1-3 フィアレス

北パトーに近づくにつれゾムとマンリーは街を囲う高壁と街道から続く大門を観て瞠目した。

二人の予想を上回る規模の街に身動きできず固まっていた。

暫くして門の周囲に旅人や商人が近づいて行くのを見つけて、彼等も慌てて街の門へと近づいて行った。


「お前達、何処から来たんだ怪しい格好だな」


門番の衛兵が尋ねる。


「あぁ?お前こそ何だ?」


「イヤイヤ、マンリーさんここで言い争うのはダメだよ、ここは任せてください」


ゾムは門番の街兵にフィアレス冒険者を目指して訪れたと伝える。

だが、衛兵はゾム達の見た目を怪しみ他の衛兵達を呼んだ。

その中の初老の衛兵が二人を見て少し驚いたが、衛兵達に一言二言伝えて他の衛兵達を各自の持ち場に戻した。


「お主らは他の世界から来た者達じゃろ?」


「おい、爺さんなんでそんな事が分かるんだ?」


「あれは何十年も前の事だ、わしが衛兵になって少し経ったころお前さんみたいなジャージって言うんじゃったかな?まぁそんな格好で現れたもんがいたんじゃ。其奴も良いフィアレスになってこの街で尽力してくれたんじゃ」


「うっそ、ジャージ着た転生者ってゾムと同じじゃねえか」


「衛兵のお爺さん、転生者ってよく訪れるのですか?」


「いいや、わしが知る限りではその人だけだよ。それとお前達、自分達の身分を負いそれとは明かさない方よいぞ。変な輩に絡まれるのがオチじゃ」


「忠告、ありがとうございます」


「お前らこの街は初めてなんじゃろ?」


そう言って街の情報とギルドについて教えてくれた。


北パトーはアナパロバ連共国の北部に位置し国内最大級のダンジョンを有する、約50万人が暮らす大都市である。

領主のララトル・パトー伯爵は連共国を治める4大貴族の一角を担い国内に強い影響力を持っている。

街の産業は水産加工業で北に位置する港町のヨロック港が漁獲した海産物を仕入れて加工している。

街は東西南北に大きな街道が通っていておおよそ四つの区画に分かれている。

北西部は高台になっており領主や貴族、富裕層が暮らす。

北東部はギルド本部と宿屋街があり、東門の近くにダンジョンの入り口も併設している。

南西部は商業区で内部は武器屋、防具屋、道具屋などが立ち並び、外部は都市の産業を担う海産物の加工場が所在している。

南東部は歓楽街とスラブ区があり、大人達の食事処や遊び場になっている。

そして、ギルドは国内で一番大きくフィアレスの登録数は最大規模である。


暫く初老の街兵と話をしていると、ゾム達の後ろにも商人などの列ができ始めたので通行税の銀貨1枚を納めて南門から街に入った。


「街には入れたけど街兵には怪しまれたな、服は早々に変えた方が良さそうだな」


「そりゃこんなにも場違いな格好していたら怪しまれて当然だろ」


マンリーはスーツ姿で腰に帯剣していてゾムは上下黒の三本線のジャージ姿なのだから怪しまれても仕様がない。


「マンリーさん取り敢えずは街を散策して服屋を探さないか?」


「イヤ、まずはギルドに行ってフィアレスになるぞ」


「えっ?早くこの世界の人達と同じ様な服に変えた方が良く無いか?」


「お前はさっきの話を聞いてなかったのか?俺様達は身分を示す物は一つも持っていない。そんな状態じゃ商売人も怪しんで売ってくれないって」


「確かに、それでフィアレスになって身分証をもらうって事か」


「あぁ、それに俺様は最速で頂点を目指しこの世界の最強になってやるんだ、この魔剣と一緒にな」


(この世界の富や名声を根刮ぎモノにしてやるぜ、後は優秀な仲間と女だな・・・利用できる物はとことん利用してこの世界を謳歌してやるぜ)


北パトーのギルドは街の中心から東西に延びる街道を東門の方へ進んだ道沿いに有り、三階建てで周囲と比べると大きな建物だ。

二人はギルドに入り一階フロアを見渡した。

入り口のすぐ右脇に壁一面のボードに紙が沢山貼り付けてある、右の壁側は階段、その隣にカウンターがあり部屋の奥まで続き職員がフィアレスの対応をしている。

正面扉は裏の修練場へと続いている。

入り口から左のスペースは食事処というよりは居酒屋やBARの様になっている。

国内最大級のギルドなだけあって人で溢れかえっていてギルドは賑わっていた。

朝から飯を喰いながら酒を飲んでる騒がしい奴らまでいる。


「すみません、フィアレスの登録は此処でできますか?」


ゾムはカウンターの女の人に話しかけた。


「あっ、ハイ。新規の登録ですね。それではこちらの用紙に御記入願います。書類提出後に新規講習がございます。講習終了後に本登録をする場合は登録料が金貨1枚掛かります」


「新規講習を受けないといけないの?」


「当ギルドでは本登録前に絶対に新規講習を受けてもらっています。講習内容はダンジョンやモンスターの危険性や生業とする際の注意事項などの座学と実際にダンジョンに入る実技に分かれています。新規講習を実施しないと無知な方や粗暴な方が増えてギルドに損害が出てしまいます。迷惑行為などが増加しても管理側は困りますし、職業がフィアレス向きでない方もいらっしゃいます。ですから、冒険者として最低限の事を学んだ上で登録の是非を決めて頂いております」


「おう、綺麗なお嬢ちゃんギルドって所は面倒臭いもんだな」


(なんだかゲームのチュートリアルみたいだな、まっ俺様には楽勝なイベントだろうがな)


二人は説明を聞きながら用紙に記入して受付に渡した。


「お嬢ちゃんではなく、サシャです。・・・ギルドが管理しているダンジョン内で死亡者が増えますと色々と面倒な事が多いので、誰彼構わず冒険者にするわけにはいかないのです。ギルドとして多少は篩にかけるのは当たり前です、要すれば弱者は必要ないと言う事です」


「こらっ、サシャ!・・・余計な話は終わりにして、早く手続きを済ませろ」


階段から降りてきた所員がサシャに小言を言う。


「ハイハイ、ルイスさん丁度いいから書類持って行ってね」


サシャは急に言葉遣いが変わり、小言の男を引き留めて僕らの書類を渡した。


「仮登録ありがとうございます。本日は昼までが座学で昼休憩後に実技がございます。ダンジョンに潜る準備がある方は休憩などの時間を利用して用意してくださいね」


サシャは丁寧にお辞儀をして微笑んだ。

書類を受け取った男はニ階の会議室まで僕らを案内しながら自己紹介をした。


「私は新規講習の座学を担当するルイス・キース・カージナルです、よろしくお願いします。私も現役のフィアレスで"ランクVIIIエイト"です、質問などがあれば気軽に聞いて下さい。まだ講習まで時間がありますが、開始の時刻に遅れないように会議室にお集まり下さい」


「ところでトイレは何処にあるんだ?」


「ああ、それでしたらあの奥の突き当たりを左です」


マンリーはルイスにトイレの場所を聞いて走って行った。

ゾムはギルドの中を見て周りたかったが、時間がわからないので大人しく会議室で待つことにした。

会議室の中は長机が口の字に並んでいて外周を囲む様に椅子が並んでいる。

一番奥の席には少し古い紙の束が置いてあり、すでに5人が座っていて好き好きに話をしている。

向かって左の列の奥に20代半ばを過ぎたぐらいの男が二人、正面に座る女の人をチラチラ見ながら話をしている。

話の種となっている女は端正な顔立ちをしていて耳が少し尖っている、一人で来ている様で机に向かい何かを書いている。

その横、少し手前に綺麗な服装の男と従者の様な男が座っている。

ゾムは手前側の誰も座っていない長机の右端の席を取り座った。


「ブッハッハッハッハー、そうなんだ俺様は魔剣使いなんだよ」


マンリーは大声で話しながら扉を開けて入ってくる。

続いて二人の女の人が入ってきた。

マンリーは部屋を見渡すとゾムを見つけて隣に座りご機嫌な様子で喋り出した。


「聞いてくれよ。トイレを出た所でこの二人に会ってさ、話しかけてみたら駆使くも同じ講習を受けるって言うんだ。これは神様がくれたチャンスだと思ったよ」


ゾムに話している間にマンリーの横に連れ立ってきた二人も座る。


「ああ紹介するよ、こいつの名前は"ゾム"だ」


「初めまして、ゾム・ゴブリですよろしくお願いします」


「私はシルバニア・シルフェスです。こちらこそ、よろしく」


「マーキュリーだよ。よろしくね」


ゾムは立ち上がり軽く挨拶を交わした。

シルバニアは背が高くすらっとして気品があるがどこか冷たい雰囲気を持っている。

マーキュリーは小柄で愛嬌があり人懐っこい小動物のようだ。


「この二人とはこの後の実技も一緒に行動しようと思う。ゾムも大丈夫か?」


「あぁ、大丈夫だよ」


「マキュは弓技には自信があるんだ、ゾムの得意な戦法は何?」


マーキュリーがゾムに問いかけた。


(戦い方と言われても、戦った事なんてないからどう言えばいいんだ?スキルにある短剣技を使って戦えばいいのか?)


「俺のスキルには短剣技があるから・・・」


「なら前衛で戦う軽剣士か、斥候職のシーフになるかしら」


「そうなの?シーフかぁ・・・スキルが発揮できて自分に合えば最適だな」


ゾムとシルバニアの話が弾み出した時、マンリーも会話に入ってくる。


「俺様は、この魔剣で戦う剣士だ。とにかく前線で斬りまくってやるぜ」


マンリーが立ち上がり強い口調で話し始めた、その時扉が開きルイスが部屋に入ってきた。


「魔剣、魔剣、強そう、強そう」


マーキュリーが楽しそうにリズムよく歌い始めた。


「さぁ諸君、これから講習を始めるよ。お喋りは止めて席に着いてくれたまえ」

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