第19話 揺れるカフェの灯

試験オープンした「未来のハーレム—多文化交流カフェ」は、少しずつ地域の人々に受け入れられ始めていた。商店街の一角に設けられたこの小さな空間は、対話とつながりを求める人々が集う場所となりつつあった。


しかし、活動が軌道に乗る兆しを見せる一方で、運営の課題や新たな壁が見え始めていた。


期待と不安の中で


試験オープンから一週間後、カフェには常連となりつつある顔ぶれが増えた。


「先週も来たんですけど、ここで話をするのが楽しくて。普段は忙しくてこんな場所ないから、すごくありがたいです」

30代の女性が笑顔で語る。


「なんか不思議な空間だな。仕事帰りにふらっと寄れる場所があるって、いいもんだね」

商店街の八百屋を営む男性も、コーヒー片手に笑っていた。


しかし、参加者が少しずつ増える一方で、沙也加たちは運営の課題に直面していた。


資金と時間の壁


「資金が足りないんだよね……」

ミーティングで拓哉が重い口を開く。「最初は少ない予算で始められたけど、このペースで続けるなら、もっと安定した収益源を確保しないと難しい」


「クラウドファンディングとか考えられないかな?」

ラミーが提案する。


「それもありだね。でも、カフェ自体が収益を生む仕組みを作るのも大事だと思う。たとえば、イベントごとに参加費を設定するとか……」

拓哉の言葉に、沙也加は少し考え込んだ。


「でも、それで来にくくなる人が出てきたらどうしよう。この場所は誰でも自由に来られる空間でありたいから……」


美奈が静かに言葉を継ぐ。

「理想を守りながら持続可能な形にするのは、確かに難しいね。でも、だからこそ考え続けなきゃいけないんだと思う」


参加者からの提案


その日の夕方、一人の参加者が沙也加に声をかけた。


「いつもありがとうございます。このカフェ、本当に素敵な場所ですね。でも、少し気になったことがあって……」


「どうぞ、何でも言ってください」

沙也加は少し緊張しながら答えた。


「ここって、話すことが苦手な人には少しハードルが高いかもしれないですね。私はおしゃべり好きだからいいんですけど、静かに過ごしたい人もいるんじゃないかなと思って」


その言葉に、沙也加はハッとした。これまで「対話」を中心に据えてきた活動が、知らず知らずのうちに一部の人には窮屈なものになっていたのかもしれない。


新たな試み


ミーティングで、その意見をメンバーたちに共有すると、新しい提案が次々と出された。


「じゃあ、静かに過ごせるスペースも作るのはどうかな?たとえば、本や資料を置いて、そこから多文化や対話について知ってもらえるようにするの」

美奈が言うと、ウィリアムが続けた。


「いいね。それなら、自分のペースで楽しめる人も増えると思う。静かな空間と、対話する空間を分けるのも一つの方法だね」


「それに、イベントを開くときも、テーマをもっと柔軟にするべきかもしれない。対話に限らず、アートや音楽、料理など、いろんな切り口で多様性を体験できるように」

ラミーの提案に、沙也加は嬉しそうに頷いた。


進化するカフェ


翌週、カフェには「静かなつながりコーナー」が設置された。そこには、多文化や多様性に関する書籍や写真、参加者が過去に作成した「つながりの地図」の一部が展示された。


訪れる人々は、自分のペースで本をめくったり、展示を眺めたりしながら、それぞれの時間を過ごしていた。


「静かな空間があると、もっと気軽に立ち寄れるね」

一人の参加者がそう言い、笑顔を見せた。


手帳に記された言葉


その夜、沙也加はカフェでの一日を振り返りながら手帳にこう書いた。


「未来のハーレムは、対話だけでなく、静かなつながりも大切にする場所。一人一人が自分のペースで多様性に触れられる空間を作りたい」


カフェという小さな拠点から、未来のハーレムはさらに広がりを見せようとしていた。その道のりにはまだ多くの課題が待ち受けているが、沙也加の心には確かな希望が灯っていた。


物語は、新たな挑戦と共に続いていく──。

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