第11話 毛むくじゃらの救世主と、毛の中の虫
王国の城に滞在することになったワイ。毎日のようにエリザベート嬢に「妖精の証明」を求められ、頭を悩ませる日々を送っていた。
「毛むくじゃらの妖精様、今日は何をしてくださるの?」
エリザベート嬢は皮肉たっぷりの声でワイに話しかける。ワイはため息をつきながら、「毛むくじゃらの妖精」と呼ばれることにもすっかり慣れてしまっていた。
「なんや、今日も無茶振りしてくる気やな?」
「いいえ、今日はただ見せてほしいのです。妖精らしい奇跡を。」
「奇跡て…。それこそ無茶振りやんけ。」
適当にかわそうとしたが、周囲の貴族たちや侍女たちが期待に満ちた目を向けてくる。逃げ場がない。
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そんなワイの背中で、微妙な動きを感じたのはその時だった。
「…ん?なんか動いてる?」
毛を撫でてみると、細かい振動のような感触がある。
「まさか…!」
ワイは驚いて毛をまさぐり、中から小さな虫を摘み出した。
「おおっ!お前、生きとったんか!」
手のひらに乗った虫は、以前ワイの毛に住み着いていた、あの小さな生き物だった。黒光りする体が相変わらず元気そうだ。
「妖精様、その虫は何ですか?」
エリザベート嬢が眉をひそめながら尋ねてくる。
「これはな、ワイの毛に住んどる相棒みたいなもんや。」
「相棒…?虫ですか?」
「ああ、この虫はただの虫やない。ワイを助けてくれる頼もしい存在なんや。」
貴族たちがざわめく中、ワイは虫をそっと毛の中に戻した。
「よっしゃ、今日はお前の力を借りるで!」
虫が小さく羽を震わせた気がして、ワイは少しだけ心強さを感じた。
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その日の夜、城の廊下を歩いていると、背後から妙な気配を感じた。
「…誰かおるんか?」
振り返ると、暗がりの中に黒装束の影が見える。
「なんや、刺客か?」
慌てて構えたワイのもとに、数人の暗殺者が襲いかかってきた。
「やべっ!」
素早い動きについていけず、ワイはその場で転げ落ちるように避けた。だが、すぐに包囲される。
「妖精だか何だか知らんが、この国の混乱を招く存在は排除する。」
「おいおい、なんでワイがそんな目に遭わなあかんねん!」
必死で逃げようとしたその瞬間、ワイの毛がまた動き出した。
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「え…?」
虫が毛の中から飛び出し、目にも止まらぬ速さで暗殺者たちに向かっていく。
「なんやこいつ!?」
暗殺者たちが驚いて手を振り回すが、虫はするりと身をかわしながら彼らの間を飛び回る。そして、次の瞬間、薄いけれど刺すような光が空気を切った。
「痛っ!」
「目に入った!?」
虫が放った光の粉のようなものが、暗殺者たちを混乱させていた。
「こいつ、ただの虫ちゃうな!」
ワイは驚きながらも、混乱している隙に毛を伸ばして暗殺者たちの足元を絡め取った。
「これでどうや!」
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暗殺者たちが倒れ込んだところで、衛兵たちが駆けつけてきた。
「妖精様、大丈夫ですか!」
「なんとかな。」
ワイは毛の中に戻った虫を撫でながら言った。この虫、もしかしてただの相棒以上の力を持ってるんじゃないか?
「ふう…。ありがとうな、お前。」
虫は小さく羽を震わせて、ワイの毛の中に潜り込んだ。
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翌朝、暗殺者たちの取り調べが進む中、ワイは再び王様と対面していた。
「妖精よ、昨夜の件は感謝するぞ。暗殺者の計画を阻止したことで、国は救われた。」
「いえいえ、ワイだけやなく、この虫のおかげや。」
ワイは毛をかき分けて虫を見せた。
「…それは?」
「ワイの相棒や。この虫が輝く粉みたいなのを使って、暗殺者をやっつけたんや。」
「まさに妖精そのものだな!」
王様は大いに感心した様子でうなずいた。エリザベート嬢も仕方なく納得したように見える。
その後、王様が虫を見て目を丸くしながら言った。
「しかし、素晴らしいな。この虫、一体どこで見つけたのだ?」
「…まぁ、たまたまや。ちょっとした運やな。」
俺はごまかすように答える。だが、エリザベート嬢は少し考え込んだような表情を浮かべている。
「でも、どうしてそんな小さな虫があんな力を?」
「それは…その…ワイの毛に住んどるからこそ、みたいなもんや。」
「まさか、妖精の力…?」
「いやいや、ただの虫やってば!」
俺は焦りながら言い訳した。だが、王様や貴族たちは納得した様子で話を進めていく。
「やれやれ、これでまたひと騒動や。」
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ワイは虫に礼を言いながら、毛の中に潜ませた。この虫がいれば、どんな困難も乗り越えられる気がする。だが、果たしてこの先も平穏無事にいくのか…。
毛むくじゃらのワイ、森の妖精だと勘違いされる @BloodyBible
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