第23話 幼馴染みのやり取り
翌日学校にやって来た満。
「よう、満。昨日の見たぜ」
「ああ、風斗。見てたんだ」
「当たり前だろ。お前が憧れてる真家レニの配信だぞ。見ないわけがない」
満の首をしっかりと掴みながら、風斗は満に話し掛けている。
「真家レニ?」
聞き慣れない言葉に反応した香織が、二人に近付いてくる。
「ああ、有名なアバター配信者だよ。FPSタイプのゲーム配信と、とんでもないお絵かきテクニックを披露する美少女タイプのアバター配信者だ」
「美少女……」
香織は首を傾げながら呟くと、どういうわけか満の方を見ている。
「なんだ、花宮も気になるか?」
「えっ」
風斗にツッコミを入れられて、香織は驚いたような顔をしている。
「動画配信サービス『PASSTREAMER』ってサイトで『レニちゃんねる』ってのを検索すればいい。こいつもファンなんだからな」
「わわっ、風斗。何言ってるんだよ」
風斗があまりにもさらっと話すので、満はとても慌てふためいている。
ところが、話を聞いた香織はものすごく真剣に考え込んでいるようだった。
「パストリーマーね。……うん、覚えたわ」
そうとだけ呟くと、香織は自分の席へと戻っていった。
「何だったんだ、一体」
「僕が分かるわけないだろう。まったく、なんでそのことを話しちゃうんだよ、風斗は」
首を捻る風斗に、本気で怒る満。美少女アバター配信者を気に入って見ているなど、他人に言いふらされたくないのだ。
ところが、怒られている風斗は悪いというような表情はしているが口元は笑っている。
そう、満の反応を楽しんでいるのだ。
実は、満と風斗と香織は幼馴染みである。小学校の6年くらいからだろうか、香織は女子と絡むようになってすっかり疎遠になっているが、それでも幼馴染みである。
満としょっちゅう一緒にいる風斗だが、実は二人のある共通点について気が付いている。それは何かといったら、お互いに時々視線を送っていることだ。
満はほとんど風斗と話ばかりするし、香織も香織で女子とずっと話をしている。なのに時々視線を送っては、相手に気付かれて慌てて顔を背けるということが起きている。
(早よくっつけ)
これが風斗の正直な気持ちである。
二人揃って奥手なくせに、それっぽい雰囲気を醸し出されているので、ずっと見せつけられている風斗のメンタルはかなりやられている。
どうやって焚き付けようかと考えてはいるものの、下手をすると友人関係も壊れそうなので、風斗も風斗で歯がゆい思いをし続けているのだった。
(真家レニの一件でうまく進展するといいんだがな……)
「風斗?」
「いや、なんでもない。それより満。次のアイディアは出てたりするのか?」
風斗は考え込んでいるのをごまかしながら、満に次の予定を確認する。
「うーん、これといって何もないかな。もう一回『SILVER BULLET SOLDIER』の実況配信をして、それから考えようかと思ってる」
「そっか。まぁ無理はしない方がいいだろうな。真家レニの一件で登録者数が爆増したばかりだ。少しは慎重になった方がいいかもな」
「うん、世貴兄さんと羽美姉さんにも相談してみる」
ここでちょうどチャイムが鳴り響く。満と風斗はそれぞれ自分の席へと戻り、朝のホームルームが始まったのだった。
―――
放課後となり、帰宅する香織。
親から買い物を頼まれたりと、バタバタを過ごした香織。ようやく落ち着いたかと思うと、スマホを取り出して風斗に言われたサイトにアクセスする。
PASSTREAMER……
全世界で二十億ともいわれるアカウント数が存在する大規模な動画投稿サイトである。
視聴自体はアカウントを持っていなくてもできるらしいので、早速香織は『レニちゃんねる』を検索する。
(うわぁ……)
チャンネル登録者数で思わず声を上げてしまう。
その数は現在十三万人。
素人である香織には、その数が多いのか少ないのか分からない。
(この人が空月くんの憧れかぁ……)
くりっとした丸い目に、口からのぞく八重歯。全体的に活発そうなイメージのキャラ造形に、思わず香織も息を飲んでしまう。
満がファンだという相手を知るために、動画を片っ端から見始める香織。
一つ目の動画を見た時から、香織は思わずその等身大の少女といった配信に引き込まれてしまう。ついつい時間を忘れて動画を見ていってしまった。
ひと息つこうとふと時計に目を遣ると、時間は既に夜の12時を回っていた。
「あわわわ、つい見すぎちゃった……。でも、空月くんってこういうのが好みなのかぁ……、うーん」
もう寝る時間だというのに、香織はうんうんと唸り始める。悩みながら、ふとレニちゃんねるのフォロー先のチャンネルの一覧が目に入る。
気になった香織はちらちらとその一覧を見ていく。その中で、とある名前のアバター配信者で目と手が止まった。
「光月ルナ?」
つい最近にフォロー一覧に放り込まれたアバター配信者である。
ところが、どういうわけかこの名前に香織は強く引かれてしまった。
(なんとなく、空月くんに名前が似てる?)
そう、理由はどことなく満のフルネームと似ているからだった。
そこからの香織の行動は早かった。あっという間にアカウントを作り、真家レニと光月ルナのチャンネルを登録してしまったのだ。恐ろしく速い行動。作者でなければ見逃していた。
気になるところではあるものの、さすがに時間は遅く、香織は先程からあくびを連発している。
「また明日にしようっと」
香織は電気を消して布団へともぐりこんだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます