、少しおどおどした様子でカウンターに立った。
「すみません、ここって……何をする場所なんですか?」
彼女の質問に、沙也加は柔らかい笑顔で答えた。
「こんにちは。このカフェは、多文化交流をテーマにした自由な空間なんです。会話を楽しんでもいいし、静かに過ごしてもらうこともできます」
「そうなんですね……」
彼女は少し迷うように周りを見渡した。
「よかったら、あちらの静かなコーナーでゆっくりしていってください。本や展示物を自由に見ていただけますよ」
女性は静かなコーナーに向かい、展示されていた「つながりの地図」に目を留めた。少しずつ興味が湧いてきたのか、本を手に取り椅子に座った。
静かなつながり
その女性が展示を見ながら過ごしている間、沙也加は彼女を気にかけつつ、他の来客への対応を続けていた。1時間ほど経った頃、彼女がカウンターに戻ってきた。
「この地図、すごく面白いですね。みんなの考えや気持ちが見える形になっていて……こんな風に自分の気持ちを共有するのは、なんだか安心します」
「ありがとうございます。これは、私たちのワークショップで参加者の皆さんが一緒に作ったものなんです。違う価値観や考え方が繋がって、こういう形になるのを見ていると、本当に素敵ですよね」
女性は少しだけ微笑みを見せた。
「私、あんまり人と話すのが得意じゃないんです。でも、こうやって静かに感じ取れる場所があるのはすごくありがたいです」
「ここは、話すのが好きな人も、静かに過ごしたい人も、どちらも大歓迎ですよ。自分のペースで楽しんでくださいね」
その言葉に、彼女は少しほっとした表情を浮かべた。
小さな共鳴
閉店間際、彼女は再びカウンターに来て、そっと言った。
「今日は来てよかったです。私、こういう場所がもっと増えたらいいのになって思いました。実は、最近職場で人間関係に疲れちゃってて……でも、ここに来て少し気が楽になった気がします」
沙也加は彼女に向かって静かに微笑んだ。
「そう言っていただけて嬉しいです。この場所が、少しでもそういう安心感を作れるなら、私たちにとってそれが一番の目標です」
女性は「また来ますね」と言い残して去っていった。その後ろ姿を見送りながら、沙也加は胸に温かな感情が広がるのを感じた。
メンバーとの振り返り
その夜、沙也加はメンバーたちとカフェの1カ月を振り返るミーティングを行った。
「今日は新しい方が来てくれて、その人にとってこの場所が少しでも安心できる場所になったみたいで、本当に嬉しかった」
沙也加が話すと、美奈が頷いた。
「静かなコーナーができてから、そういう人たちが少しずつ増えてきてるよね。この空間が、いろんな形で人を受け入れられるようになってきた気がする」
「でも、これからもっと広げるには、やっぱり運営の安定が必要だよね」
拓哉が現実的な問題を口にした。
「そうだね。クラウドファンディングや、地元企業の協賛をもう一度検討しないと。何より、この場所を続けることが最優先だから」
沙也加の声には、次のステップに向けた強い決意が込められていた。
手帳に記された言葉
その夜、沙也加は手帳にこう記した。
「未来のハーレムは、静かな共鳴を生む場所。ここで感じた安心感が、訪れる人たちにとって新たなつながりの種になると信じている」
小さな空間から広がる未来のハーレム。物語は、さらなる挑戦と希望を胸に続いていく──。
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