第29話 疎遠な幼馴染みの相談

 週が明けて月曜日。

 登校した満は、風斗と、……どういうわけか香織も交えての話となった。


「珍しいな、花宮」


「珍しいって何かしら。私たちは幼馴染みじゃないの」


 風斗の反応に、珍しく怒った様子を見せる香織である。

 普段はおとなしいというのに、一体どうしたのかと戸惑う満と風斗である。


「あのなぁ。そういうんだったら、普段からもうちょっと付き合いがあってもいいだろうが」


 困惑して黙っている満の代わりに、風斗が不満ありげに香織に言い返している。

 確かにその通りであるので、香織もこれには言い返せなかった。


「も、もうなによ。昨日、知らない女の人と親しげに話してたくせに」


「なっ」


「私見てたんだからね。ハンバーガーショップで年上のお姉さんと話をしているのを」


 これには満も風斗も驚いていた。まさかあの現場を香織に見られていたとは思わなかったのだ。思わぬ反撃にたじろいでいる。


「あれは流れ的に仕方なかったんだよ。俺が満の相談に乗ってたら、急に話し掛けられてさ。断り切れずに、なぁ?」


「う、うん」


 慌てふためきながら同意を求めてくる風斗に、満は思わず頷いてしまう。すると、香織からさらにきつい視線を向けられてしまう。

 まったくどうしたらいいものかと、身を引きながら作り笑いで黙り込む二人である。


「むぅ……、二人とも黙っちゃって……。幼馴染みの私を仲間外れにしないでよ」


「誰もしてないから。それより、花宮さん。何か僕たちに相談があるんだよね」


 ぷくーっと頬を膨らませた香織に、満はおそるおそる声を掛ける。すると、香織の表情が少し明るくなった気がした。

 香織は机に手をついて話をしようとするが、なんとも間が悪いことにホームルームのチャイムが鳴ってしまう。


「ああ、もう。やっと本題に入れると思ったら……」


 すごく悔しそうにする香織。ため息をついたかと思うと、満と風斗に視線を向けながらこう告げた。


「お昼休み、話しようね」


「あ、うん」


「分かったよ」


 香りがにこりと笑っていたので、逃げられないと二人は仕方なく了承したのだった。


 そして、迎えた昼休み。

 満と風斗は諦めた様子で香織を待った。


「二人ともごめんね」


「いや、謝ることはないって。幼馴染みだろうが」


 香織がやって来ると、風斗は真顔で言葉を返している。


「それで花宮さん。僕たちに相談って何なの?」


 満が何の気なしにストレートに話題に切り込んだ。これには香織はちょっと戸惑っているようだった。


「うん、配信者ってどうなったらなれるのかなって思ってね」


「花宮、配信者をするつもりなのか?」


 予想してなかった話題に、思わず身を乗り出す風斗。その動作にちょっとびっくりしたものの、香織はこくりと頷いていた。


「ほら、前に空月くんがファンだとか言っていたアバター配信者の話が出たじゃない。それで、私も見てみたの」


「それで、どうだったの?」


 ごくりと息を飲んで感想を聞こうとする満。自分がファンである真家レニに対して、他人がどう思っているのか気になって仕方がないようだ。

 食い気味に顔を見てくる満に、思わず視線を逸らしながら香織は答え始める。


「う、うん。悪くないかなとは思った。ただ、明るすぎて、私には合わなかったかな」


「そ、そっかぁ……」


 香織の感想を聞いて、背もたれにもたれ掛かる満。合わなかったという感想がショックだったようだ。

 満がショックそうな表情を見て、申し訳なさそうな表情をしている。満の好きに共感できなかったことに、悔しいと感じているのである。


「でも、全部見てみて、私もこんな風にできるのかなって、興味が湧いちゃったの。配信をしているっていうのなら、二人は詳しいかなって思って。幼馴染みだし、思い切って相談してみたの」


 香織の訴えに、満と風斗はお互いに顔を向け合う。


「満ははっきり言って俺といとこの悪ノリみたいなものはあるからなぁ。香織みたいな性格だと、個人勢はおすすめしないぞ」


「そっかぁ」


「だがな、企業勢っていう手があるな」


 風斗は鞄の中からスマホを取り出して、テンポよく何かを検索し始めた。


「俺のいとこがあれだけ手際よく準備できた理由は、いとこの両親、つまりはおじさんとおばさんの今の職場の影響があるんだ」


「えっ、そうだったの?」


「そういえば説明してなかったな。大手の配信会社の企画部にいてな、世貴にぃも羽美ねぇも、将来的にはそこに就職するつもりでいるんだよ」


「へぇ~、そうだったんだ」


 風斗の説明を受けて、思わず感動を覚えてしまう満である。


「で、ここがその会社だ。所属アバ信は常に募集中だから、これに応募してみるってのも一つの手だよ」


「なるほど……」


 話を聞き終わった香織は、本気で悩んでいるようだった。


「まっ、俺からの話はこれくらいだな。後は花宮の覚悟次第ってとこだ」


「うん、ありがとう村雲くん。早速やってみる」


「お、おう。決断が早いな」


 あっさりと答えが返ってきたので、風斗は面食らっていた。

 昼休みが終わるチャイムが鳴ると、香織はさわやかな笑顔で自分の席へと戻っていく。その様子をまるで嵐が去っていくような表情で見送る満と風斗なのだった。

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