第10話 伴侶も嘘もいらない毛むくじゃら


「こちらはわしの娘、エリザベートだ。」


王様がそう紹介すると、広間の注目がワイとエリザベート嬢に集まった。長い金髪をなびかせて優雅に立つその姿は、まさに絵に描いたような王女。


「ほう…。」


思わず感心してしまったワイの前で、エリザベート嬢はじっとこちらを見つめている。だが、しばらくするとその顔がみるみる険しくなった。


「…お父様。」


「なんだ、エリザベート。」


「どうしてこの毛むくじゃらの人と結婚しなければならないのですか?」



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広間が一瞬で静まり返った。貴族たちは顔を見合わせ、王様は「ん?」と首を傾げている。


「そ、それはだな、この妖精様がわしを救ってくださったのだ。それほどの方ならば、我が娘を託すにふさわしい。」


「いえ、問題は毛です!見てください、この全身覆われた毛を!触ったらチクチクするかもしれません!」


「いやいや、チクチクはせんぞ。むしろふかふかや。」


思わず反論したワイだったが、エリザベート嬢の険しい視線は変わらない。


「ふかふかであろうと毛は毛です。私はそんな…もじゃもじゃの方と結婚するなんて考えられません!」


「おいおい、もじゃもじゃて…。ワイも別に結婚したいわけちゃうんやけど?」


「だったら、断ってください!」


「いや、そんなん言われても、王様が勝手に決めてもうたし…。」


「それは私も同じです!」



---


王様は娘とワイの言い争いを困惑した様子で見ていたが、しばらくすると咳払いをした。


「エリザベート、お前は何を言っているのだ。この妖精様は、この国を救った英雄だぞ。」


「英雄でも毛むくじゃらは無理です!」


「おいおい、ワイの毛をそんな悪みたいに言うなや。」


ワイは思わず自分の毛を撫でた。ふかふかの毛皮は、これまで村でも大好評だったのに、この王女だけは毛に対して異様な拒絶反応を見せているらしい。


「しかし、エリザベートよ、この結婚は国の未来にも関わることだ。」


「お父様、私には無理です。どうしても無理です。」


エリザベート嬢がきっぱりと言い放ったその瞬間、ワイはむしろホッとした。


「ええやん、別に無理して結婚せんでも。ワイも伴侶なんていらんし。」


「それでいいんです!」


「そうか、そうか…。なら、王様、これナシで。」


「お前たち…。」



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王様は二人の意思を受けてか、しばらく沈黙したが、やがてため息をついた。


「…まあ、そこまで言うなら仕方ない。エリザベートよ、わしの顔を立ててくれることを期待していたが…。」


「すみません、お父様。」


「妖精よ、お前は本当にそれでいいのか?」


「ええ、全然ええよ。むしろ助かったわ。」


こうして、この国の歴史に残るはずだった毛むくじゃらと王女の結婚話は、あっさりと幕を閉じた。



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しかし、問題はこれで終わらなかった。


「お父様、でもまだこの方が本当に妖精だとは信じていません。」


「…なんやて?」


「本物の妖精ならば、何か証拠を見せていただけませんか?」


「証拠て…。ワイはその、癒しの力を使えるで?」


「癒しの力なら、他の聖職者でも使えます。」


「なら、なんや?ワイに踊れとでも言うんか?」


「ええ、妖精らしいダンスを見せてください。」


「おいおい、無茶振りにもほどがあるやろ!」


周囲の貴族たちは興味津々な顔でワイを見ている。どうやら逃げられん状況になってもうたらしい。



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仕方なく、ワイはその場で毛を揺らしながら適当に体を動かしてみせた。


「どうや、これが妖精の舞や!」


「…ただの毛が揺れているだけでは?」


「そ、それは妖精の舞を人間が見たら、そう感じるだけなんや!」


適当な言い訳を口にするワイを見て、エリザベート嬢はさらに不審そうな顔をした。


「…やはり怪しいですね。お父様、この方をもう少し調査したほうがいいのでは?」


「おいおい、ちょっと待てや!」



---


結局、ワイは城内に滞在しながら「妖精である証明」を求められることになり、ますます嘘から抜け出せない状況に追い込まれてしまったのだった。


「はぁ…。なんでこうなるんや…。こんなことなら、素直に正体明かしとくべきやったわ。」


嘘をついた代償がどんどん膨らんでいく。毛むくじゃらの救世主としてのワイの試練は、まだまだ続きそうや。

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