第28話 気になる女性

 気が付いたら、声を掛けてきた女性とハンバーガーショップにやって来ていた満と風斗。

 断ろうかと思ったのに、あまりにも強引すぎて連れ込まれてしまったのである。


「ここのバーガーは大ぶりで気に入っていますよ」


「いいんですかね。いくら俺たちが中学生とはいっても、男二人と一緒にいるなんて」


「ノンノン、気にしない。なんか配信者の話をしてたから、お姉さんが相談に乗ってあげるよ」


「えっ?!」


 目の前の女性の話に、思わず驚く満と風斗である。


「お姉さんも配信者をされてるんですか?!」


「声が大きいよ」


 指を唇に当ててウィンクしながら注意をしてくる。

 それにしても、目の前の女性が気になって仕方がない。

 茶髪に青い瞳で、頬骨の辺りにそばかすが目立つ。服装はまだ暑いとあってキャミソールに薄いカーディガンを羽織って清楚風なのだが、白のショートパンツに黒のサイハイとキャメル色のミドルブーツと上下でずいぶんと印象が違う。

 ショートの髪にサンバイザー風の帽子と、トータルに見ればかなり活発な女性のようだった。

 その女性は、満たちの前でダブルのチーズバーガーを頬張っている。


「ここはお姉さんのおごりだから、君たちの話を聞かせてね」


「あっ、ご、ごちになります」


 頭を下げる満と風斗である。

 それで、おとなしく満は配信の悩みをついつい打ち明けてしまう。女性は肘をつきながら、足をばたつかせていた。


「ふむふむ、最近配信を始めたけど、ネタがなくなって困ってるか。わっかるわー」


 両目を閉じて両手を組んで前に突き出す女性。


「私は1年半くらいかな、配信歴。そこそこ人気になってるけど、火がつくまでは本当大変だったんだよー」


「そうなんですね」


「うんうん。普通にやってたんじゃ受けなくて、技術磨いて変わったことをしたらそれが受けたんだ。今は週に3回配信してるけど、来年は受験生だから減らさなきゃいけないかなー」


「わわっ、高2なんですね」


 驚いて満が言ってしまうと、女性はこくりと頷いた。


「そういえば、最近始めたって言ってるけど、最近知った配信者の子に声似てないかな?」


「えっ、それって誰なんですか?」


「光月ルナ」


「ほへっ」


 にこにこの笑顔で言い切る女性に、満は変な顔をしている。隣では風斗が思い切り吹き出している。ただし、コーラを飲む前だったのでセーフだ。


「銀髪に緑の目、甘いルックスに僕っ娘と、この上なくお気に入りなのよ。ちょっと知ってる人にも似てるから、私ってば気に入ってるんだ~」


 両頬に手を当てて首を左右に振る女性の姿に、満は何も言葉が出てこなかった。


「ねぇ、声が似てるって言われた事ないの?」


「は、初めて言われました」


 満が正直に答えると、口を尖らせて不機嫌になる女性。まったく態度が分からないというものだ。


「だからね、君はその声を活かすべきだと思うんだよ。歌でもいいけど、厳しいと思ったらASMRっていう手もあるよ?」


「え、えーえすえむあーる?!」


 よく分からない単語が出てきて、頭に「?」を大量に並べる満である。


「なんて言うだろうね。耳元でささやくようなやつかな~。やってるのがPASSTREAMERだったら、それ用の販売スペースを作れるはずだよ。試してみたらいいと思う」


「へえ、そんなのがあるんだ。帰ったら確認してみるよ」


「うんうん。あっ、そうだ。ペットとかもいいと思うよ。犬や猫なら嫌いな人少ないし、配信中に自慢してる人たち結構見るよ」


「ペットねぇ……」


 ぽんぽんとアイディアを出してくる女性に、満はついに悩み始めた。

 家ではペットを飼っていなかったので、その発想はなかったのだ。

 悩む満の顔を見ながら、女性はにこにこと微笑んでいる。

 だが、その時にぴろんと通知音が響き渡った。


「うわ、やっば」


 スマホを取り出した女性は、合わせて表情を見せていた。


「ごっめーん、友だちと待ち合わせしてたの忘れてた。まだ時間には間に合うけど、もう行かなくちゃ」


 立ち上がって慌てて出ていこうとする。


「ごめんね、つき合わせちゃって。私は芝山小麦しばやまこむぎっていうの。君たちは?」


「僕は空月満」


「俺は村雲風斗」


「満くんと風斗くんね。それじゃまた縁があったら会いましょうね」


 お互いの名前だけを言い合うと、小麦はハンバーガーショップを慌ただしく出ていったのだった。

 まるで嵐のように出会い、去っていった小麦。その姿に、思わず満たちは外を見続けたのだった。


「ずいぶんと明るい人だったね」


「だなぁ……」


 気が抜けたように話をしながら、食べ終わっていないハンバーガーにかぶりつく二人。


「でも、次の配信のヒントがもらえたのはよかったな」


「うん。でも、なんだろうな。なんか知っている感じがしたんだけど……」


「そっか? 俺はああいう知り合いはいないんだがな」


 首を捻る満に、風斗は渋い顔をしながら反応している。


「また会えるのかなぁ」


「どうだろうな。連絡先は交換してないし、また会うのは困難だと思うぞ」


「うん、そうだね」


 淡い希望を持つ満に対して、現実を叩きつける風斗である。

 とはいえども、たまたま会った小麦と名乗った女性からヒントを得た満は、次の配信のために行動を開始することにしたのだった。

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