第24話 乗っ取り配信
久しぶりに香織と話をした気がする満は、今日もゲームの実況プレイを配信するために準備をしていた。
『本日21時より、ゲームの実況配信を行います』
SNSにそう書き込んで準備を始める満。
ところが、いざ始めようとした時だった。
『ほほう、ならば今宵は妾が遊んでやろうぞ』
「えっ?」
『ゆえに、そなたは少し休んでおれ』
頭の中に声が響き、満は突如として苦しみだす。
そのまま意識を失って倒れてしまった満だが、しばらくするとすくっと立ち上がって何事もなかったかのように動き始める。
ただ、その様子が何かおかしい。
見慣れた機械をまじまじとした様子で見ているのだ。
「ふむふむ、これがもーしょんきゃぷちあとかいうやつか。こっちがいんかむというたかな」
よく見てみると、満の姿は使っているアバターのような姿になっていたのだ。そう、先日の学校のように変身してしまっていたのだ。
だが、言葉遣いがおかしい。
「ふむ、この体にもなじんできておるな。寝ていない状態でも、強制的に意識を奪えるか。満には悪いが、今日のところは妾のわがままにつきおうてもらうぞ」
どうやら、満の中に入り込んだ吸血鬼が、意識を乗っ取ってしまったようなのだ。
配信を行うための装備を身に着けていく吸血鬼ルナ。満が配信を行う様子を何度となく見ているので、その動きには迷いがない。
「問題は言葉遣いだな。妾の喋り方と、満の作った喋り方は似ても似つかぬゆえ、そこは苦労しそうだな」
配信の準備を整えた吸血鬼ルナは、乗っ取っておきながら今さらながらに考えている。
だが、配信の予定時間は刻一刻と近付いていた。
「まぁ、なるようになれというものだ。そうやって妾は生きてきたのだからな」
落ち着かせるように深呼吸をする吸血鬼ルナ。
時計は間もなく21時だ。
配信前だというのに、すでに待機リスナー数は1万にも上ろうとしていた。
「ふむふむ、大体は満の配信を見ておったから、それを真似れば問題なかろう。時間ゆえに、始めるとしようか」
時計が21時を指し示す。
吸血鬼ルナは満がしていたように配信開始のボタンをクリックして、ライブ配信を開始した。
「おはようですわ、みなさま。光月ルナですわよ」
『おはよるな~』
『おはよるなー』
表記ゆれはあるものの、すっかり統一された挨拶が返ってくる。
ひとまず、スタートはいいようである。
(むう、今まで生きてきた中で、これだけ緊張したのは初めてやもしれんな)
吸血鬼ルナが緊張を覚えているようである。
「本日の配信でございますが、先日配信しました『SILVER BULLET SOLDIER』の続きをプレイしようと思いますわよ」
『おお、またやるのか』
『ktkr』
『wktk』
『吸血鬼が銀の弾丸ぶっぱですか』
ゲームのプレイ実況を告げると、リスナーたちが一気に騒ぎ始める。
それもそうだ。光月ルナは吸血鬼のアバターであるし、その姿で銀の弾丸を撃ちまくるのだから。絵面としてはこれ以上ないミスマッチなのだ。
「僕も以前よりは腕を上げましたわよ。先日よりはいけると思いますので、とくとご覧あそばせ」
『期待age』
『ルナちの絶妙な銃捌きを見てみたい』
リスナーたちも大盛り上がりのようだ。
ルナはゲームへと画面を切り替えて、ストーリーモードの続きを始める。
「この吸血鬼たる僕に逆らう眷属など、すべて銃弾の錆にして差し上げますわよ」
ルナもノリノリになってきているのか、流れるように満の口調の真似ができている。
『いけーっ、ルナち』
『でも、まだ第二章だぞ。ここはまだ慌てるような話じゃない』
『チュートリアルで心折ってくるようなゲームだぞwww』
「ご心配なく。一時間でこの第二章を終わらせてみせますわ」
『おお、すごい自信だ』
『なんだろう。今日のルナちならいける気がする』
リスナーも大盛り上がりの中、ルナは第二章のプレイ実況を始める。
満ではないと悟られないように言葉には気をつけながらも、なんとノーミスで第二章を突破してしまった。
さすがにちょっと素の言葉遣いが出た時に、リスナーに指摘されて動揺してミスりかけた以外は、まったく危なげのないプレーだった。
『おお、すげぇ』
『ノーミスじゃん』
『あれからたったの二日だぞ。一体何があったんだ』
「猛特訓のかいがありましたわね」
適当に言ってごまかすルナだった。
「それでは、お時間もよろしいようですので、今日はこれでお開きと致しましょう。それではみなさま、ごきげんよう」
『おつるな~』
『おつるなー』
配信終了をクリックして配信をお合わらせた吸血鬼ルナは、椅子に座って大きくため息を吐く。
「なんともまぁ、配信というものは疲れるものだ。よくこんなものを行えるものだな」
吸血鬼とはいえど、慣れないことをすれば相当に疲れるようだった。
「だが、楽しくなる気持ちも分かったというものだな。満よ、これからも妾を楽しませておくれよ」
自分の胸に手を当てながら、吸血ルナは自分の中の満へと語りかけたのだった。
「さて、食事を済ませて夜中の間に満に体を返さねばな。それに、先程のことも話をせねばならぬからな」
吸血鬼ルナはモーションキャプチャを外すと、食事をするためにこっそり窓から外へと飛び去っていったのだった。
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