第39話 久しぶりの真家レニ

 ペットお披露目配信の翌々日、久々に真家レニの配信が行われた。


「こんばんれに~」


『こんばんれにー』


『こんばんれに~』


 配信が始まると、いつもの挨拶から始まる。


「ごめんね、いつもの配信さぼちゃって。うっかり風邪ひいて寝込んじゃってました、てへ」


『風邪なら仕方がない』


『おおう、そんな事になってたのか』


『っお薬代 ¥2,000』


「わわっ、ありがとう。でも、もうすっかりいいから、配信ペース戻していくっよ~!」


 いつものようにハイテンションな彼女ではあるものの、さすがの病み上がりとあっては、あまり無理のない内容におさまって……いなかった。

 病み上がりだというのに「SILVER BULLET SOLDIER」のタイムアタックで記録を更新していた。


『テラワロス』


『病み上がりでなんで記録更新してるんですかねぇ……』


『風邪とは名ばかりの練習をしてたんじゃないのか?』


『笑い過ぎて腹いてぇ』


 リスナーたちも楽しんでいるようだ。


(よかった。レニちゃん、大丈夫だったんだ)


 満も配信を見ながら嬉しそうに笑っている。懸念が一個払拭されたのだから、当然といえば当然かもしれなかった。


「というわけで、今日もご視聴ありがとうございました。心配かけちゃってごめんなさい」


『ええんやで』


『1回くらい飛んだくらいじゃへーきへーき』


『レニちゃんファイト』


 相変わらず真家レニのリスナーたちはいい人ばかりのようで、満も安心して見ていられるというものだった。


「そうだ、最後にひとつ。おとといのルナちの配信、アーカイブだけど見せさせてもらいました。わんことにゃんこが可愛すぎたので、販売になったら買わせてもらいますね」


『うわぁ、配信で堂々とwww』


『DMでやれwwwww』


『それはそう。でも、あのいっぬとぬっこが可愛いのは認める』


 終わりかと思ったその間際の発言に、リスナーたちはお祭り状態になっていた。

 ああもう、めちゃくちゃだよ。


「それでは、今日はここで終わりますね。またあさってお会いしましょう、おつれに~」


『おつれに~』


『おつれにー』


『次回楽しみ』


『おつれに~』


 挨拶の嵐で、真家レニの配信は無事に終了したのだった。

 配信が終わったことで、満は安心したように椅子にもたれ掛かっている。

 それと同時に、一回配信が飛んだだけでこんなに心配してしまうのだということを思い知らされた。


「僕も、配信をしない時はちゃんと事前に連絡しないといけないな……」


 自分がそうなったのだから、まったくもって他人事ではなかった。自分だってアバター配信者なのだから。自分がもし配信を休んだら他人がどう思うのか、それをまざまざと見せつけられたのだ。

 その現実を見せつけられた満はしっかりと肝に銘じて、次回の配信の計画を練るのだった。


 ―――


「はぁ~、終わったー」


 配信を終了した真家レニは、ヘッドギアを外して頭を左右に振っている。


「いやぁ、一回配信を休んじゃっての配信は、すごく緊張したな。おかげで集中力上がって記録更新しちゃった」


 ぶつぶつと大声で独り言を言いながら、モーションキャプチャを外していく。

 病み上がりということもあり、服装はパジャマで配信していたようだ。

 モーションキャプチャを全部外して机に置くと、軽く体を伸ばしたり動かしたりしている。


「お疲れ。すっかり体調はいいようだな」


「パパ」


 ノックが響いてから扉が開いたかと思うと、少女の父親が顔を覗かせていた。その手には何かを乗せたトレイを持っていた。


「病み上がりなんだから無茶をするなよ。ほれ、これでも食べてすぐに休むんだな」


「うん、ありがと、パパ」


 部屋に入ってくる父親に向けて、少女はにこりと微笑んでいる。


「そうそう、学校には明日も休みだという連絡は入れてあるからな。治ったと思われる時こそ一番危ない。だから、明日もゆっくり休んで体力を戻すんだな」


「もう。パパったら過保護なんだから」


「当たり前だ。あいつはずっと海外なんだし、俺が見ないといけないだろう」


「私だってもう高校生だよ。いつまでもパパのお世話になり続けるわけにもいかないでしょ」


 父親の過保護っぷりに、少女はちょっと反抗期な姿を見せている。ところが、父親はなぜか嬉しそうだった。


「ははっ、そういうところはあいつに似てきたな」


「もう、パパったら……」


 感慨深そうな父親に、少女は困惑しっぱなしである。つい恥ずかしくて顔を背けてしまう。


「とにかく、どうして風邪を引いたのかは追及しないが、無茶をするのは見過ごせんぞ。食べたらさっさと温かくして寝るんだぞ、いいな」


「はーい」


 持ってきたおかゆを置いて、父親はさっさと部屋を出ていった。年頃の娘の部屋にいつまでも居座るべきではないと弁えているのだ。

 父親が部屋を出てドアを閉めたのを確認すると、少女はありがたく黙々とおかゆを食べていた。


「……おいしい。おかゆなのに」


 父親の優しさをかみしめながら、少女はおかゆを平らげる。

 食べ終わると廊下にトレイを出しておき、そのまま布団へと入って眠りに就いたのだった。

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