1-5 武器を買って飯食って
味わい亭を出たゾムはトレインシナから渡された地図を片手に急いでいた。
何故なら武器屋は商業区にあるため、味わい亭と真逆の方向でこの大きな街の北パトーを大通りを挟んだ反対側まで行かないといけない。
「えっと、大通りから四番目の交差路を入って、直ぐに右に曲がった所っと、、ここかな?」
ゾムは地図に書いてある店の名前と店舗にぶら下がった看板を見比べる。
「ウィン・ザ・ブレード・・・此処みたいだな」
店はそれほど大きくはなく建物も年期が入っている。
店の中はどこか薄暗く、繁盛している様には見えない。
「店の名前は此処で間違いないけど、大丈夫なのか?人の気配がまるで無いけど・・・」
「何じゃ?妙な格好の奴じゃの?店に用か?眺めてるだけなら商売の邪魔じゃよ」
「俺は武器を買いにきたんです・・・トレインシナさんの紹介で・・・」
「へ〜、トット小僧の紹介か・・・あんた駆け出しじゃろ?」
「そうです、この後に参加する実技講習の為に武器が必要なんです」
「初心者講習中って駆け出しも駆け出しじゃーないか。・・・トット小僧の紹介はいつもこうだ、こんなヒヨッコによくしてやっても先の実になるかもわかりゃしないじゃないか。いつまでも店前で話をしてもアレだ、店の中に入り」
「宜しくお願いします」
ゾムが頭を下げている間に老婦は店の中に入って行き、続いてゾムも店に入る。
「やっと戻ってきたか?リャリャン婆」
「一人で店番は寂しかったか、タワン坊」
「あーあー誰も来ないから、寂しくて帰っちまう所だったさ」
店番の男は老婦を見るなり憎まれ口を叩く、老婦も軽口を返しながら奥のレジに腰掛ける。
「わたしゃ、"リャリャンシー・ウィングーリ"この店を商っておる。あんたの欲しい武器と予算について聞こうか?」
「ウィングーリさん、俺は"ゾム・ゴブリ"で」
ゾムが挨拶を済ます前にリャリャンシーは口を挟んだ。
「リャリャンでいいよ、ラストネームは好きじゃあない」
「リャリャンさんと呼ばせて頂きます。特にコレと決めている武器は無いんです。トレインシナさんにこの店で選んで貰えって・・・予算は金貨1枚ぐらいで」
「金貨1枚って良くて下の中か上ってラインの武器ぐらいしか買えんじゃろーに、ここに来るのは本当に金がない奴ばかりじゃ」
二人が話していると、さっきまで店番をしていた店員がゾムに剣を二本持って来た。
「いらっしゃい、おいらは店員のタワンっす。ちょっとゾムさんこの長剣と短剣をそれぞれ構えてどっちが良いか比べてみてよ」
ゾムはタワンに言われるがままに剣を構える。
「うんっ、ゾムさんスキルに短剣技があるだろ?構えた時の安定感が全然違う」
(確かに短剣の方が肌に馴染む感じがする。・・・けど後一つ何かが欠けている気もする)
「タワン、お前も少しは分かるようになって来たが、まだ正解の半分じゃな・・・惜しいがもう一本ってとこかの、シャッシャシャシャシャシャシャー」
タワンの目利きにリャリャンシーは笑いながら及第点をつけた。
悔しがるタワンを横目にリャリャンシーは白い短剣を一本ゾムに放り投げる。
「うわっと、危ない・・・」
ニ本目の短剣を掴むとゾムは驚いた。
「あんたは両手が同じように扱えるんじゃろ?だから短剣も二本構えた方がバランスが良くなる。何もスキルだけで戦う訳じゃない、身体に合う武着や戦い方を早く見つけた方が良いのじゃ」
リャリャンシーから受け取った短剣を加えて二刀流に構え直したゾムは左右をそれぞれ振ってみた。
「おぉぉ、さっきより二刀流の方が安定している。さすがリャリャン婆だ」
「俺も二刀流の方が合っているとは思う。でも右手では短剣を振れるけど左手一本で扱うのはまだ難しいかな?」
ゾムは二本の短剣をレジの机に置いた。
「そうかい、なら今日のところは一本にしとき、もう一本は身体を鍛えてからでも遅くはないじゃろ。駆け出しなら無理に二刀を使わんでも、先ずはこっちの"真鉄の短剣"にしな丁度金貨1枚じゃ」
「もう一本の"薄明の短剣"はゾムの予約って事で取り置いておくよ。剣を振る時は両手を意識して片手だけ使ってたらバランスが悪くなる」
「そうなんだ?試してみるよ」
タワンにお礼を言いながらゾムは金貨を取り出してレジに置いた。
「毎度ありじゃ、もう昼も半分過ぎた頃じゃろ。広場で美味いもん食ってからいくんじゃぞ、最後にオマケにこの手甲も持っていき」
「アーーー」
「ありがとうございました」
タワンが大きな声をあげてる口をパクパクしてる間に、ゾムは品物を受け取り深々とお辞儀をして出て行った。
「気に入ったの?短剣は相応だけどあの手甲をオマケを付けるなんて・・・ありゃ金貨5枚でも足りないくらいだ。タンさんが置いていったもんだろ?リャリャン婆」
「"
ゾムは大通りまで出て噴水広場を見てみようと広場に入った。
広場には露天商いの出店が何軒か営業していて良い匂いに釣られてフラフラとお店を物色し始めた。
大きな看板を立てた店に近づくと香ばしい香りに腹が鳴り、思わず立ち止まった。
「おお兄ちゃん買ってかないか?ウチの"
「マグロンって何?」
「あぁ、隣街の漁港から仕入れている魚だよ。この
「魚とパンのバーガーか、軽めの昼飯でいいだろう。親父さん、一つください」
「おしっ、ちょうど焼きあがった。コレを炒めたギザネギと一緒にパンに挟むと最高だぞ」
お金を払い受け取ったゾムはその場で一口齧り付いた。
「うぉっ、美味い。このマグロンの脂、凄いジューシーでお肉みたいだ。それにこのタレ、この甘辛のタレが絶妙にマッチしている」
(この魚は脂がのった鮪みたいだ。それに照り焼きのタレは醤油ベースに味醂の甘味や唐辛子の辛味を足している。この世界にも元の世界に似た調味料があるようだ)
ゾムは元料理人の知識と舌でこの料理の材料や調理法などを考えていた。
「兄ちゃんなかなか舌が肥えてるな、このタレの良さがわかるたぁー。ウチのは秘伝のタレでじーちゃんのそのまたじーちゃんの代ぐらいからの年期の入った継ぎ足し式だ。この広場で一番美味いのは間違いなくうちの店だ」
親父がボリュームを上げて店の自慢をするもんだから、目の前で聞いていたゾムはマグロンを頬張りながら思わず拍手をしてしまった。
出店の周囲で昼飯を選んでいた人々も店に寄ってきてマグロンを頼み出すと見る見る列ができた。
その時ゾムの後ろからガリガリの男が現れて
「お〜お〜、照り焼きのぉ〜?この広場で一番とは、どういう事だ?どこの誰が決めたんだ?あぁ〜?」
「なんだ・・・ダイ飯屋?こっちはお客さんの相手で忙しいんだ、邪魔しないでくれ」
「テメ〜が勝手に一番語ってっから来たんだろぉ〜」
「この列見たらどこの店が一番か一目瞭然だろ?あーあ、これだから暇人は嫌だね。」
マグロンの親父にダイ飯屋が絡み揉めている。
「飯?」
ゾムはこの世界の"飯"に期待を膨らませダイ飯屋に話しかけた。
「あなたの所は何を出しているんだ?」
「おぅ兄いちゃん、良くぞ聞いてくれた。うちは"出汁染み込み
「ウチだって負けてねーよ、
この街は水産業を中心に栄えているだけあって出店でで出てくる魚料理も種類が豊富である。
ゾムは料理人としてこの世界の食材や調理方法に興味があり、尚且つ美味しい物には目がないので店の人に呼ばれれば買って、食べてを繰り返し広場全ての出店の品を食べ歩いた。
「もう、お腹いっぱいだ・・・」
「兄ちゃん見事な食べっぷりだったぜ。どうせならどの店の品が一番美味かったか決めてくれや〜」
屋台の店主達も自分が一番という顔をしてゾムの周りを囲むように集まってきた。
お腹も膨れて逃げ場のないゾムは困った顔をして判定を下した。
「ごめんなさい、俺にはどれが一番かなんて決められないよ。みなさんの料理はどれも手が込んでいて、とても美味しかった。何度でも食べたい、だから皆さんのどの料理も最高だった」
店主達は自分の味が認められて誇らしげな顔をしてお互いを称え合った。
「そうだよな、この広場の飯はどれも美味い」
「お前の海老焼きの塩加減は最高だよ」
「イヤイヤ、マグロンの照り焼きのタレは見事だ」
皆が喜んでいるのを見てゾムも笑顔になったが、ふと閃いて恐る恐る声を上げた。
「俺も料理を作るのが好きなんだ、今度作ったら持ってくるから皆んなで食べてよ」
「おう、兄ちゃんも調理できるのかい!本場の俺らの味には敵わないと思うが作ったら持ってこい。味定めしてやるから」
「多分、皆んなが食べた事のない料理を持ってくるからさっ。それじゃぁね」
自信満々のゾムの言葉に広場の店主達は驚いてから了承した。
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