1ー8 探索開始

セントの合図を聞いてマンリー達は声を上げてゲート部屋を飛び出した。

それに続けとばかりに二人組の男も出ていく。


「お前らも早く行け4時間なんてあっという間だ。それにゲート付近のモンスターを狩り尽くされると探すのに大変だぞ」


新たにピシークを加えた三人はパーティーでの役割を確認していた。


「盾役のクオウが前衛で魔法が使えるピシークは後衛だ。俺が真ん中でどちらにも加勢ができる様にしておく。ちなみに、ピシークさんの使える魔法って?」


「私は闇魔法が使えて、この体になって精霊術を覚えたわ」


「闇魔法ですか?確かエルフは光魔法、草魔法、回復魔法が得意だったはず・・・」


「別にいいんじゃないか、周りと得意な事が違うのは普通だと思うよ。魔法が使えるだけで凄いじゃないか」


「ゾム・・・あなた」


「エルフに闇魔法なんてギャップ萌えが過ぎる」


「そ・そうですかね?」


「ゾム・・・あなた、カッコいいと思ったらとても・・・残念ね」


「早くせんかー。お前らが探索を開始しないとワシもここから動けんだろうが」


一通りの打ち合わせが終わりゾム達のパーティーは部屋を出て探索を始めた。

ゲート部屋は草木の生い茂る林の中にあり、正面には獣道が三方向に伸びていた。


「クオウ、左側の道を行こう」


ゾムが先頭のクオウに伝える。


「なぜ左なのですか?」


「間違いなくマンリー達は真ん中の道を行ったはず、続いて出て行った二人組が切りつけたと思う傷があの木に付いている。だから左の道なら前の二組がいないと思うんだ」


右の木を指差しながらゾムが話す。


「確かに、マンリーなら真っ直ぐ進む以外は選ばなそうですね」


「でも、あの木の傷を付けたのがマンリーという奴かもしれないじゃない」


ゾムの意見にクオウは納得したが、ピシークが反論する。


「それは無い、マンリーの持っている剣は炎の魔剣だ。もし魔剣で斬ったなら、こんな跡にはならないだろう」


「「魔剣?」」


三人は話しながら左の道を進んでいく。


「そうだ、魔剣"イブリース"・・・刀身は炎を纏い斬られると炎のダメージも追加される。神のギフトを装備している」


話をしながらも周囲を警戒しゆっくりと進んで行く。

前方に草が生え揃った広場があり近づくとモンスターが2匹こちらを向いて唸り声を上げている。


ワフゥゥゥ〜  ワフゥゥゥ〜 ワフッ


「あれってオオカミじゃないか?」


「あれはワイルドウルフですね。普段は群れで行動しいますが、今は数が少ないです。初戦の相手には丁度いいでしょう」


ワイルドウルフは狼型のモンスターで体躯はライオンぐらいあり、動きが素早い。

牙による噛みつきや鋭い爪での攻撃が多く、時折遠吠えで仲間を呼ぶ。


クオウが広場に入るとワイルドウルフは勢いよく突進してきた。


ワッフォーォー ワフッ


「一匹目は私が食い止めますので、もう一匹は二人に任せます」


「よし、任せとけ」


(カッコつけて任せろなんて言ったが、なんか速くない?近づくとデケェし・・・)


ワイルドウルフは飛び上がり大口を開けて突っ込むがクオウは大盾で受け止めて盾技を繰り出す。


"シールド・インパクト"


ワッッフォ〜 ワブッ


ワイルドウルフはクオウの反撃を受け吹き飛び、大木に激突し動かなくなった。

二匹目は真っ直ぐゾムの方へ突進してきたので短剣を構えたゾムは突進を躱しながら短剣を振るうが躱されてしまう。


(動きながらだと攻撃を当てるのが難しい、何より動きが速くて合わせられない)


ゾムがワイルドウルフの動きに驚いている間に、ワイルドウルフは狙いを変えてピシークに向かって行く。


「あっ、待てよ。まだ俺が戦っている最中だろ」


ゾムが慌ててワイルドウルフを追いかけるが間に合わない。

突進先にいるピシークは目を閉じて胸に両手を抱え何かを呟いている。


――宵に産まれ此れに這いずる屑使途の、憂懼の深導に包まれ朽ちよ、"死の抱擁デス・エンブレイス"――


ピシークが両腕を前方に広げて闇魔法を放と前方に漆黒の渦が現れる。

ワイルドウルフが気にせず突進するが通過する瞬間、モヤの中から真っ黒い腕が現れてワイルドウルフを抱きかかえた。


「うわっ何だあれ?」


ワフッワフッワブ〜


ワイルドウルフはもがき続けるが抱えている腕はびくともしない。

そのまま真っ黒い腕はワイルドウルフを抱えたまま渦の中に消えていった。


カラン!!


ワイルドウルフが消え去り、代わりに青い石が転がった。


「二人とも強いな、初めてのダンジョンなのにモンスター相手に全く気後れしないんだな」


クオウが大木の所で青い石を拾いながら答える


「街の外でモンスターぐらい見た事はありますし、兄にモンスターとの戦い方などは教わっています」


「エルフの里の周囲にもモンスターはいるから見慣れてるわ」


(この世界ではモンスターを見かける事は当たり前みたいだ。俺も早く慣れてビビらない様にしなければ・・・)


「ピシークさんのアレが闇魔法でいいんだよな?」


「そうよ。さっきの闇魔法は死の抱擁デス・エンブレイス対象者を冥界に送り込む、捕まったら最後の即死魔法よ」


「マジか・・・初めて見た魔法が即死魔法って・・・想像の何十倍も恐ろしいな」


「初めて見たって?貴方もしかして・・・まっいいわ。それとピシーでいいわ。私も呼び捨てで呼ぶから」


「「了解」」


三人は探索を再開するために集まってドロップした物を確認する。


「ワイルドウルフを倒してドロップした石は魔石でいいんだよな?」


「これですよね、魔石の小さいのが二つです」


ゾムは小さな青色の魔石を手に取り覗き込んだ。


「やはりこれが魔石か・・・コレが俺達の今後の稼ぎの元になるんだな」


「やはりと言いましたね。魔石をどこかで見たことがあるのですか?」


「この街に来る前にスライムの群れに出くわして全部倒したらドロップしたんだ。色が少し違うけど大きさや形は同じだから」


「スライムって倒すの大変なのよね、それが群れで現れたらゾッとするわね。ゾムはよく倒せたわね」


「マンリーと二人だったし、楽に倒せる武器もあったしね」


「ゾム、君は短剣以外も扱うのですか?」


「イヤ、あの時は武器がなかったからこの鞄から出した石をぶつけて倒したんだよ」


「スライムの核に石を当てて倒したの?いくらスライムの動きが遅くてもそんな倒し方している人なんていないわよ」


「まぁ、詳しくは今度話すよ。そろそろ探索を再開しよう」


ゾムは魔石を返して移動を始めた。

周囲を警戒しながら進んでいくと今度は一本の大樹がどっしりと構えた広場に出た。

よく見ると大樹の根元にモンスターが眠っている。


「大きいな、あれは何だ?」


ゾムが独り言のように呟いた。


「多分、サベイジボアよ。突進力が強力だから気を付けて」


ピシークが注意を促すとゾムは頷き一歩前に出る。

サベイジボアは2メートルは超える体躯で口元には大きな牙がある猪型のモンスターだ。


「よし、今度は俺の番だ」


ゾムは短剣を構えて走り出す。


「おりゃ〜」


飛び上がりサベイジボアの背中に短剣を突き刺す。


ボッフォアッ


ボアは一吠えすると起き上がり体を大きく振るった。

耐えきれずに吹き飛ばされたゾムが起き上がるとボアが睨みつけて後ろ足を蹴り上げ突進の姿勢になる。


ボッフォアァァァー!!


ボがは鼻息を上げ勢いよく突進するが、クオウがゾムの前に割って入り受け止めた。


「クオウ、大丈夫か?」


「僕は平気です。ゾム、まだヤレますか?」


「あぁ、まだイケる。たけどこいつの皮が硬くて刃が通らない」


「ボア系は腹が柔らかいので、僕の攻撃で隙を作ります、その間に」


「よし」


「ウォリャーァァァ」


クオウがサベイジボアの顎下に大盾を押込み上へ力を逃すとサベイジボアの前足が浮き上がった。


「よし今です、ゾム」


ゾムが短剣で突くが、勢い余って手を滑らせてしまった。


ボッフォー、ボッボッ


「ダメだまだ浅い」


――常世の地にて死を招き、現世よ厭きしら顕れ廻れ"闇の大鎌デスサイズ"――


ゾムの攻撃を受けて瀕死のサベイジボアにピシークが闇魔法を発動する。

今度はボアの頭上に漆黒の渦が現れる。

渦から現れた大きな鎌が回転しながらボアに降り注ぎ、胴体を真っ二つにした。


ボッファ〜〜


ボアが倒れた後には赤い魔石と肉の塊がドロップし、ボアの腹に刺さっていた短剣も地面に転がる。


「怪我はないかしら?」


ピシークが二人に問いかける。


「ありがとう、ナイスタイミングです」


クオウが盾を背中に背負いながら答える。


「あぁ、大丈夫だ。手助け無しでもあと一撃でやれたのに」


ゾムは悔しそうな顔で服を整え短剣を拾った。


ピシークはドロップ品のボアの肉を拾い微笑む。


「それなら良かったわ。やったーラッキーね、このボアの肉は脂がのってジューシーで最高なのよね」


「モンスターの肉もこんな風にドロップするのか?」


「他のモンスターも部位がドロップする事は多いです。大体は武具やアイテムの素材ですが、食材がドロップする事もありますね」


「ボアの肉は焼いても煮ても美味しいから大好きなの、帰ったら三人で分けましょうよ」


「そうしよう、こっちの世界で初めての食材だ。どんな料理になるのか楽しみだな」


ゾムとピシークがボアの肉で盛り上がっている間にクオウが大樹の方へ歩いて行く。


「おっと、お目当ての宝箱があるじゃないですか」

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ジョブ・モンスター モグモグロン @954003248

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