視線
「ゴールデンウイークの課題は全部今日持って帰る必要なくない? どうせ1日じゃ終わらないんだしさ」
「そうだね。空き時間に学校でも進められるし。あと、資料集とか、予習復習に使わない教科書なんかはロッカーに入れておけばいいと思うよ?」
「それに、国語や科学や地理の教科書も置いとけばいいよ。どうせテスト期間くらいしか家で勉強しないっしょ」
「うーん、科学は予習復習した方が良いと思うな」
右側ににみらい。左側に真崎さん。
僕は何故かふたりに挟まれていた。
3人それぞれ職員室で受け取った荷物を抱えているから、両手は花というにはシュールな状態。
僕の両手には、課題やら体操服やらが入った紙袋。みらいと真崎さんは、5キロくらいある教科書の入った段ボールに鞄を乗せて抱えている。
「ダンボール重くない? 変わろうか?」
「こんなのよゆー」
「平気だよこのくらい」
ふたりには、紙袋をひとつずつ持って貰えればそれだけで十分助かった。ところが、僕が手を出す前にダンボールを持って行ってしまったのだ。側から見ると女の子に重い荷物持たせてる駄目男の構図である。
おかげでさっきから視線が痛い。
「おい、あれ1年の真崎と宮津だろ? 可愛いよなー。間にいる奴だれだよ羨ましい!」
「まさに大和撫子だよな。あんな子に尽くされてみてぇ……」
「真崎さんってやっぱ超綺麗だよね。憧れるなー。」
「ポニテの子おっぱいすげぇ……今日はこれでいいや。」
「……俺、段ボールになりたい」
やはり、真崎さんの美貌は目を引くようで、異性だけでなく同性からも羨望のまなざしを向けられている。
みらいだって負けてはいない。制服越しにもわかる抜群のスタイルに、男共から邪な視線が注がれている。
「なこ、また見られてるねー。外観詐欺師め」
「見られてるのはみーちゃんのお尻じゃないかな。大きいから」
「なにおー!」
「まあまあ」
職員室から教室までの間、すれ違う生徒達から様々な視線を向けられている。
好奇、羨望、嫉妬、邪念、殺意……
シシメルの裏通りに比べればぬるいもんだしいいけどさ。
「なあ、みらい? 当たってるんだけど?」
「当ててるんだけど?」
言うまでもないが肩だ。
「真崎さん? もう少し横へ……」
「他の人の迷惑になるから駄目」
えー!? だったらなんで横に並ぶの!?
視線のおかげで精神的にもだけど、物理でも僕は肩身が狭い思いをしていた。
何故か僕を挟むようにして歩くふたり。廊下はそこそこ幅はあるけど、荷物もあるし、他の生徒に通行もあるから、どうしても窮屈な状態で歩くことになる。
どうやらわざとやっているみたいで、こっちが歩調を遅くして、ふたりの後ろを歩こうとしても、しっかり合わせて、両横をぴったりキープしてくる。
「ほら、なんか見られてるし、並んでた方が、あたし達もあやたも、声をかけられなくていいんだよ」
「まるでアルパカのファームにいるみたいだ」
「なにそれ?」
右腕にみらいがまた肩を当ててくる。
「きっかけひとつで一気に囲まれそうだってこと。あいつらって気の無いふりをしていると、こっちをじっと見ているだけだけど、目が合ったら集団で寄ってくるからね」
「あはは! 確かに、今もそんな感じだね!」
「他人事みたいに……」
「なんか言った?」
「なんでもない」
寄り添ったままのみらいに、人の気も知らないで、と内心で愚痴る。
そして、左腕には真崎さんもぴったりと肩を当てている。
「真崎さんまで……」
「ふふ、大丈夫だよ。こうして仲良しなのをアピールして、入り込む余地なんてないんだぞって見せた方が、向こうも遠慮してくれるから」
「そういうもんなの?」
「そうだぞ。ひとりだとよく声かけられたりするけど、ふたりでいれば滅多にないよ。見られるのは変わらないけどさ」
ナンパは2対2くらいが一番多いと聞いていた僕は、内心で首をかしげる。何で知ってるかというと、向こうで友人がそんなことを言って、僕をナンパ要員に駆り出したからだ。
ナンパした女の子に僕だけ持ち帰られそうになって、二度と誘われなくなったけど。
「もし、声をかけられても、私達はふたりで楽しんでるんだから邪魔するなって言えば、すぐに退いてくれるからね」
「そうそう!」
なるほど。でも、それって何か勘違いされてなくないか?
みらいは天然だから気づいてないかもだけど、真崎さんはわかってやってる気がする。
真崎さんってもしかして、そっちの趣味の人? マサキだった頃は、色んな女の子を誑し込んでたみたいだし。
「真崎さんってもしかして……」
「麻生君。私はそういうのじゃないから。もしそうなら間になんて入れてあげないよ? 死刑だよ?」
「何の話してんの?」
そして、みらいはわかっていなかった。
「なんでもない」
1年5組の教室は1階の角にあった。放課後ということもあって、教室には誰もいない。廊下も人影はまばらだったが、やはりまだちらほらと視線を感じる。
起用に足で扉を開けたみらいが教室に入ると、1番左端の最前列にある席に段ボールをどかっと置く。
「ここがあやたの席!」
出席番号1番って聞いてたから、そうだろうなとは思っていた。
「あたしはここで、前の席がなこ」
みらいと真崎さんは同じマ行だ。僕の席からは離れた後ろの方に席がある。それにしても、仲良しのふたりが同じクラスで席も前後なんて、すごい偶然があったもんだと感心する。
「みーちゃん。さっさと片付けるから持ってきて」
「あはは、ごめんごめん」
ロッカーは教室の外にある。机に置いた段ボールをを持って教室を出るみらい。靴底のグリップ力を使って、また起用に扉を閉めた。
変わってないな。子供の頃それやって祖母に怒られたってのに。
ロッカーは廊下に上下2段で並んでいる。僕は1501と書かれたロッカーに、預かった鍵を差し込んで開けた。
「じゃあ、とっとと仕訳けちゃおうか」
「そうだね」
これは置いとく、これは持って帰る。これはいらない。いや、それは持って帰って予習した方が……
作業はふたりがやってくれるから僕は後ろから見てるだけだ。
なんか、真崎さんに予習と課題を進める計画まで決められている気がする。まあ、いいけど。
置いて置くかで揉めた教科書は、一旦持ち帰って検討することになり、気が付くと段ボールふたつ分の荷物は半分以下に収まった。余った段ボールはその場で崩してしまう。
「あやた大丈夫? 持てそう?」
「ああ、これなら持てるよ。ありがとう」
残った荷物をまとめて持ち上げる。男子なら普通に持てる重さだ。
「ふーん。あやた力ついたね。よっと」
みらいが僕の二の腕を掴んでくる。
「うわ、なこなこ! あやた結構筋肉あるよ!」
「どれどれ?」
みらいとは反対側の腕をとる真崎さん。両腕をふにふにと揉まれて、なんか凄くくすぐったい。
「うわ、本当だ! やっぱり昔とは違うんだね」
「そ、そりゃそうだよ」
シシメルへ行って僕は心身ともに鍛えられた。アンデス山脈の中腹にある標高2000メートルの集落で暮らすには、ひ弱なあやた君ではいられなかったのだ。
「良い男に育ってお姉ちゃんは嬉しいぞ!」
「こら、子ども扱いするなって」
両手が塞がって抵抗できないのをいいことに、みらいが頭を撫でてくる。片腕は真崎さんに掴まれたままで、荷物もある。身をよじると危ないから、大人しく撫でられるしかない。
みらいのポケットのスマホが鳴った事で、ようやくなでなで攻撃から解放される。
「あ、お父さん来たみたい」
「じゃあ行こうか」
帰り際、ポンチョとテンガロンハットを身に着けた僕を見て、ふたりが大笑いしてくれたことをここに追記しておく。
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