第27話 手詰まり感
次の週末、満は風斗を誘って久々に遊びに出かけていた。
「久しぶりだな、こうやって遊ぶのはさ」
「まぁそうだね。僕が配信は始めてからというもの、なかなか遊ぶ機会がなかったもんね」
「でも、どういう風の吹き回しなんだ? こもって動画作ってばかりだと思ったのによ」
満が悪気なくぶつけてきた質問に、満は頬をかきながらちょっと恥ずかしそうにしている。
「いやぁ、動画の次のネタとして何かいいのがないかなと思ってね。ゲーム配信ばかりじゃ飽きてきちゃってさ」
困ったようにはにかみながら言う満に、風斗は一瞬黙った後、思い切り吹き出していた。
「わはははは、なんだそういうことか。すっかり配信者が板についてきたな」
「ちょっと風斗。そんな大きな声で言わないでよ。僕が配信者をしていることは内緒なんだからさ」
「わははは、悪い悪い。ついそんな悩みを聞かされたらな……」
「んもう」
笑い過ぎて涙を浮かべる風斗に、腰に手を当てながら頬を膨らませる満である。
実際、満はちょっと最近伸びあぐねを感じている。SILVER BULLET SOLDIERのプレイ実況は、吸血鬼のアバターで行っているから意外性で食いつかれた感じがあるのだ。そこに真家レニ騒動で一気に火がついた。
しかし、さすがに直近3回が同じような内容の配信では、リスナーの反応が悪くなってきていたのだ。
そこで、今週末の配信はお休みにして、新しいネタを探しに来ているのである。
「しっかし、満ってこれという特技がないからな。しかも、アバター配信者となると実際の手元が見えるわけじゃない。こういう時こそ、世貴にぃと羽美ねぇに相談してみるべきじゃないのか?」
「でも、二人とも大学にバイトがあるでしょ。忙しいからさすがに悪いんじゃないかな」
街中のベンチに座りながら、満は風斗といろいろと話をしている。
「歌の配信だって、近所迷惑とかあるしなぁ……」
「そもそも満は音痴だろうが。歌ったら幻滅されるぞ」
「風斗、はっきり言ってくれるね」
音痴を指摘されて、頬を膨らませて睨み付ける満。音痴は確かに事実だが、改めて言われると頭にくるものだ。
「はあ、踊るとなるとやっぱり近所迷惑だし、母さんから苦情が来そうだよ」
「どったんばったんは、まあそうだよなぁ」
満は俯き、風斗は手をついて空を仰いでいる。
なかなかいいアイディアというものが思い浮かばないものである。
企業勢であるならば、所属するアバター配信者たちでコラボといったようなこともできるだろう。
だが、満は個人勢だ。しかも中学生とあればできることなどが限られてしまうのである。
次の配信のネタ探しは、早々に行き詰ってしまっていた。
「なあ、満」
「なんだよ、風斗」
「SNSのフォロワーを頼ろうか」
「フォロワーを?」
風斗から出てきた提案に、満は思わずきょとんと首を傾げてしまう。
「ああ、どんな配信が見たいのかアンケートを取るんだよ。それで出てきた案の中から選んでいくんだ」
「なるほど、他力本願だけど、そんな手があったか……」
どうやら自分でどうにかする事ばかりを考えて、そこに考えが及ばなかったようだった。
しかし、まだデビューしたてでいきなりそんな事をしていいのか、満は躊躇してしまう。
「そういう時こそ、吸血鬼という設定をうまく使うんだ。目覚めたばかりで世の中に疎いからとでも言えば、乗ってくれるんじゃないかな」
「さっすが風斗、頭いいな」
「だっろー?」
両手を握りしめて目を輝かせる満。その姿を見て、風斗は自慢げに笑っていた。
方針が決まったことで、満は早速光月ルナのSNSに投稿を行おうとする。だが、満の手がぱたりと止まる。
「ねえ、風斗」
「なんだ、満」
「今の時間、SNSに投稿していいと思う?」
「え、何言って……あ、そうか」
満の質問の意図が分からなかった風斗だが、しばらくして気が付いてしまった。
そう、光月ルナは吸血鬼である。吸血鬼ということは、昼間は基本的に眠っている。
辺りを見回して、今の時間を確認する。
午前11時21分。
吸血鬼が起きているわけがない時間だった。
「……夜まで投稿はやめておこうか」
「うん、だね……」
スマホを取り出した満だったが、そっとポケットにしまい直したのだった。
「……キャラ作りがネックになるとはなぁ」
「そうだね」
「やっぱり、世貴にぃと羽美ねぇにメールしておいた方がいいか。満の使うアバターの生みの親だから、何かアイディアくれるかもしれないしな」
「うーん、そうするかな」
完全に行き詰った感のある満は、風斗の意見にやむなく同意することにする。
しまい直したスマホを取り出し、ポチポチと世貴と羽美に対して送るメールを認め始める。
メールを送信して、ひと息ついた時だった。
「はーい、君たち暇かしら?」
「誰だ」
突然、声を掛けられて顔を上げる満と風斗。
その眼前には、にこにこと笑っている年上の女性が立っていた。見た感じは女子高生と思われる。
「なんか話の内容が気になったから、つい声かけちゃった。悩みがあるのなら、私でよければ聞くよ」
満たちに声を掛けてきた目の前の女性は、一体何者なのだろうか。
急な声掛けに、満も風斗も警戒の目を女性に向けていたのだった。
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