第13話 仲間の距離

オンラインワークショップが成功を重ね、「未来のハーレム計画」は着実に広がりを見せていた。しかし、活動が活発になるにつれて、メンバー間の関係にも変化が現れ始めていた。


小さなズレ


次のワークショップに向けたミーティングで、沙也加たちは新しいテーマについて話し合っていた。


「次は『共に創る文化』をテーマにしたいと思うんだけど、どうかな?」

沙也加が提案すると、美奈が少し考え込んだ表情で口を開いた。


「テーマ自体はいいと思う。でも、最近ちょっと企画の方向性が抽象的すぎる気がして……。もっと具体的な目標を決めたほうがいいんじゃないかな」


「具体的な目標?」

沙也加は眉をひそめる。


「例えば、ワークショップの成果を形に残すとか、何か見える結果を作ること。今は体験で終わっちゃってる気がするんだ」


その言葉に、他のメンバーも頷いた。特に、拓哉は現実的な視点を付け加えた。


「美奈の言う通りだと思う。継続していくには、スポンサーや協力者に見せられる具体的な成果が必要だと思うよ。もちろん今の活動は大事だけど、それだけじゃ資金的に厳しい状況が変わらない」


沙也加は内心焦りを感じながらも、反論できずにいた。活動の広がりを感じていた一方で、「見える成果」を求める声が増えていることに気づかされる。


ウィリアムの葛藤


ミーティングの後、ウィリアムが沙也加に声をかけた。


「沙也加、最近ちょっとみんな疲れてるように感じない?」


「疲れてる……?」

沙也加は驚いたように聞き返した。


「うん。活動が大きくなってきてるから、みんなそれぞれプレッシャーを感じてるんだと思うよ。特に拓哉と美奈は、成果を求められることに敏感だと思う」


「でも、それって悪いことなのかな?私たちが目指しているものを広めるためには、確かに具体的な成果も必要だよね」


「もちろん。でも、僕たちがやっていることの本質は、誰かと繋がり、違いを楽しむことじゃないかな。それを見失わないようにしたいんだ」


ウィリアムの言葉に、沙也加はハッとした。自分が目指していた「未来のハーレム」の本質とは何だったのか。それを忘れそうになっている自分に気づかされた。


小さな衝突


数日後、ワークショップの具体的な企画を詰めるミーティングで、意見の食い違いが浮き彫りになる。


「成果を見せるためには、参加者に何か作品を作ってもらう形がいいと思う。例えば、共に作る文化をテーマにしたアート作品とか」

美奈が提案すると、ラミーがすぐに口を挟んだ。


「それもいいけど、無理に成果を求めると、せっかくの自由な対話が制限されちゃうんじゃない?」


「でも、ただ話すだけじゃ意味が薄くならない?」

美奈の言葉に、ラミーは眉をひそめた。


「意味があるかどうかを決めるのは僕たちじゃないよ。対話そのものが価値を持つはずだろ?」


議論は平行線をたどり、沙也加はどう収めればいいのか分からずにいた。


夜の静寂の中で


その夜、沙也加は一人で手帳を開き、思考を整理しようとした。


「私たちは何を目指しているんだろう。成果を出すこと?それとも、対話を楽しむこと?どちらも大事だけど、バランスをどう取ればいいのか分からない」


沙也加は窓の外を見つめ、ふと感じた。活動が広がれば広がるほど、目指す理想と現実の間にあるギャップが大きくなっている。


仲間たちとの対話


翌日、沙也加はメンバー全員を呼び集め、率直に話を切り出した。


「最近、私たちの間に少しズレが生まれている気がする。成果を求めることと、本質を大事にすることのバランスが難しくて……私も正直、どう進めるべきか分からなくなってる」


メンバーたちは静かに耳を傾けた後、それぞれの気持ちを語り始めた。


「僕も、成果を出さなきゃって焦ってた。でも、ウィリアムの言う通り、本質を忘れるべきじゃないね」

拓哉がそう言うと、美奈も少し恥ずかしそうに続けた。


「私も、形に残るものがあればもっと意味があるって思ってた。でも、それが目的じゃないのかもしれない……」


ウィリアムは微笑みながら言った。

「僕たちが大事にしてるのは、違いを知り、共に楽しむこと。それが成果として見えなくても、必ず意味があると思うよ」


沙也加は彼らの言葉を聞きながら、改めて気づいた。「未来のハーレム計画」の本質は、結果ではなく、過程にあるということに。


手帳に刻まれた言葉


その夜、沙也加は手帳にこう書いた。


「違いを尊重し、対話を楽しむこと。それ自体が未来のハーレムの形。結果に囚われず、今この瞬間を大切にして進もう」


仲間たちとの距離は縮まり、活動は再び前向きなエネルギーを取り戻し始めた。未来のハーレムを作る旅は、まだ続いていく──。

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