第2話 毛むくじゃらの力、試される

村は歓声に包まれていた。金色に輝くワイの毛を見た小人たちは、口々に「妖精様、万歳!」と叫んでいる。


「……ちょっと待て、どういうことやこれ。」

ワイは自分の腕を見下ろした。毛はすっかり輝きを失い、元のフサフサな状態に戻っている。


「妖精様!」

誰かが声をかけてきた。振り向くと、年老いた小人が杖をついて立っていた。


「……お爺ちゃん?」

「妖精様、その毛はやはり神の加護なのですね。どうか、村をお守りください!」


「いや、ワイ、妖精やないって何回言わせるんや……」

ため息をつきつつ、先ほどの光景を思い返す。輝いた毛、狼を跳ね返した力――確かに普通じゃない。



---


村人たちに囲まれるまま、ワイは村の中心部へと連れて行かれた。そこには祭壇のようなものがあり、中央に古びた石碑が立っている。


「これは?」

「森を守護する神獣の伝承が刻まれた石碑です。」

先ほどの老小人が語り始めた。


「この村を襲う魔物から私たちを守るため、森の妖精が現れると伝えられていました。妖精様は、黄金の毛並みを持つ存在……あなたこそ、その方です!」


「いやいや、勘違いやて。ワイ、ただのなんJ民やで?」

「なんJ民?」

小人たちは首を傾げた。


「ええから。とにかく、ワイの毛が光ったのは確かやけど、それがどうしてかは知らんのや。」



---


しばらく説明を試みたが、彼らは全く聞き入れない。結局、「妖精様」として一旦話を合わせることにした。


「で、次は何をすればええんや?」

「妖精様、今後も村をお守りいただきたいのです。ここには、森の魔物たちが頻繁に襲来します。」


「勘弁してくれよ……ワイ、戦うとか無理や。」


そんなことを言っていると、また遠くから緊迫した声が聞こえてきた。


「魔物が来たぞ!」



---


先ほどの狼とは違う。今度は巨大なイノシシのような魔物だ。長い牙を振り回し、村の家々を次々に破壊している。


「妖精様、どうかお力を!」


小人たちは一斉にワイに懇願してくる。正直、逃げたい気持ちしかないが、彼らの必死な表情を見ると、放っておけなかった。


「……しゃあないな。ワイがやったるわ。」



---


イノシシに近づくと、全身の毛が再びじんわりと熱を帯び始めた。


「こいつ、また光りそうやな……!」


イノシシが突進してくる。その瞬間、ワイの毛が一気に逆立ち、鋼のように硬くなった。


「おおっ……!」

硬化した毛はイノシシの牙を受け止め、その衝撃を完全に遮断した。


「ふざけるなや、このデカブツ……!」

イノシシが怯んだ隙に、ワイは思い切り右腕を振り下ろす。毛が刃のように鋭くなり、イノシシの側面を切り裂いた。


「ワイの毛、こんなもんまでできるんか……!」



---


イノシシは怯えた様子で森へと逃げていった。村人たちは再び歓声を上げ、ワイの周りに集まる。


「妖精様、ありがとうございます!」

「さすがは森の守護者……!」


「いや、ワイは……」

何か言おうとしたが、疲労が一気に押し寄せてきた。


「……ちょっと寝かせてくれや。」

その場で倒れ込むように横になると、意識が途切れた。



---


翌日


目を覚ますと、柔らかい布団に包まれていた。見回すと、昨日の老小人がそばに座っている。


「お目覚めですか、妖精様。」


「……だから妖精やない言うてるやろ。」


老小人は微笑んだが、言葉はそのまま無視された。


「妖精様のお力には、まだ未知の部分が多いようです。村の者たちが、研究のために協力したいと申し出ています。」


「研究って……?」


話を聞くと、どうやらワイの毛にはいくつかの性質があるらしい。


硬化することで防御や攻撃に使える


金色に輝くことで癒しの効果を発揮する


一部を分け与えると、魔物を避ける「結界」を張れる



「そんなスーパーパワー、聞いたことないわ!」


「これも神獣の力の一端でしょう。」


ワイは頭を抱えた。この異世界では、毛むくじゃらがチート能力と化しているらしい。



---


村人たちの期待を受け、ワイは渋々彼らの「守護者」としての役割を受け入れることになった。


「……なんでこうなったんや。」


そんなぼやきが、森の風に吸い込まれていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る