第9話 毛むくじゃらの救世主(仮)
巨大な城壁が目の前にそびえ立つ。その高さに圧倒されながら、ワイは足を進めた。
「なんや、えらい立派な城壁やな…。これ、どうやって中入ったらええんや?」
門は重厚な鉄製で、目の前には頑強そうな門番が二人立っている。槍を握った門番たちは、ワイが近づくとジロジロとこちらを見てきた。
「おいおい、なんやその目つき…。ワイ、別に怪しいもんちゃうぞ?」
でも、今のワイの見た目は全身毛むくじゃら。どう考えても普通やない。自分でも怪しいってわかるわ。
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門番の一人が槍を構えた。
「そこの毛むくじゃら!何者だ!?名を名乗れ!」
「お、おいおい、そんな槍向けんでもええやろ。ワイはただの旅人や、タスたけっちゅうもんやけど…。」
「旅人?その見た目でか?怪しいな…魔物の変装かもしれん!」
「ちょ、待てや!なんでそうなるねん!ワイは人間や!」
門番たちは疑いの目を向けたまま、さらに槍を突きつけてくる。どうやら話しても簡単には信じてもらえへんらしい。
「くっそ…しゃーない、こうなったら。」
ワイは慌てて頭を働かせた。そして、思わず口から出た言葉は自分でも予想外のものやった。
「…実はな、ワイ、森の妖精なんや。」
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門番たちは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに険しい表情に戻った。
「妖精だと?その毛むくじゃらでか?ふざけるな!」
「いや、ほんまや!見た目はちょっとアレやけど、ワイは森を守る妖精や!」
「ならば証拠を見せろ!妖精だと言うなら、何か特別な力を使ってみせろ!」
「え、特別な力って…」
焦るワイ。特別な力なんてないけど、ここで引き下がったら槍で突かれる可能性大や。
「…しゃーない、これでええか?」
ワイは自分の毛を握りしめ、思いっきり振り回した。すると、周囲に風のような音が響き、毛が光を反射してキラキラと輝いた。
「ほら!これがワイの力や!妖精の毛は癒しの力も持っとるんやで!」
門番たちは唖然とした表情でワイを見つめていた。どうやら信じかけてる。
「さらに言うとな、この国に危機が迫っとるらしいやん?ワイ、その危機を救いに来たんや。」
「…な、なんだと!?この国の危機を知っているのか!?」
「せや。森の妖精として、この世界の平和を守る使命を持っとるんや。だから、ワイを中に入れてくれ。」
「そ、そうか…ならば協力を仰ぐべきかもしれない。」
門番たちは顔を見合わせると、慎重に門を開け始めた。
城壁の中に足を踏み入れた瞬間、ワイはホッと息をついた。どうにかバレずに済んだみたいや。
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「…いや、ほんまギリギリやったわ。嘘も方便ってやつやな。」
しかし、中に入った途端に周囲の人々がざわめき始めた。ワイの全身毛むくじゃらの姿が、どう見ても普通の人間には見えへんらしい。
「見て!あれが噂の森の妖精…?」
「すごい毛の量だわ!まさに伝説の妖精ね!」
なんか知らんけど、えらい注目浴びとるやん。
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突然、城の中から偉そうな感じの男が現れた。見るからにこの国の高官っぽい。
「そこの者!お前が森の妖精だというのは本当か!?」
「え、ええ、まぁ…そうやけど。」
「ならば頼む!我々の王が重い病に倒れておられる!妖精の力で癒せるのなら、今すぐ助けてくれ!」
「……は?」
さすがにそこまで話が膨らむとは思ってなかった。
「いや、その…ワイは癒しの力を持っとるけど、その病がどんなもんかによるっちゅうか…。」
「何を言っている!妖精の力は万能だと聞いているぞ!」
「ちょ、ちょっと待てや!ワイ、まだ準備が…」
しかし、聞く耳を持たん高官たちはワイをそのまま城の中へ引きずり込んでいった。
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豪華絢爛な城内に放り込まれ、目の前には横たわる王様らしき人物がいた。周囲には貴族っぽい連中が並び、期待の眼差しをワイに向けている。
「さあ、森の妖精よ!王を癒してくれ!」
「え、ええ…。」
困ったワイはとりあえず王様の横に近づき、自分の毛をそっと近づけた。
「よし…これでいけるやろ…。」
毛を振りかざして王様に触れると、周囲が一斉に静まり返った。
「……。」
「……。」
「…どうや?」
王様はぴくりとも動かへん。すると、貴族たちがざわつき始めた。
「これは…本当に妖精なのか?」
「偽物ではないのか?」
「ちょ、ちょっと待てや!妖精の力って、たまには時間かかるもんやで!」
場の空気がどんどん悪化していく。ワイは心の中で必死に祈った。
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その時、王様が突然くしゃみをした。
「…ふぇっくしょん!」
「…お?」
王様は目を開けて起き上がり、周囲を見回した。
「わしは…どうしてここに?」
貴族たちは驚愕の表情でワイを見た。
「すごい!本当に森の妖精の力だ!」
「王が癒されたぞ!」
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ワイは心の中でホッと胸をなでおろした。
「いやー…何とかなったわ。でも、この嘘、もう後戻りできへんな。」
こうして、ワイは毛むくじゃらの「森の妖精」として、この王国で知られることになってもうた。嘘は膨らむ一方やけど、果たしてどうなるんやろか…。
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