第10話 批判と希望の間で
多文化フェスティバルの成功とともに、「未来のハーレム計画」は確実に注目を集め始めた。だが、SNSや掲示板での批判は沙也加の心に重くのしかかっていた。
絵里との再会
批判を受けた直後、沙也加は絵里とカフェで話すことにした。
「批判の声を見て、どうしても気になってしまって……」
沙也加はコーヒーを手に取りながら苦笑した。
「沙也加さん、それが気になるのは真剣に考えてるからよ。でもね、批判にばかり目を向けると、自分の本当にやりたいことが見えなくなるわよ」
絵里の言葉は穏やかで、沙也加の胸に少しずつ沁み込んでいった。
「でも、批判に耳を塞ぐわけにはいかないですよね。間違いを指摘されることだってあるし……」
「そうよ。だから、聞いて学ぶ。でも、それをすべて自分の中に抱え込む必要はないの。自分たちの信じてる方向性があるなら、それを見失わないで」
メンバーとのディスカッション
絵里との会話を経て、沙也加はメンバーたちに今回の批判について話すことを決めた。会議室に集まったメンバーたちは、それぞれの視点で意見を交わした。
「確かに、文化を押し付けているって感じる人もいるかもしれない。でも、僕たちは『違いを知ること』を目的にしてるんだから、その意図が伝わるように工夫するしかないと思う」(ウィリアム)
「そうだね。押し付けるつもりがなくても、相手がそう感じることもある。例えば、次のイベントではもっと双方向の形にしたらどうかな?」(拓哉)
「私も賛成。私たちが一方的に『教える』んじゃなくて、来場者の意見や体験を聞く場を作るとか」(美奈)
沙也加はメモを取りながら頷いた。
「なるほど。例えば、来場者が自分の文化や大切にしている価値観を語れる時間を設けるのもいいかもしれないね」
次回イベントの準備
新しい方向性が決まり、次回イベントは「双方向交流の場」をテーマに計画された。名前は 「私たちのハーレム—共に学ぶ空間」。以下のようなプログラムが考案された。
1. 「私の文化を紹介」セッション
• 来場者が自分の文化や価値観を語るオープンマイク形式。
2. 「異文化を体験」コーナー
• ウィリアムが提案したペアワーク形式で、互いの文化を紹介し合う活動。
3. 「未来のハーレムとは」ディスカッション
• メンバーと来場者が自由に意見を交わす座談会。
批判を受け止める場
イベント当日、沙也加はオープニングスピーチで率直に語った。
「最近、私たちの活動に対して『ただの自己満足じゃないか』という声を耳にしました。その意見に、正直ショックを受けました。でも、それと同時に、私たちがまだ十分に伝えきれていない部分があるのだと気づきました。だから今日は、皆さんと一緒にこの空間を作り上げていきたいと思っています」
その言葉に、集まった人々は真剣な表情で頷いた。
「私の文化を紹介」セッション
セッションでは、日本各地の伝統を語る人、海外からの留学生、さらには地元の商店街の店主まで、様々な人がマイクを握った。
「私は三味線を教えています。日本の伝統文化を守ることが私にとって大切です」
「私は中国から来ましたが、こちらで家族を持ちました。日本と中国の文化の違いに日々気づかされます」
「商店街の一員として、地元を大切にしています。でも、多文化交流って言葉にはまだ慣れていません。今日は勉強しに来ました」
一人一人の語る言葉に、沙也加は深い感動を覚えた。これは押し付けではなく、共有と学びの場になっている。そう確信できた瞬間だった。
イベントの終わりに
最後の座談会で、一人の来場者が手を挙げた。
「批判もあるかもしれないけど、こういう場があること自体がすごく貴重だと思います。私も、自分の考えを見つめ直すきっかけをもらいました」
その言葉に、沙也加は静かに笑顔を返した。
「ありがとうございます。この空間を一緒に作ってくれる皆さんがいるから、私たちも続けられるんです」
新たな希望の一歩
イベントが終わり、メンバーたちはそれぞれ達成感に満ちた表情を浮かべていた。
「今回のイベント、本当に意味のある時間だったと思う。来場者も積極的に参加してくれて、批判に対しても答えが見つかった気がする」(美奈)
「まだ完璧じゃないけど、一歩ずつ進んでる感じがするね」(拓哉)
沙也加は手帳にこう記した。
「未来のハーレム計画、第2章へ。これからも壁にぶつかりながら、共に歩む空間を作り続ける」
批判を受け止め、乗り越え、進む道のりは続く。未来のハーレムは、少しずつ形を変えながら、確かに人々の心を繋げ始めていた。
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