1-4 講習を受講します

「初めまして、講習の座学を受け持つルイス・キール・カージナルです。よろしくお願いします。」


講師のルイスは挨拶をしながら手元にある書類を受講者に回していく。


講習はギルドの役割についてから始まった。

ギルドは所在するダンジョンの管理、周辺地区の治安の維持や様々な依頼の仲介やなど多岐に渡る。

ギルドに所属するフィアレスは実績や貢献度に応じてランクを与えられ、高ランクのフィアレスは受注できる依頼の難易度も高い。


「次はフィアレスの義務についてです」


ルイスが書類の第二項目の説明を始めた。

フィアレスは所属する都市の治安の維持に貢献する義務がある。

街や周辺地域の野良モンスターや盗賊の討伐、犯罪等の発生の防止などの依頼を受け街を護らなければならない。

ダンジョンを攻略するのも仕事の一つである。


「ダンジョン探索時に獲得した物は貴方達の所有物になります。ドロップ品で多い魔石は個人では使い道がないので、ギルドが資源エネルギーとして買い取ります。魔石以外のドロップ品やアイテムなどの所有権はフィアレスが持ちます。まぁ、必要ない物はギルドでも買い取りますので気軽に言って下さい。また、フィアレスはランクに応じて税も納めなければならないので忘れないで下さい」


ルイスがフィアレスの収入や税の説明をしていると


「あ〜あ、この世界でも税金なんてあるのか?」


「そうですね、この街の行政やギルドの為と思って納めて下さい。納めないと取立てや逮捕、街外追放など様々な罰があるので素直に収める事をお勧めします」


講義も最後になり職業ジョブの説明が始まった。


「最後の講習は職業ジョブについてです。初めてダンジョンに入った者は職業ジョブに就きます。職業ジョブに就くと職種に応じて能力が向上し特殊なスキルを獲得する事もあります。職業ジョブには戦闘向きの戦士職や魔法職、探索時に力を発揮したり戦闘を支援するサポート職もあります。また、特に恩恵の無い一般職はフィアレス向きではないですね。どの職業ジョブに就くかによって今後、貴方達の成長具合が変わってくると言っても過言ではないでしょう。そしてごく稀に職業モンスターになる者もいます」


二人組の男の一人が手を挙げた。


「はい、コンコンス君」


「職業モンスターって姿形がモンスターになって人間には戻れないと言うのは本当ですか?」


「そんな事はありません。職業がモンスターなのでダンジョンの中にいる時はモンスターの姿で、ダンジョンを出れば元の姿に戻ります」


ルイスが答えると直ぐに次の質問が来て皆が好き勝手に噂で聞いた話を口走る。


「遺伝でしょ?確か身内に職業モンスターがいると成りやすいって話ですよね?」


「それならマキュも亜人種は成りやすいって聞いたことがある」


マーキュリーはチラッと右奥の女性を見た。


「俺なんて信仰心の無い悪子はモンスターになるぞって親に脅かされたよ」


噂などで盛り上がる講習者を見てルイスは大きな声を上げた。


「ハイハイ、皆さん真面目に聞いて下さい。皆さんが言うような遺伝や信仰、ましてや他種族の差別的な要素でモンスターになる事はありません。何故、職業モンスターになるのかは解明できてないですが、出現確率も0.1%、約1000人に一人現れるかどうかです。昔から職業モンスターは卑下される風潮がありますが、成長したら職業モンスターの方が戦闘能力が高くなると帝国の方では言われています。皆さんはもし仲間内から職業モンスターが発現したりダンジョンの中で見かけても偏見無く接して下さい。見た目以外は同じですので」


職業モンスターについての説明は終わったが受講者達は自分は関係ないという雰囲気でルイスの言葉を真剣には聞かず笑っている者もいた。


ゴーン! ゴーン! ゴーン!

鐘が3回鳴った、昼休憩の時間になる。

座学が終わり用紙を回収しながらルイスは午後の予定を伝えた。


「実技講習は午後の鐘がなったら始めます。皆さん装備を整えて東門のダンジョン施設前に集合して下さい」


食事や実技の準備のために一時解散となった。


「マンリーさん昼休憩はどう過ごしますか?この後、宿屋を決めてから道具を揃えようと思うんだけど・・・」


ゾムは昼のうちに宿を確保しておくつもりだ。


「あぁ、俺はシルバ達と一緒に食事してから防具を見に行こうと思ってる」


「マンリーさんの宿も一緒に予約しておきますか?」


「うーん?俺はいいや。実技が終わってから考えるよ」


マンリーは少しニヤけた顔でシルバ達を見てから答えた。


二人は別々に行動する事になり、ゾムがギルドを出る時に後ろから声をかけられた。


「す、すみません・・・貴方のその珍しい服装は何処で手に入るのですか?」


(ハァ〜、異世界でこの服はやはり目立つのか?・・・先程までは少し浮かれていて周りの目は気にしてなかったからな、着替えたほうがいいだろうな)


「ああ君は一緒に座学を受けていた・・」


「あっ・・申し遅れました、僕は"クオウ・ケン・コールギス"といいます。この街の生まれです」


「俺はゾム、この街には今日着いたばかりだ。この服かい?これはジャージといって運動に適してる服装だよ」


「やはり、これがジャージですか。初めて見ましたが、聞いていた通りです」


(あっ、ヤバい・・・隠さないといけなかったのにどうしよう)


「これはぁーぁー、っここに来る前の町で買った服だーよー」


「どこの町で買ったのですか?その服はこの街で売られても無いですし、そんなに伸び縮みする生地は王族ですら入手が難しいと思いますよ」


「えっ、どこの町?・・・何処だったかな?」


「まぁ、いいですよ。ゾムさん、あなたはこの街に来たばかりと言いましたね。何か僕に手伝えることはありますか?」


「どうして?」


「何がですか?困っている人がいたら手を差し伸べるのは我が家の方針です。それに同じ時に冒険者を目指す仲間です、もしかしたら命を助け合う事になるかもしれないので、先行投資みたいな物ですよ」


「先行投資ね・・・損しても文句言わないでくださいよ。なら何処か良い宿屋はないかな?暫く泊まる宿屋を探しているんだ」


ゾムはクオウの言葉に甘えて聞いてみた。


「それなら、ギルドの裏手に知り合いの宿屋があるので案内します。それにクオウと呼んで下さい、年齢も同じぐらいですよね」


「ありがとうクオウ。そういえば先程一緒にいた人はどうしたの?」


「ああ、一緒に講習を受けていたのは私の世話役です。私の事が心配で一緒に来たのですが、彼はとうの昔に初心者講習は受けているので実技には参加しません」


「世話役がいる家って、もしかして貴族の方ですか?」


「いやいや、まぁ私の身分は気にしないで下さい。お昼の時間はあっという間に過ぎてしまいます。急いで宿屋に向かいましょう」


クオウが先頭になって歩き出し、ゾムは慌てて後に続いた。

街道から少し入った入り組んだ路地にある、あまり大きくない宿屋[味わい亭]、クオウは主人に挨拶してゾムを紹介した。


「トレインシナさんお久しぶりです、友人のゾムが宿屋を探しているので連れてきたのですが今日は空き部屋はありますか?」


「これはこれは、味わい亭にようこそ。クオウ様いつもいつもありがとうございます」


「今日から暫くの間、一人用のお部屋をお願いしたいのですが・・・」


「俺はブルートット・トレインシナだ。うちは一泊朝飯付きで銀貨3枚。まぁクオウ様の紹介ってんなら少しは勉強させてもらいますが」


この世界の通貨の単位は𝓓ドンで銅貨一枚がパン一つ分ぐらいの価値だ。

そして銅貨の十倍が銀貨で更に上が金貨その更に上が白金貨になる。

銅貨の下に石貨と貝貨が有るが、村や集落では流通しているが街以上の都市ではほぼ使われていない。


「ありがとう、トレインシナさん。どうだいゾムここの宿屋は部屋も綺麗で湯浴みも出来るし、食事に関してはこの街で上位に入る美味しさだ。それに、主人に相談すればお勧めの武器屋や防具屋なんかも教えてくれるんだ。冒険を目的で滞在するならここの宿が一番だ」


(一泊で銀貨3枚か・・・元の世界でいうと約3,000円まあ安い方だな。女神のギフトで頂いたお金は金貨30枚分、何もしなければ約三ヶ月分の生活費になるな。稼げる様になるまで節約しないといけない。でも武器は買わないとダンジョンに潜れないかぁ〜)


「コールギス家にはいつも贔屓にしてもらい頭が上がりません。駆け出しのフィアレスが稼げるように成るまでの支援はいたしますよ。宿泊費も3割引きだぁ、どうだ?」


「ご主人のご好意に甘えて暫くの間、お世話になります。今は預ける荷物などが無いので部屋は夕方に戻った時にお願いします。それと早速ですが、初心者に丁度良い武器屋を教えて下さい」


「武器屋だったら、ウィン・ザ・ブレード店が一番だ。お前のレベルと予算にあった武器を見繕ってくれるぜ。ブルートットの紹介と伝えればリャリャンシーなら嫌がる事はないだろう」


ゾムは手書きの地図を貰いお礼を言って宿屋を出た。

クオウは途中までついてきてくれたが


「よし後は・・・僕は僕の準備に戻ります。後ほど集合場所で会いましょう、それと食事もお忘れなく」


「ありがとう、クオウ。時間に遅れない様に気をつけるよ、また後で」

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