第8話 自由を求めて村を出る朝


朝の静けさはいつも以上に澄んでいた。鳥のさえずりも心なしか穏やかで、村全体がまだ眠りについているような気がした。


ワイは薄暗い部屋で、毛で作ったたリュックを背負い、最後に周囲を見渡す。村人たちが手伝ってくれた小さな家――ワイの居場所やった。けど、この居場所が重荷になっていたことも否定できへん。


「…ほな、行くか。」


つぶやく声は誰にも届かんし、誰にも届かせるつもりもなかった。そっと扉を開け、冷たい朝の風がワイを包む。ワイはこの村を離れることを決めたのだ。



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村を離れて数時間、ワイは森の中を進んでいた。地図なんて持っとらんから、足の向くまま、気の向くままや。静かな森の中、風の音と小鳥のさえずりが心地ええ。


「ええ感じやな、こういう静かな環境。」


ふと、足元に何かが絡む感触がした。見下ろすと、足元に絡まったツタに続いて、目の前に巨大な魔物――ゴツゴツした甲殻を持つクモみたいなやつが現れた。


「お、おいおい、なんでこんなとこで出会うねん!?」


急いで逃げようとするも、ワイの全身の毛がそのツタみたいな糸に絡まった。なんでや、毛が多すぎるんか?


「ちょ、ちょっと待てや!毛ごと引っ張るんは反則やろ!」


ワイがもがく間もなく、その魔物がワイを引きずり始めた。まるで人形か何かみたいや。地面をゴロゴロ転がされながら、ワイは叫んだ。


「誰か助けてくれー!…いや、ここには誰もおらんねんやった。」


引きずられる速度がどんどん速くなる。地面に擦れた毛がチリチリ音を立ててる気がするし、ワイはもう諦めモードやった。



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どれくらい引きずられたかわからんが、気がつけば森の奥深く、見たこともない場所に到着していた。そこには魔物の巣があり、何匹もの魔物がこちらをじろじろ見ている。


「…やばい。完全に詰んだやろ、これ。」


魔物たちは興味津々に近づいてくる。ワイの毛をクンクン嗅いだり、ツンツンつついたり。


「おいおい!毛は見るもんやなくて、役に立つもんやぞ!…いや、ワイが言うことちゃうけど。」


すると、ワイを引きずってきた魔物が突然くしゃみをした。ワイの毛がその顔に張り付いて、慌てて後ずさりする。


「ははっ!なんや、ワイの毛がアレルギー起こしとるんか?」


この隙を逃すまいと、ワイは毛を思いっきり振り回し、魔物の足元に絡ませて転ばせた。そして猛ダッシュでその場を離れる。



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しばらく走った後、ようやく安全そうな場所にたどり着く。木の陰で息を整えながら、ワイはふと思った。


「ほんま、毛が便利なんか不便なんかわからんわ。」


気づけば毛にはあちこちに引っかかった枯れ葉や小枝が絡みついている。


「次から毛の手入れも考えなあかんな…。いや、でもこれがワイやしな。」


日が暮れかける頃、俺はようやく森の出口らしき場所にたどり着いた。目の前には広大な草原が広がり、その先には巨大な城壁が見えた。


「なんやあれ…城壁?なんか王国っぽい雰囲気やんけ。」


その城壁は夕日に照らされて黄金色に輝き、遠くからでもその圧倒的な存在感を感じさせた。


「ははっ、ワイもしかしてええとこ来たんちゃうか?」


期待と不安が入り混じる中、ワイは足を進める。新しい冒険が待っているかもしれへん。その先で俺が何を見つけるか、それはまだ誰にもわからん。

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